魔法少女神殿
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魔法少女神殿。それはシアノさんの先代——つまり勇者の先輩が眠る聖地であり、端的に言ってしまえばお墓とのこと。
その辺のお話はお聞きしたのですが、私が引っかかる部分、魔法少女神殿という名称についての情報は、シアノさんも持っていませんでした。
魔法少女神殿という名前を聞いてから、ピンボケさんは考え込んでいるようで、無口になりましたけれど、特に私の生活に支障はないのでスルーしています。
「シアノさん、目的地はもうすぐなのですか?」
今は昼間の移動時間。私はシアノさんの少し前を歩きながら、やや振り向くように視線を送り
「うん、あと少しだよ。でも、場所はわかるけど、どこにあるのかわからないんだよ」
「はい?」
場所はわかるけれどどこにあるのかわからない。そんなことあるのだろうか?
「場所がわかるのなら、どこにあるのかも必然的に判明するのでは?」
透明だったりしない限り、判明するはず。
「そもそもどこにあるのかわからないのに、どうして場所が判明しているのですか?」
「クウキと旅する前に、わたしも一人旅して調べたの」
どうやらシアノさんは、私とパーティを組むまで自殺未遂を繰り返していたわけではなく、ビビリはビビリなりに勇者として使命を全うしようと、勇者にまつわる伝承を集めていたとのこと。
その中のひとつが、私たちが向かっている魔法少女神殿。
「魔法少女神殿の場所はわかったんだけど、他の聖地の場所はまだわからなくて、だから先にわかっている場所から向かってみようと思って」
「それはとても賢い選択ですね」
てか魔法少女神殿だけが聖地ではないのですね。複数の聖地が存在している、と。なーんだシアノさん、なんだかんだで勇者として頑張る努力もしていたんじゃないですか。
偉い偉い。押し付けられた勇者なのに。ある意味被害者なのに。
途中でシアノさんが自殺未遂をしている事実はスルーしておきましょう。私の優しさでスルーしておきましょう。
「にしても、シアノさん良く生きて旅を出来ましたね」
戦えないのに。魔物と遭遇したことだってあったでしょうに。
「わたし、昔から運が良いというかなんというか……死にそうとか死にたいとか、命が危険な状況になっても生き残っちゃうんだよね……」
「豪運なのですね」
神から愛された——と思えば勇者っぽい。
あるいは潜在魔力の恩恵ですか。シアノさんは無限に魔力を作れるので、無意識のうちになんらかの魔法が発動している可能性もなくはない。本人はそのポテンシャルに自覚がないようですが、周りに言いふらす必要はありませんし、私も他言するつもりはありません。
ひょっとすると、瀕死になると勝手に防御力を最強に上げるバフとか掛かってるかもですね。知りませんけど。
今日は魔物との遭遇はなく、てくてくと歩を進めて行きますと、
「この辺りなんだけど……」
と、シアノさんが立ち止まり、辺りをキョロキョロ見渡しました。
「なにもありませんね」
草原からスタートした私の歩みも、気づけば荒野に突入していて、見渡す限り地面とちょっとした岩くらいしかない。
あと水たまりがあります。この辺では昨晩に雨でも降ったのでしょうかね。
「……………………」
いやおかしい。水たまりがおかしい。
もし昨晩雨が降ったなら、荒野を歩いて来たのですから地面の具合で気づきます。私の性格上、ぶつくさ文句を言っている可能性が高い。
なのに道中、ぬかるんで歩きにくいことはなかった。
だってカラカラの地面を歩いたのですから。
「水たまり……なんで水たまり……?」
しかもここだけ。ひとつだけポツーンとある水たまり。
明らかにおかしい。アホみたいに不自然過ぎる。
「よおーし。なるほどなるほど」
不自然過ぎるということだけ判明しました。他不明。
こんなときこそ、ピンボケさんに頼りたいところなのですが、シアノさんの前では頼れませんし、ピンボケさんは考え込んでいるからそもそもダンマリなので、頼るに頼れません。
「つまり名探偵空姫ちゃんの出番ってことですか……ふふ」
「クウキ名探偵なの!? 凄いなあ!」
ちょっとした嘘に食いつかれると、引き返せなくなる。
だから嘘は辞めようね、私。
「シアノさん。この水たまりを見て、なにか思うことはありませんか?」
しかし一度吐いた嘘は貫くのがこの私。出発が嘘でも着地が真実なら問題ないのです。
「うーん……水たまりだよね? 普通の」
「普通の水たまりがなぜポツーンとあるのです?」
「た、確かに!? なんでなの!?」
「わかりません!」
「わからないの!?」
わかるわけないでしょう。全知全能でもあるまいし。
「わからないから、調べるのですよシアノさん」
「おおっ! 本当に名探偵っぽいよクウキ!」
「ふふん」
名探偵ではないのですけどね。魔法少女です。
「……………………あ」
閃きました! 魔法少女神殿という場所なのですから、魔法少女が鍵になるのでは???
ということで変身。見た目の変化ゼロの変身。
「てやー!」
そして水たまりにパンチ。水しぶきが飛ぶだけでした。
「なにしてるのクウキ!?」
「殴れば神殿が出てくるかと」
「致命的なパワー思考だね!?」
「ううむ」
いけると思ったのですがいけませんでしたか。
散らした水たまりでちょっと虹が掛かりましたけど。
「おや?」
虹。虹を見るために見上げた。
空。上空。遥か高い場所。
「あの雲……」
水たまりがあった場所の遥か上空にある雲。
晴れ渡る空に、一ヶ所だけ存在している雲。
「あの雲の上にあったりしませんかね?」
雲を指して、私はシアノさんに問いかけました。
「ど、どうだろう……あったとしても、行く手段が」
確認する手段も——と、シアノさんは言いました。
「飛行できれば余裕なのですけどねえ」
が、私は少女は少女でも魔法少女です。
飛べませんけど、跳べる魔法少女です。
「シアノさん、捕まっててください」
私はシアノさんを抱っこして(お姫様抱っこ)、思い切りジャンプ。全力で跳躍すれば、雲の上くらい余裕で届くのです。
「せーの、とーうっ!」
「うわああああっ!!! クウキ高いよ!? 死んじゃうよおおお!?!?」
自殺未遂の前科がある癖に、しがみついたシアノさんは涙声で叫ぶしガン泣きです。
「生にしがみつく人間の泣き声じゃないですか。良いことです」
「あああああ……した……が、遠くになっていくよ……うわーん!」
「ちょっ! 暴れないでくださいよシアノさん、今落としたら犯人私になっちゃうんですから」
「ご、ごめんなさい……迷惑掛けないように頑張るから落とさないでええええ——っ!!?」
「落としませんって」
やれやれ。本当にやれやれですよ、まったく。
泣かせるのも可哀想ではありますが、残念ながら跳躍してしまったので途中下車は出来ません。途中下車イコール落下です。
勢いよく上昇した私たちは、雲の高度に少しだけ勝り、そして、
「うわ、ありましたよ」
と。雲の上にそびえ建つ、神殿を発見したのです。
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