3


「僕が魔法少女だったのは、軽く百年以上も前のこと。


「空姫さんはまだ生まれてるわけないよね。


「空姫さんのお母さんだって生まれてないしね。あはは。


「さてさて。さてさてさて。


「この神殿——そう、魔法少女神殿。


「あ、お墓ってことになってるんだ、へえ。


「でも先代勇者の遺体なんて眠ってないよ。ごめんよー。


「その代わり——僕A子が良いことを教えちゃう。


「良いこと——あるいは悪いこと。


「どちらにせよ、空姫さんがこの世界に来た理由は判明するよ。


「判明させてあげられる答えを持っているからさ、僕は。


「良かったね——って言っていいのかわからないけども。


「この世界——空姫さんにとって、この謎の世界。


「世界の名前は『マデューリンド』。惑星名『マーデル』。


「どちらの名前も空姫さんは興味ないだろうけども。


「まあ、知らないよりはマシって情報さ。


「肝心なのは、この惑星のこと。名前ではなく惑星のこと。


「異世界——あるいは異星。


「それがきみの相棒——ピンボケさんの見解だろう。


「正解ではあるよ。ちょっと惜しいけど。


「大正解は、地球の後継惑星。


「端的に言うなら、第二の地球。


「地球はどうなったかって? それはね。


「地球は爆発したよ。今きみたちが居る時代から、およそ六百年ほど前に。


「残念ながら、惑星の寿命ってやつさ。仕方ないことだ。


「そして誕生したのが、その惑星『マーデル』。惑星年齢はまだ五百歳ほどだから、若い惑星だね。


「わかりやすく言うなら地球の弟だ。妹かもしれないけど。


「その惑星の位置を調べれば真実だとわかるよ。


「あとでピンボケさんに調べてもらうといい。


「きちんと太陽系だから。ウケるよね。


「ウケてないかあ……まあそうか、そうだよね。


「よし、切り替えて。


「きみがそこに居る理由を話そう。


「空姫さんがそこに居るのはなぜか。


「なぜ地球から、地球ブラザーとも言える『マーデル』に転移しちゃったのか。


「細かく言うなら転移というかタイムリープだけどね。


「ややこしいから転移ってことにしておくよ。


「転移の原因——それはきみの力が強すぎたからだ。


「理由は単純だが、納得いかないよね。わかるよ。


「魔法少女の上限。きみも知っているよね?


「そうそう。魔法少女は時代に一人ってやつ。


「一人。確かにきみは一人だ。ずっと一人で戦ってきた。


「かくいう僕も同じく一人だった——が。


「世界の上限を超えてしまったんだよ。単体でね。


「だから世界から弾かれた。仲間はずれと言っても差し支えはない。


「つまりきみは、強すぎたゆえに見放された。


「ウケるよね。いや、ムカつくよね。


「そういう魔法少女は稀に現れるんだ。僕もその一人。


「だからこの世界に飛ばされた。きみたちより遥か前にね。


「僕の魔法は特殊でね、未来を読めるんだ。


「本にして読めるんだよ。未来を。


「だからきみとの会話は、本に書かれた未来と照らし合わせて話しているんだ。


「なので、誤差がしょうじてるってわけ。ご愛嬌。


「この神殿を造ったのも、きみと話すため。


「きみと会話するためだけの神殿。


「伝えたいことは二つ。


「一つはさっき話した、飛ばされた理由。


「もう一つは、勇者のこと。


「勇者——今も塞ぎ込んで震えている、ユーシアノさん。


「その勇者をどうするかで、世界の舵は大きく変わるから。


「おっと。過去の僕が未来のきみたちに言えるのはここまでだ。


「未来を左右する発言ができるほどの人間じゃないしね。


「それに——あと二分でその神殿は崩れる。


「そして、お客さんが来るよ。


「崩れた瞬間に。黒いローブの人物が来る。


「招いてないけどね、僕は。


「勝手にやって来る。その黒ローブは勇者を狙っている。


「どうするかは、きみに任せるよ。


「なんたって僕はもう死んでるしね。このホログラムは遺品さ。


「僕から後輩魔法少女へのメッセージ。


「身勝手なメッセージでごめんだけど、これだけは言わせて欲しい。


「魔法少女として——どんな世界でも平和を任せたい。


「魔法少女にしか頼めないから、こんな形でのメッセージを許してくれ。


「もちろん、受け取るも捨てるも空姫さんの自由だ。


「世界を救う力があっても、救わなくてもいい。


「たしかきみはそう言っていたね。


「その考え僕は大好きだよ。僕は支持する。


「だからこそ——きみに託すことにしたんだ。


「世界を救う力があったら、救ってしまうきみに。


「あと一分。じゃあ僕はそろそろおさらばするよ。


「僕A子の魔法少女としての役目は終わった。


「きみに託す——それしかできない僕でごめんよ。


「本当なら一緒に戦いたかった。でも、時代がそれを許してくれない。


「また会える日は来ないから、これでさよならだ。


「グッバイ、空姫さん。でもまた会えたら良いね。


「どうかきみに、最高の未来が訪れますように」

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