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雲の上に神殿。さすが異世界ファンタジー!!!
「すごいすごいすごいです! 雲の上に立てる日が来るなんて思ってもみませんでした、すごーいヤッター!!」
雲の上に立つ。その行為が私のテンションを上げました。
「く、くくくくくくくもの……うえ……ひいいっ!」
「シアノさん、暑苦しいので離れてくださいよ」
「は、はははは離れたらおち、落ち落ち落ち……っ!」
「落ちませんから。そもそも私が落ちてないんですから落ちるわけないでしょう」
「わたしだけ落ちる可能性もあるよね!?」
「ありませんよ。あなた豪運だって言ってたじゃないですか」
「わたしの場合、落ちてもちゃっかり生き残るタイプで、だから落ちてからの運が強いんだよお……っ!」
私にしがみついて離れない勇者は、ずっとこの調子でビビリまくってますけれど。
もうこのまま引きずって神殿にカチコミましょう。雲の上に立っているだけ、ってのも飽きましたし。
「……なんか……あれですね」
神殿内部に踏み込んだ私——とシアノさん。
まずもって、内部の感想を述べさせていただきますと、
「張りぼて……?」
でした。外観は見事な神殿。それはもう年季のこもった偉大な建築物——って感じの雰囲気丸出しの神殿だったのですけれど、いざ中に入ってみますと、スッカスカ。
「何もないですよ、この神殿」
椅子も机もない。なにせ床は雲なので、本当に外観だけの張りぼてなのです。
なにこれ。映えを意識して見栄張った感じなんです?
この世界に映えを意識する文化あるんです?
「シアノさん、ここ本当にお墓なんですか?」
鬼籍なんて見当たりませんが。ガセネタなんじゃ……。
「え、でもわたし……きちんと情報屋に聞いて……」
「その情報屋さんの人がどんな人なのか興味ありますけれど、それはさておき。お墓なんてありませんけど」
「うう……で、でも神殿はあった!」
「見た目だけの、ですけどねえ」
「ち、ちちち、地下室とか……?」
「床は雲ですけどねえ」
「屋根裏……とか……」
「裏がなさそうな天井ですけどねえ」
「…………情報もろくに集められないゴミッカスでごめんなさい。帰りは自力で飛び降りるから許してください」
あーあ。偽情報(暫定)を掴まされたことで、シアノさんが面倒くさいモードになっちゃった。フォローも面倒なので、私は神殿内部をぐるっと一周。
なーんにもなーーーい。
謎のスイッチとかもなーい。ギミックゼロだー。
「まっテ空姫」
と。私が一周しても何も発見できずにいると、胸元の安全ピンが久しぶりに声を上げました。
「えっ!? なに今の声……っ!? お、おおおおおおばけ?」
何も知らないシアノさんは、お化けと勘違いして頭を抱えて塞ぎ込んでしまいました。耳も塞いでいるので、私は私でピンボケさんにお返事すると致しましょう。
「ピンボケさん、喋っちゃダメでしょ。めっ」
「そんな可愛い感じにオコらないでヨ」
「そもそも怒ってませんしね、私。んで、なんですか?」
「空姫、神殿の真ん中に立っテみテ」
「真ん中ですか?」
言いながら、私は神殿内部のセンターに立つ。
やはり私はセンターの器に相応しい——というわけではないようです。
「そのまま、床を打ち抜いてミテ」
「パンチで? キック?」
「どっちでもイイヨ」
「じゃあ頭突きで」
ズボッと。頭を雲の床にめり込ませ、私は床を打ち抜きました。頭よりもやや大きな穴が雲にあき、地面が見えます。
「これでどうするの?」
まさか地面を眺めてみよう、ってわけではなく、ピンボケさんが答える前に、どうやら神殿に動きがありました。
とはいえ、揺れたりすることもなく。
動いたのは、神殿ではなく穴。私が打ち抜いた穴です。
穴は私の下から移動して、神殿の奥へ。
そして、穴から光が広がります。
「なにあの光?」
私が呟くと、光は形を変え、人の形になりました。
人——もとい少女。
その光から出てきた少女は、驚くことに私のよく知る格好——着物姿の少女だった。
「あなた、誰です……?」
光の少女に問いかける。
若干の静寂。シカトされたわけではなく、光の少女は辺りを見渡し、状況を見極めようとしている——のだろうか?
「こほん!」
「うわびっくりしたあ!」
急に咳払いしないでほしいです。普通にびっくりしちゃってちょっと恥ずかしいじゃないですか。
「やあやあ、初めまして。僕の声が聞こえているね。聞こえていなくても聞こえていると判断して話し続けるけれど」
「自分勝手な人ですね」
「あはは。きみは僕を自分勝手だと呆れるんだろうね、知っているよ」
「言いましたからね、私が」
「言いました——と。きみは言う」
「ピンボケさん、穴から痛い人が出てきました、どうしてくれるんですか?」
私がピンボケさんにそう言うと、しかし少女は気にする素振りも見せずに言った。
「改めて、初めまして——
「……私、名乗ってませんよね?」
「名乗ってませんよね、と。空姫さんは言う」
「そのうざったい喋り方、どうにかした方がいいんじゃないですか……?」
ちょっとイラつく。あくまでちょっとですけど。
「ごめんね、気分を害するつもりはないんだよ。ただ、僕も確認作業をしながら喋らないとだから、少し我慢して欲しい」
「……はあ?」
「はあ、と。うん、了承ありがとう」
いや疑問符付いてただろ——とは言わないでおきましょう。
優しさですよ、私の優しさ。
「さて。ここにやって来た空姫さん、そしておそらく耳も顔も塞ぎ込んで震えているユーシアノさん。とりあえずお二人に残念なお知らせだ」
この少女、ひょっとして目が見えていないのでしょうか。なんだか話し方からそう感じるのですが。
「僕の目は見えているよ、ご心配ありがとう、空姫さん」
「心読むのやめてもらえます?」
なにさらっと心読んで来てんだこいつ。プライバシー知らねえのでしょうか。
まあいい。話が逸れるのは本意ではないのでスルーしましょう。
「で、謎の少女さん。残念なお知らせとは?」
「あ、そうか。僕の名前を言わないと——ああでも、僕自分の名前嫌いだから、そうだなあ……とりあえずA子と呼んでくれ」
「はいA子さん。残念なお知らせとは????」
早く言えよ感が否めませんね。残念なお知らせがどの程度残念なのか早く言ってください。
「あー、非常に申し上げにくいけれど」
そう言ったA子さんの口調は、とても申し上げにくいこととは思えない感じでしたが——続けられた言葉は本当に残念なお知らせでした。
「この神殿、あと七分で壊れるんだ」
「残念過ぎますって、そのお知らせ!」
「だからあと七分で伝えることを伝えて、この神殿はお役御免ってことなんだ」
「微妙に会話が噛み合わない人ですね……」
「微妙に……あーうん、そう誤差はご愛嬌にして。なんたって空姫さんの目の前にいる僕A子は、事前に録画したホログラムだからね」
「……は?」
「あと六分。駆け足になるけれど、時間もったいないから話すよ」
「……………………」
言いたいことは山ほどある。富士山とは言わずとも筑波山くらいは言いたいことがある。
でも、あと六分でこの神殿が崩れるらしいので、得られる情報は得たい。賢い私は、A子さんのお話に耳を傾けることにしました。
「僕はA子。空姫さん、きみと同じ魔法少女——いや、元魔法少女と言うべきかな」
なんたって——と。A子さんはにこやかな口調で淡々と言葉を続けました。
「僕が魔法少女やってた時代から、軽く百年以上も経過しちゃってるからねー」
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