4


「追記。さらに知りたいことがあれば、僕の相棒を探すといい」


 そいじゃばいばーい——と。めちゃくちゃ明るいテンションでホログラムは終わり、映像は消えてしまいました。


「その相棒とやらの場所を教えて消えてくれれば良いのに」


 どうせなら教えてから消えろよ感は否めない。


 とは言え——なかなかの情報を頂けましたね。


「世界の上限ですか……まったく」


 勝手なリミッターですねえ。こちらからは限界が判明せぬまま、超えたら警告も無く強制退場ですか。


 やり口がムカつく。お知らせくらい寄越せっての。


「A子さんからも、重めの期待をされてしまいましたし」


 世界を救える力があれば、救ってしまう私に——ですか。


 やれやれ。はなはだ重たい期待と信頼ですよA子さん。


 私は世界を救っていた自覚がないんですよ。世界を救うという目的で魔法少女をやっていませんので。


 いて言うなら『ついで』に、それで結果的に、ちゃっかり世界も救っちゃってた私です。力があったから救っていたわけじゃあないのですよ、まったく。


 まあ、他の人から見れば、世界を救っていたように勘違いするのも無理はありませんけどね。勘違いされても迷惑でもありませんし、私としては都合の良い勘違いをしてくれたと思うくらいですけども。


 私が自分で明確に否定しない限り、私に対するイメージがプラスになりますし、勘違いしてくれてラッキー、って感じですね。


 これこそ言わなくてもいいこと、なのです。えへへ。


「おっと……そろそろ神殿崩壊のお時間ですか」


 ひとまず崩壊に備えることにします。


 備えると言っても、さすが先輩魔法少女のA子さんは、私たちに被害が及ばないように崩壊させてくれたようで、備えるもなにも、棒立ちしているだけでも私、そしてシアノさんに被害が及ぶことはありませんでした。シアノさんは備えるどころかずっと塞ぎ込んでますけどね。


 きっと顔を上げたら驚くんでしょうねえ。神殿の崩壊に。


 そのリアクションは、ちょっぴり面白そうなので見てみたいとは思いますけれど、残念ながらそれを楽しむのは先になりそうですね。


「よくいらっしゃいました、謎の黒ローブさん」


 崩壊した神殿の天井——いや、天井も無くなったので、雲の上から見上げる空に、その人物は浮いていた。


 A子さんが言っていた、謎の黒ローブ。シアノさんを狙っているという、謎の人物。


「ほう、こちらに気づくのがいささか早いな」


「優秀ですからね、私」


 嘘は言ってません。優秀過ぎた結果、世界から仲間はずれにされた経緯があるらしいですし、嘘じゃないですもん。


「神殿を壊したのは、きみかい?」


「さあ、どうでしょうねえ」


 確かめてみますか——と。私は拳を突き出し、軽く挑発。


 仕掛けて来たらカウンターでぶち込む。来なかったら様子を見る。どちらにせよ、主導権は握らせていただきます。


「きみとやり合うつもりはない」


 仕掛けて来ませんか。手っ取り早くぶん殴って終わらせたかったのですが、致し方ありませんね。


 黒ローブの言葉に、私は拳を下ろしました。拳を下ろしても警戒は引き続き解きません。


「そこの勇者をこちらに渡しなよ。そうすれば命だけは見逃してあげるから」


 空に浮かぶ黒ローブの人物が、私に向かってそう言いました。


 私の隣には、黒ローブにご指名されました勇者が全身を塞ぎ込んでブルブル震えています。残念ながら勇者を戦力とカウントするのは無理です。


「さあ、早く寄越しなよ」


 空に浮かんで手招きをしてくる。偉そうに。


「勝手言ってくれますねえ。まずもって、あなたがどこの誰だか存じませんけれど、そもそも私の命をあなたは見逃す立場にあるとお思いですか?」


 黒ローブの力量は不明。ですがここで引き下がることはできません。戦力にならない勇者であろうと、私にとって必要不可欠な勇者なのです。


 ついでに、空に浮かんで偉そうな口調で話す黒ローブが気に食わない。端的に言えばムカつく。


「きみのような小娘が相手になるなんて、到底思えないからね」


「では思い直せと言う前に思い知らせてやりますかね。私の実力」


 私の挑発に、黒ローブはどこからでも来たまえ——と、そう言わんばかりに両手を広げました。フードを深く被っているので顔は見えませんけれど、絶対バカにされてると思います。


 生意気ですね。ムカつきますね。前歯へし折ってやりましょうかね。


 先刻、この世界に来た経緯が判明したばかりですし、せっかくなのでその八つ当たりも込めて、ぶちかましてやりましょうか。


「記憶しておくことをオススメしますよ」


 そう枕を置き、私はこれからどう生きていくのかを宣言しました。


「私は勇者ではありませんが、勇者の剣。ええたった今そう決めましたとも。勇者に手を出すと言うのなら、私の敵になる覚悟決めて——歯を食いしばれスカシ野郎っ!」


 私は全力を込めた跳躍で跳び、黒ローブの顔面目掛けてジャンプ。


 勢いそのままに、握りしめた右拳を突き出す。


「あれま?」


 が——私のパンチは黒ローブをすり抜け、ヒットすることはありませんでした。


「へえ、なかなかの威力。どうやらチカラはあるようだね」


 私は飛べないので、落下しながら言葉を投げる。


「残念です。前歯を粉々にするつもりでしたのに」


 幻影魔法のたぐいでしょうか。幻を見せるだけの魔法。


 そんなことして人前に出てくるなんて、陰気な奴です。


「今日のところは引いておくよ」


「逃げるんですか?」


 ようやく着地。私の跳躍力すご過ぎて自画自賛。


 着地してこっそり安堵したのは、雲の床が抜けなくて良かったことです。


「この姿では、きみと戦えないからね」


「なら次は本体で来ると?」


「さあ、どうだろうねえ?」


 ふふふふ——と。不気味な声を残して、黒ローブは煙のように消えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る