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「おい。色々おい」


 黒絵さんの記憶——黒絵さんの一人称視点でのバトルの記憶を拝見しましたけれど、言いたいことしかないんですけど。


 でもとりあえず、これだけは言いたい。この文句だけは言わずにいられません。


「憑依を自力でどうにかできた……ですとっ!?」


「あ、うふふ。バレてしまいましたわね」


「せめて悪びれてくださいよ! いや悪びれろっ!」


「なかなか浴びないツッコミですわね。悪びれろって」


 私の初キスを、こんな嘘つきにくれてやってしまったのかと思いますと……後悔がえぐいです。返せ私の初キス!


「まあ空姫さま。わたくしも初めてでしたし、おあいこですわよ」


「あなたが本当に初めてという確証がないので、慰めとしては弱過ぎますからね? 嘘つきのくせに」


「うふふ。嘘を適切に使うのも、淑女の嗜みですわ」


「それ、初キスじゃなかった、って言ってるようなものですからね!」


「さあ、どちらでしょうか?」


「やかましいです!」


 なにが淑女だ。元暗殺者のくせに。


 暗殺者を引退してるのか知りませんけども。


 うふふ——と。黒絵さんは笑う。もうこの人が何を言っても嘘に聞こえてしまう。アサシン女に構うだけ無駄って気持ちが強くなってきますねえ。


「あらあら。そろそろ決着のようですわね」


 どうやらシアノさんのバトルが終わりそうらしいです。


 思えば私、シアノさんの戦闘全然見てなかったや……。


 黒絵さんのバトルよりもシアノさんのバトル見とけば良かったなあ、って今更思ってしまいますが、本当に今更ですね。


 切り替えて、決着くらいはきちんと目に焼きつけましょう。


「『本物になるつもりドッペルのない偽物フェイカー』」


 シアノさんのバトルを決着だけでもしっかり見ようとしたら、黒絵さんが能力を使い、レインボーな箱で黒ローブを閉じ込めてしまった——なんで!?


「なんでどうしてなんでなんでなんでっ!?!?」


 そのまま思ったことを声に出した私。そりゃ言うでしょ。


「そういう指示をいただいておりましたので」


 どうやら黒絵さんは、刻代さんから、シアノさんが敵の剣を飛ばしたら完全に無力化してくれとお願いされていたらしいです。


「お、おわったあ……」


 ふらふらでこちらに歩いて来たシアノさん。


「お疲れ様でした、シアノさん」


 普段戦闘をしなかったシアノさんなので、初の実戦で疲労困憊のご様子。


「ありがとうクウキ……あー疲れた……」


 その場にペタンと座り込み、刻代さんを背中の鞘に収納。


「シアノさん、剣術すごいじゃないですか」


 よく見てなかったけど。よく見てなかったけど、ちょっとは見ていたので。剣と剣をかちんかちんしてたくらいは把握しています。


「ううん、わたしのチカラじゃあないんだよ。トキヨがアシストしてくれたの」


「刻代さんが?」


 その言葉に刻代さんが答えてくれました。


「僕はこの世界の魔法を全て使える剣だからね。この世界の魔法は大したモノじゃないけど使い方次第で十分なアシストが出来るし、ユーシアノさんの魔力を使わせて貰って、僕が有効なアシストとアドバイスを送ってた、ってこと」


「刻代さん、この世界全ての魔法を使えるんですか……?」


 そんなサラッと発表して良いことじゃないでしょう……。


 まーたチート過ぎるって。ガチ無限魔力の持ち主が手にしたらダメな武器でしょそれ……。じゃあたぶんこのパーティ、もれなくメンバー全員が世界滅ぼせるくらいの個人戦力がありますよね、きっと。


「さて空姫さん。とりあえず話しをする前に、あの箱に閉じ込めた彼女たちを解放してくれるかな?」


 刻代さんからそう言われたので、私とピンボケさんで箱に閉じ込めた黒ローブさんたちを解放しました。シアノさんたちのフィールドだけじゃなく、黒絵さんやボロさんが戦った黒ローブさんも解放。


 さすがに人数が多過ぎて、私の魔力キャパではカンスト維持させても疲れちゃうので、ぶんどった術者権限はその場で私から無限魔力のシアノさんに譲渡しました。


 ボロさん以外の黒ローブさんたちの権限は、シアノさんに譲渡して、私の魔力容量を確保したのです。まあ確保しなくてもほぼ無限みたいなものなのですけど、疲れたくないですし。てへ。


 移動は黒絵さんが担当しました。私たちが移動したのではなく、箱の偽物を作って中身ごとこちらに位置交換したのです。ひとりぼっちは可哀想なので私とバトったウリルさんも強制転移です。


 解放した黒ローブさんたちは、やはり無気力状態になってしまいました。


「無理もねえ、道具を自負した姉貴たちに道具クビを宣告したみてえなもんだしよ」


 と、ボロさん。確かにその通りですね。ボロさんが本当に例外だったとつくづく思い知りますよ。


「ねえ、きみたち」


 無気力黒ローブガールズに、そう声を掛けたのは刻代さんでした。


「きみたちの目的が失われて、何もやることがないのなら、ぜひ僕たちにチカラを貸してくれないかい?」


 この言葉に返事をしたのは、私とバトルしたウリルさんでした。


「ちから、だと?」


「うん。きみたちは魔法そのものであり、今は人間の姿をしているが、でもその姿はきみたち次第で変えられるよね?」


「可能だ」


 ……え、そうなんですか? 話の腰を折るのも悪いので黙ってるんですけど、そうなんですか???


「なら、そうだなあ……指輪とかになれるかい?」


「わかった」


 そう言ったウリルさんは指輪になりました。


 指輪になりました、って。言ってる自分でも不思議な言葉ですね……。


 ウリルさんが指輪になると、残された三人もそれぞれ指輪になりました。


「その指輪さんたち、どうするんです?」


 元が人間の形をしていたから、なぜかさん付けしてしまう私。性格が良すぎるんですよねえ、私ってば。


「彼女たちには、大事な役目を任せたいんだ」


「大事な役目、ですか?」


「そうだよ。大事な役目さ」


「……………………」


 大事な役目の大事の内容を言えよ、ってすごく思いました。


 たぶんですけど刻代さんって、トーク下手ですよね……。


「さて、積もる話もあるけれど、ひとまず僕から、これからの方針を」


 そう言った刻代さんは、謎の魔法を使って紙を出し、私たち全員に配りました。プリントみたいな紙。日本出身者には日本語で書かれてますけど、でも書かれた文字が達筆過ぎてとても読む気になれない。


「おおよその内容はそこに記してあるから各自で読んで頂戴。んじゃチームわけするよー」


 チームわけ……?


 いきなり? 急展開というか急提案過ぎますって。


「いや刻代さん、進行が下手過ぎません?」


 MCとしての才能ゼロじゃないですか。


「あはは。進行が下手と言われても、時間ないからごめんよ」


「時間?」


「そう時間さ、チームわけをして、2チームにわかれてもらう」


 私の進行下手くそって発言は軽く流されて、刻代さんはチームを発表した。


「ユーシアノさんとナルボリッサさんのチーム。空姫さんと黒絵さんのチーム。それぞれわかれてこれから僕たちは——」


 戦争をとめまーす——と。刻代さんはご機嫌な口調でそう言ったのでした。

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