むかしむかし遠い未来に一人の少女がおりましたとさ
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戦争をとめまーす——という発言から十五分くらいでチャチャっと湖神殿の外に出まして、そこから私と黒絵さんはチームになり、シアノさんボロさんとは別行動になりました。
移動時間です。雑に言っちゃえば今は移動時間なのです。
「ピンボケさんさま、素晴らしい速度ですわ」
「でショー! ボクちゃんかっとびモード!」
ピンボケさんライド再び。ですが今回は前回の反省を活かし、なおかつ黒絵さんも乗せなければならないので、ちょっとした工夫をしました。
工夫といっても巨大化したピンボケさん——安全ピンの留め具じゃない方のグルグル部分に、程よく巨大化したサカヅキさんをカポッとしただけなんですがね。
気分的には遊園地のコーヒーカップ。タンブラーですけど。
速度による風圧は、私の魔法障壁で防いでいるので、トークするくらいは余裕で可能です。私偉い。いえい。
正面に黒絵さんが座っていて、私と黒絵さんの真ん中には偽物の口と耳があります。この偽物の口と耳は、刻代さんサイドと繋がっていて、話が全然出来ていなくて何をすれば良いのかわからないですし、ついでに渡された紙に書かれた指示が達筆過ぎて読みにくかったので、私がゴネて移動中に目的を教えてもらうことにしたのです。
「さて、僕になにが聞きたいかな?」
「そう言われると、聞きたく無いことを探す方が難しいんですけど……?」
「あはは、だよね」
「とりあえず戦争を止めるという意味について聞きたいです」
「そう言われても、言葉の通りなんだよねー」
「そもそも、この世界に戦争の危機とかあったんですか?」
いやまあ、世界を語るには私の冒険はまだまだ短く浅いものだとは思いますが、でも立ち寄った町などの雰囲気からは、戦争なんて物騒な気配は感じませんでした。
「獣人族とは会っているよね、たしか」
「はい。王都の服屋さんでお会いしました」
シアノさんの幼馴染と紹介された、バニカさん。
体毛が薄いから人間に見られがちというバニカさん。
そのバニカさんお一人しか会ったことないですけども。
「獣人族と人間に、壁があることは聞いているね?」
「えーと、たしか……」
バニカさんから聞いたのは、獣人は、むかーし人間の奴隷だった——とかなんとか。
「奴隷なんちゃらですよね?」
あまり深く尋ねていないので、これくらいしか知りません。
「そそ。奴隷だった獣人と主人だった人間——今の時代でもあまり良い関係とは言えないんだ」
「バニカさんが言ってましたね、そういえば」
人間の街で働いているのは自分くらいだ——と。バニカさんが言っていたことを覚えています。
「そもそも、どうしてこの世界に獣人が存在しているか、空姫さんは考えたことがあるかい?」
「あるわけないでしょう。私が獣人さんの存在を知ったのすら、昨日とかですよ」
だが——言われてみれば不思議に思える。
この世界『マデューリンド』を創造したのは、創造の魔法少女である
冥紅さんが獣人族なんて種族を創造したことで、今も獣人族は生きている——なぜ、冥紅さんは人間以外の人間を創造したのだろうか?
異世界だから——と。私は勝手に片付けていましたが、魔法少女が創造した世界である以上、私が思う異世界のイメージとは違っているはず。異世界だから居るよね獣人、って軽い気持ちで創造したのなら話は別になりますが、しかし刻代さんの口振りから察するに、そんないい加減な理由ではないのだろう。
「端的に言うと」
刻代さんは偽物の口を通じて、あっさりと言いました。
答えを焦らすこともなく。淡々と。
「人類を間引きさせるパーツってことさ」
「穏やかじゃないワードですね……」
「そうだね。残念ながら穏やかではないよ実際」
「でしょうね」
間引き——言ってしまえば、単純に減らすってことだ。
減らす——人類を。じゃあおそらく戦争で。
「創造された人類は人類だからね、当然繁殖するし、繁殖した」
かくいう僕も子持ちだしねー、と。刻代さん。
「刻代さん……ご結婚されてたんですか……?」
「まあね。だって僕、サカヅキよりは年下だけどピンボケさんより年上だよ。そりゃ結婚くらいしちゃうよ」
「剣なのに……」
「生身の時だから。剣で結婚してたらウケるでしょ」
ちょっと想像したら、確かにちょっと面白い。
「ついでに言っちゃうけど、僕の子孫がユーシアノさんなんだよねー」
「…………えっ?」
普通に驚いた——えっ? つまりじゃあ、シアノさんのご先祖さんが刻代さんってこと?
ついでの発表でいいんですか、それ!?
「えええええええっ!!!!!!?」
これは私でも黒絵さんでもありません。偽物の口から盛大な叫び声を発したのは、ボロさん刻代さんと一緒に、別行動しているシアノさんです。
シアノさんが驚いている時点で、完全に初発表ってことがわかる。サカヅキさんがノーリアクションなのは、たぶんですけど声すら出せないほど驚いているからでしょうね……だって、謎のわなわなした呼吸っぽい音が聞こえますもん。
「つまりシアノさまに勇者の剣である刻代さまが抜けたのは、血の繋がり——血縁者だったから、ってことですの?」
冷静な黒絵さん。こういうところで冷静なのは、なんとなくですがアサシン味を感じる。
あさしんみ、って脳内で繰り返してみたら、お刺身が食べたくなりました。ウルトラ関係ない発表ですけども。てへ。
「そうだよ黒絵さん。まあ、血縁者だから、ってよりかはユーシアノさんだから、なんだけどね」
「どういう意味ですの?」
「僕を抜けるのは、絶大な魔力の持ち主だけ、ってことさ」
「シアノさまは絶大な魔力をお持ちだったのですか?」
そういや黒絵さんにその辺のお話をしたことなかったですね。
話す前に憑依された黒絵さんがシアノさん連れ出して、今に至る、って感じですもん。
「無限ですよ無限。シアノさんの魔力は無限です」
サクッと黒絵さんに補填しておきました。
「あら、それはいわゆるチートってやつですわね?」
「あなたも十分チートですから。どのツラ案件ですよ」
「わたくしはチートなんですの?」
「自覚ないんですか……ほぼ無敵みたいな能力持ってるくせに」
「そう言われましても、わたくしの場合はわたくしが使うからこそ、わたくしの能力を最大限発揮できると自負しておりますので」
「じゃああなた自体がチートなんですよ黒絵さん」
つか、本当に今更になっちゃいますけど、なんだよ異能力って。
「うふふ、褒められて嬉しいですわ」
たぶんチートって褒め言葉じゃない気がしますが、黒絵さんが満足しているのなら、この話は終わりましょう。話題が逸れたのは刻代さんが変なタイミングで変な発表したからなので、責任を持ってお話を戻していただきましょう。
「えと、なんの話してたっけ? あはは」
「間引きとかそんな物騒なトークですよ」
言ってみますと、物騒な話題よりも、のほほんとしたガールズトークの方が良いなあ、って思いましたが、このままですと何も情報を得られずに目的地に到着してしまいますからね。仕方ないのです。
「あーそうそう間引きだ間引き。間引きを手引きしている奴の話だったよね」
「いえ、手引きのお話は聞いてませんけど……」
「あはは、ウケる」
「ちゃんと説明してくださいよ、もー」
なんで私が真面目になると他の誰かがふざけるんですか?
このパーティそういうローカルルールでもあるんですか?
「これを教えても未来に影響はないから、じゃあせっかくだし全部話すことにするよ」
「全部? ですか?」
「うん、最初から全部。昔話であり、未来話でもある一人の少女の物語」
むかーしむかし、遠い未来に一人の少女がおりました——と。
既にツッコミたい気持ちが強くなるワードとともに、刻代さんはさらに続けた。
一人の少女——昔々遠い未来に存在して、今も存在している少女の物語。
始まりの魔法少女の物語——創造の魔法少女の物語。
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