3
3
夕暮れまでに——どころか、二時間くらいで王都に着いちゃいました。私とボロさん驚きのスピードでした。
王都には辿り着くことが出来たのですけれど、私たちはすぐに城下町に入ることをせず、下水道出口付近にてこれからどうするかを考えます。
「ボロさん、身分証ないんですよね、そういえば」
私は身分証をトマトトナスで入手しましたけれど、ボロさんは存在が魔法なので身分証を持っていないのです。魔法だから身分証どころか身分が認められるかも怪しいところです。
「んなもんなくたって、門なんか跳び越えて無理矢理侵入すりゃ良いじゃねえか」
「すぐバレますよ。矢が飛んで来ますよ」
「矢なんかゴミムシみてえなもんじゃねえか。燃やしてやりゃあ問題ねえし、そもそも俺様は矢なんか喰らってもノーダメだぜ」
ボロさんを見ていると、この世界に来たばかりの自分を思い出しますねえ……発想が私に近いモノがありますよ。
「つーか、なら俺様はここで待ってれば良いんじゃねえか?」
「それはダメですよ」
「なんでだよ?」
「なんでもです」
だってボロさんを服屋さんに連れて行って、ここで一番えちちな服を選ぶと決めた私の誓いが達成されないじゃないですか、そんなのダメに決まってます。
「んじゃどうすんだよ。門番なんかなぎ倒して良いってんなら、俺様はそれが一番楽なんだけど、それで良いか?」
「どうして跳び越えるのがダメって話したばかりなのに、なぎ倒すのがオッケーになると思うんですか。頭空っぽ過ぎるでしょうボロさん」
「ああぁん!? いや待てよ……確かにそうかもしれねえ」
「わかってくれましたか」
「ああ、確かに俺様の頭は空っぽかもしれねえもんな。魔法に脳みそがあるとも思えねえしよ! あっはっは!」
わかってくれていませんでした。納得するところが頭空っぽを象徴していると言っても過言ではありませんね。
「仕方ないですね。ボロさんには私が秘策を授けて差し上げましょう」
「なんだよ」
「ボロさんには下水道を進んでもらって、街中で合流しましょう」
「道わかんねえぞ?」
「そこはご安心を。私とボロさんは魔力のパスで繋がっていますので、私が出口に立っていればボロさんの方で私の魔力を辿れるでしょう」
私がご一緒して、下水道をご案内しても良いのですが……まあ私の服がまた燃えてしまうのも嫌なので。
ボロさんの服は燃えても平気でしょう。どうせすぐに買って着替えさせるつもりでしたし、脱ぐ手間が省けますよ(にしし)。
何も知らないボロさんは、私の提案に納得して、先んじて下水道に消えて行きました。
さて——私は私で、
「ほらシアノさん、大丈夫ですか?」
と。ヘロヘロになってへたり込んでいるシアノさんに肩を貸します。
「あ……はなし……おわったの?」
「はい。ボロさんは下水道から入ってもらうことにしました」
「そ、そっか……そうい、えば……ここの下水道はクウキの庭みたいなもん……だもんね」
「こんな臭い庭いやですよ」
シアノさんは、ボロさんに担がれて疾走したことで、ちょっとした車酔いみたいな症状です。ふらふらヘロヘロおめめグルグル。車酔いより酷いかもしれませんね。
ほぼマッハみたいな速度で担がれたんですもんねえ。
途中森とか突っ切ってますし、木を避けるためにジグザグ走行もあったでしょうし、普通にしんどそう。
今度高速移動する時は、私がおんぶしてあげよう。
私がおんぶしても、ジグザグ走行がぴょんぴょんジャンプに変わるだけなので、具合は悪くなりそうですが。
まあ、今後はゆっくり歩く旅が再開できるはずです。
シアノさんの顔面に布を巻いてから、シアノさんに肩を貸したまま、入り口に向かうと、
「止まれ」
と、門番に止められました。
「身分証の提示を」
「あ、はい。どうぞ」
シアノさんはふらふらなので、私がシアノさんの荷物から身分証を取り出し、自分の身分証も門番に見せた。
「な、ゆ、勇者さまっ!?」
身分証を確認した門番が慌てた様子で声を上げたので、私は人差し指を口元に持っていき、シーっ! と可能な限り騒がないでほしいと胸の内(という名の雑な嘘)を明かしました。
「勇者は今、魔法を使った高速移動でチカラを使い疲れています。私としては休ませてあげたいのです。そちらとしても、勇者の立ち寄りで街が混乱し、余計な仕事を増やしたくないでしょう?」
だから勇者だと言うことは内密に——と。私はそう言って、たまには可愛らしく振る舞うためにウインクを飛ばした。
「了解しました。我々のことまで考えてくださり、最大の感謝を——どうぞお通りくださいませ」
私のウインクに一ミリほどもドキッとしてくれなかった門番は、すんなり私たちを通してくれました。
そのまま城下町に足を踏み入れます。なんか感慨深いものがありますね。この世界で初めて訪れた場所にきちんと入るのは。
ひとまずこの王都のお名前でも確認しますかね。
門を超えたところに丁度看板がありましたので、私は王都の名前を確認。
「……ハンバーグシチュー」
王都ハンバーグシチュー。やっぱり食べ物の名前を並べる法則はありそうですね。
毎回新しい名前を知っても別に、食べ物の名前だなあ、くらいにしか思わないのですが、ハンバーグとシチューは食べたくなる。
シチューはクリームシチューが良いです。クリームシチューに茹でたパスタ投入して、一口サイズにカットしたハンバーグをトッピングして——うん、絶対美味しい間違いないです。パスタはうどんでもいいかもしれません。
ついでにチーズと生卵載せて、オーブンで軽く表面だけ焼きたい。
「あー、お腹空きましたね……」
「わたし……まだ食べれそうにない……」
「今食べたら吐きそうですねシアノさん」
「うん……うっ……とりあえずナルボリッサと合流してから考えよう?」
もう歩けるよ——と、私の肩から離れたシアノさん。
ちょっとふらついてますけど、歩くことは問題ないみたいです。
ふらふらのシアノさんを連れて、私はボロさんとの合流地点、以前私が身を隠すために使ったマンホールに向かいます。
一応周りに人がいないことを目視で確認、かつピンボケさんに魔力サーチしてもらい、目撃されないように細心最大の注意を払いながら、マンホールに
マンホールの蓋が開き、中からボロさんが姿を見せました。
「うっす。いやあクッセェクッセェ!」
と、ボロさん登場。
「あれ……ボロさん服」
「あ? 服がどうしたよ? 問題ねえだろうが」
問題ない。本当に問題ない。どうして?
「ボロさん、下水道で燃えたりしませんでした?」
以前私が通過した際には、手ブラローファースパッツになったのに、ボロさんの服は焦げた形跡すら見当たらない。
「あー、燃えたぜ。でもあんくらいの炎じゃ、俺様も服も燃えねえよ」
「ボロさんが燃えなくても服くらいは燃えるでしょ、普通」
「今更なに言ってんだお前。走ってるときに炎を纏っても無傷の服だぜ? 燃えるわけねえじゃん」
「……………………」
そうだった! そうでした!
ボロさんが燃えてもノーダメの服だった。く、くそう……盲点でした。
せっかく、燃えたなら調達しないと——という名目で服屋に連れ込むつもりだったのに、早くも私のプランが崩れてしまいました。
「でもナルボリッサのその格好……ちょっと目立つね」
と、シアノさん。自分も顔面に布を巻いてるくせに、どの口で言ってんだと思える台詞なのですが、今はファインプレイです。
「じゃあ服屋さんに行って、ボロさんのお洋服を調達しましょう! 私が選んであげますよ!」
「は? いらねえだろ」
「いいえ必要です。旅をするのにそれ一着じゃ不便でしょうし、私が選んで差し上げますとも!」
「……なんでお前が選ぶんだよ……俺様の服をよ」
「術者権限で私が選びます」
「て、てめえ……普段使わねえ術者権限をこんなところで使いやがるのか……? 意味わかんねえな」
「女の子は服選ぶの好きなんですよ」
と、建前を述べた私。本当はボロさんにえちちな服をチョイスするためであり、私個人は服選びなんて別に好きでも嫌いでもありません。本音を言うならご飯を食べてゆっくりしたいですからね私。
いまいち納得していない顔をしてるボロさんですが、ボロさんが納得しようがしまいがどっちでも良いのです。
「シアノさん、服屋さんはどちらですか?」
「あ、うん……じゃあついて来て、こっち」
まだふらふらしてるシアノさんに案内され、私たちは服屋さんに向かったのでした。
バニーガールの衣装とか売ってたら即決してやる——と、密かな思いを抱きつつ、服屋さんに向かったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます