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 翌朝。テントで目覚めた私たちは、各自テントから脱出して、次の目的地について話し合うことに。


「次の目的地なんだけど……どうしよう?」


「情報を買いに、ハマグリスイカタウンに戻ります?」


「それでも良いけど……でも近寄るの怖くない……? わたし的にはサカヅキを盗んだ犯人を堂々と連れていくのすごく不安なんだけれど……」


「私はそこまで気にしませんけれど、まあバレても面倒ですよね」


 シアノさんの言う通りではある。堂々と凱旋して万が一バレて捕まってしょっ引かれるなんて、御免ですしね。情報を買うのはシアノさんにお任せして、私とボロさんは外で待っているという選択肢もありますが、黒ローブグループがどう動いてくるのかわからない以上、シアノさんの単独行動は避けるべきです。


 ボロさんを護衛につければ、とも思いますが、ボロさんはボロさんで天井からの襲撃という昨日の今日でタイムリー過ぎる前科がございますので、目撃者が完全に居ないと断言できない以上は(今のところ目撃者はいませんが)、私より凱旋のリスクが高いと言っても過言ではありませんし……うーむ、どうしたものか。


「ボロさん、なにか勇者にまつわる場所とかご存知じゃありませんか?」


 聞き入るモードに入っていたボロさんに振ってみることにしました。元黒ローブ一味ではありますし、何かしら知ってたらいいなあ、くらいのニュアンスで。


「勇者かあ。俺様が知ってるところだと、湖の神殿くらいだな」


 まさかの情報が出てきました。ちょっとびっくり。


「行くなら止めねえけど、オススメはしねえ」


「なぜです?」


「単純に距離がある。俺様たちがいる現在地から、軽く見積もってもおよそ400キロ以上は離れてやがるからな——あとはまあ、戦闘は避けられねえだろうしよ」


 戦闘は避けられない。それはおそらく、私に気を遣ってくれた言い回しですね。私が勇者であるシアノさんを狙っている存在がいることをシアノさんに隠していることに対して、配慮してくれた発言だ。


 昨夜湯上がり後に、ボロさんとサカヅキさんにはお話ししておいたので、気を回してくれたのでしょう。ぶっきらぼうな言い回しでしたけど、優しい一面はあるようです。


「でも他にアテがないから、ナルボリッサの言う場所——湖に向かってみようか」


「構わねえが、俺様は止めたぜ」


「道中の町で情報を買えるだろうし、とりあえずの目的地としてその湖を目指して、近くに有力な情報があったらそっちに向かう、それでどうかな?」


 なるほど。あくまで目的地を湖に設定して、他の場所の情報が入れば寄り道する——と。それが今できる最善の選択でしょうね。400キロ以上って普通にめっちゃ遠いですしね。


 ボロさんを発動し続けたまま、能力不明の黒ローブグループとの戦闘は、正直避けたいというのが本音ですし、対策を見つける時間を確保できそうなシアノさんの案に従うのが得策でしょう。


「私は構いませんよ。シアノさんがパーティリーダーですし、リーダーの意見に従いますとも」


 他の皆さんも、私と同じ考えのようで、シアノさんの考えに反対する者はいませんでした。


「ひとまずどこかの町でお買い物したいよね。大きいテント買わないと」


「ですねえ……」


 小柄な少女三人とはいえ、私とシアノさんが二人で使っていたそこそこ小型のテントに三人はキツい。基本的に涼しい気候なのに、昨晩めちゃくちゃ暑かったですもん。


 ならそのタイミングで、ボロさんの衣装を新調しましょう。えちちな衣装に!


「では朝ごはんを食べたら出発しましょーう!」


 とまあ、そんな感じで歩き始めて半日ほどが過ぎまして、


「これ、今夜もテントぎゅうぎゅうコースなのでは?」


 と、私は気づきました。


 旅路としては完全にUターンしているので、ハマグリスイカタウンは素通りしたのですが、そこから最寄り町であるトマトトナスは、シアノさんが絶対に立ち寄りたくないと断固拒否(お祭りみたいな見送りされて、こんなに早く舞い戻ったら味を占めてまたやって来やがったと思われちゃう、とシアノさん)したことで、このペースで歩を進めると、どう考えてもぎゅうぎゅうコースになっちゃうんですよねえ。


 というかまだトマトトナスすら過ぎてませんし。


「なあ、俺様かお前でシアノ担いで、走った方が速くねえか?」


 歩きながらボロさんが私にこっそりと提案。


「うーむ、そうですね」


「ぶっちゃけ俺様も嫌だぜ? あんなに密集して寝るんなんか、昨日だけで十分だろ?」


 何気にボロさんも嫌だったんですね。同意しますよ。


 はたから見れば三人の少女が狭いテントで寝てるのは目の癒しになるのかもしれませんが、当事者である私たちからすれば、結構キツいのです。キツいというか暑いのです。


「その案、採用しちゃいますか」


「なら俺様がシアノを担ぐとするわ」


「疲れたら交代しますよ」


「いや、問題ねえ。トマトトナスの次は、王都だろ。それくらいなら全然問題ねえよ」


「頼りになりますねえ」


 王都ってことは、私とシアノさんが初めて会った場所ですね。まあ厳密に言うと、初めてお会いしたのは王都の下水道の出口付近なのですけど——そんなことよりも。


 わーい、楽できるーう。やっほーい。


「おいシアノ、俺様がお前を担ぐことになった」


「え、なにどういうこと!?!?」


「うるせえ! 黙って捕まってろボケが!」


「ひいいっ!」


「うるせえ!」


「ご、ごめん……」


 行動的なボロさんは、有無を言わすこともなくシアノさんを肩に担ぎました。担ぐって言っていたけど、本当に担ぐとは。


 おんぶとかにしてあげれば良いのに……。


 そう思っていたら、ボロさんはものすごい速さで疾走。


「はや……もう見えなくなりました」


 忘れてましたけれど、あの人、そういえば炎がしょうじるレベルの速度出せるんでしたね。シアノさん、燃えてないでしょうか……。


「空姫、追わないのカイ?」


「あーはい、追います追います」


 あまり余裕ぶっこいていると、もう走り出してしまったボロさんに追いつけなくなってしまいますからね。


 と言っても、私の場合は走るよりもぴょんぴょん跳んだ方が速いので、軽く助走をして勢いをつけて、思いっきりジャンプ。


 縦に跳ぶのではなく、横に跳ぶジャンプ。


 野球で言えば、ライナーみたいなジャンプですね。


 びょんぴょんぴょーん——と。五回ほどのジャンプでボロさんに追いつきました。五回ほどのジャンプで、およそ3キロ以上は進みましたかね。シアノさんは燃えてませんでした。たぶん、ボロさんが魔法で守ってますね。優秀です。


 このスピードなら、夕暮れまでには辿り着くことも余裕で可能でしょう。


 ボロさんを仲間に出来て良かったです。楽できてさいこーう。


 まあ、ボロさんの使用している魔力は私から消費されているに等しいので、一律に楽を出来ていると言うには、微妙なところなのですけどね、実際。

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