情報共有とか閑話休題とか偽物など
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「いや〜お風呂最高ですねえ……」
叩き起こしたシアノさんに水場まで案内してもらい、私たちは湯を手に入れることに成功したのです。
「……ねえ、クウキ……わたしの知らないうちに人増えてるし、このお風呂って、大きさがわたしの知ってるサイズじゃなくなってるけど、美術館の帽子だよね……? まさか美術館から盗んで来たんじゃ……?」
お目覚めから水場探しをしてもらったので、ほぼ何も知らないシアノさんです。ボロさんやサカヅキさんとの自己紹介の交換すらもまだしていません。私とボロさんはお風呂の準備に忙しかったので(川でお水を汲みました)。
「私がそんなことするように見えますか? やだなあ心外ですよシアノさん」
「外見的には全く見えないけど、中身を知ると……やっても不思議じゃないと思えるの」
「人を見る目がありますね、シアノさん」
「やっぱり盗んでるじゃないの!? なにしてんのどーすんの!? 大事件だよそれ!?」
「大丈夫大丈夫。バレてませんから」
「そーゆう問題!?」
「バレてませんし、私に都合の良い解釈を勝手にしてくれたみたいですよ、世の中の皆さんは」
そう言いながら、私は身分証に表示されたニュースをシアノさんに向けました。湯船でも使えるのは便利ですね。
私から身分証を受け取り、ご丁寧にニュース内容を読み上げてくれました。
「『奇跡! 美術館の宝が命を救う!』——なにこのタイトル……ええと、記事の内容は……『突如天井が崩落したファンブル美術館、しかし奇跡的に負傷者ゼロ。なぜなら美術館の宝である帽子が、客の命を守り、さらには崩落した美術館の天井の修復までしてくれたのだ。不思議な光を巡らせ、瓦礫から守ってくださった奇跡の帽子は、残念ながら力を使い果たし、我々の前から姿を消してしまった。その証拠に、ファンブル美術館の屋根から一筋の光のようなものが飛び立つのを目撃した者が多数いる。これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぶか。かくいう私もお客のひとりで、命を救われたひとりである。この場を借りて改めて感謝を、ありがとう帽子さま』——ええ……とんでもないことになってる……」
「飛び立った一筋の光って、きっと私ですね」
屋根からジャンプ。ダイナミック逃亡がプラスになってます。
ラッキーですよね。めちゃくちゃ都合良く勘違いしてくれて。
偶然というか必然の勘違いではあるのですが。
あの時、私とシアノさん、そしてピンボケさんも含め、サカヅキさんに存在感を消されていましたし、声も周りには届かなかった。
さらに私たちの存在感を消したサカヅキさんの魔法、その原理が、私たちの気配を遮断して、サカヅキさんの存在感を高めるというもの。
なのであの瞬間に居合わせた周囲のお客さんには、やたらと存在感が高まっているサカヅキさんが、ものすごく神々しく見えていたはずです。そのおかげで、『救ってくれた』とか『力を使い果たした』なんて勘違いしちゃうのも無理はありませんよね。実際は私が魔法で瓦礫を防ぎ、私がサカヅキさんを普通に持ち出して、私が美術館を再生させたのですが、そこは当事者しか知らなくても良い真実ってやつなのです。
本当の奇跡は、ボロさんの目撃者が現れていないことですよ。
あるいはサカヅキさんの魔法がボロさんにも影響したのかもですけど、まあその辺の事実関係はどうでも良いです。バレてなきゃおっけーなのですよ、今回の場合は。
「私は一生を掛けて、この真実を隠し通し、何があろうとも奇跡にしますとも——ロマンを守るために!」
「ズルくない……?」
「つまらない真実より、面白い奇跡の方が人々は喜ぶものですよ。それに、真実が明るみに出ますと、きっと記事の内容が奇跡の帽子から、我々の勇者さま——に、変更になると思いますが、それでも構いませんか?」
「やっぱりロマンは大切だよね! うん、わたしもロマン大好き!」
だんだん私に性格似て来てませんか、シアノさん……。
「で……帽子のことは、それでいいとして……すごい湯気出てるあの知らない人誰?」
と。シアノさんは今も湯船のど真ん中で、お湯の温度調節をしてくれているボロさんの方を向き、私に小声で聞いてきます。ボロさんは炎系の魔法を使えて熱に耐性があるので、自分を熱して、お水からお湯に沸かしてもらったのです。ちなみにそれくらいなら私もできますが、疲れてましたし、せっかくなのでやってもらいました。
「あの方はボロさんです。仲間になってもらいました」
「ええ……わたしの知らないところで、わたしの知らない人がわたしのパーティに知らないうちに加入……ってこと?」
「はい。かなりお強いので、めちゃくちゃ頼りになりますよ」
シアノさんはトンボコロシの時も、美術館の時も、どちらでも気絶していたので、ボロさんとは初対面なのです。
初対面で同じ風呂に浸かるってのも良いではありませんか。
私がボロさんに視線を送ると、ボロさんは、
「おう、俺様はナルボリッサ・ナルボロッソ様だ、よろしく頼むぜ勇者さんよお! ところで俺様が沸かした湯の湯加減はどうだ! 最っ高だろ、ああぁん!?」
と。結構ご機嫌です。詳しくは聞いてませんけど、たぶん自由になれたことが嬉しいのかもですね。良かったですねボロさん。
「よろしくねナルボリッサ。でも勇者って呼ばないで……シアノって呼んで……お願いします」
「湯加減はどうか聞いてんだから答えろやこらあ!」
「ゆゆ……ゆゆ、湯加減は最高です、ごめんなさい」
「当たり
あの人怖い——と、私に向かって視線を送るシアノさん。
「言葉遣いは乱暴ですけど——言葉遣いと戦闘は乱暴ですけど、シアノさんのお力になってくれますよ、ボロさんは」
鉄壁と言っても過言ではない防御力は、私が攻撃している間にシアノさんを護衛できますし、場合によっては私が詠唱している時間を稼ぐことも可能でしょう。
「戦闘も乱暴なんだ……てかクウキ、略称のセンスどうなってるの? ナルボリッサ・ナルボロッソって名前から、どうしてボロって部分を切り取ったの……それなら普通、ナルかリッサかロッソにすべきだと思うの」
「私としてはボロさんが第一候補で、二番手はナルナルさんだったのですが、ナルナルさんだと可愛すぎて似合わないと思いまして」
「確かにナルナルって雰囲気じゃないけど、だからってボロはイジメじゃない……?」
「ボロボロさんにしろと!?」
「そっちの方がいじめだよ!」
じゃあ……ナルボロ?
それはなんだかタバコみたいな名前で嫌なので、やっぱりボロさんが一番呼びやすいのですし、ボロさん一択ですね。
と、ボロさんはボロさんという呼び名で私の中で決着しましたので、私はシアノさんに、
「この湯船、シアノさんが言うこの帽子、実はピンボケさんと同じような存在でして、喋るんですよ」
今から自己紹介しますので気絶しないでくださいね——と、湯船で気絶されると、全裸で外に放り出すことになるので釘を刺し、私は湯船フォームのサカヅキさんに自己紹介を
「うむ。では儂もシアノに自己紹介をさせてもらうかの。儂はサカヅキ、奇跡の帽子じゃ」
「いやあなたコップでしょうよ。何自分を帽子として成立させようとしているのですか。コップとしてのプライドとかないんですか?」
「コップじゃないわい、タンブラーじゃ。タンブラーとしてのプライドなぞ、こうして湯船に使われとる時点でズタボロじゃって」
「嫌だったなら断ってくれれば良いのに」
「いや……言えんじゃろ。あんなにノリノリで水を汲むうぬらに、湯船はちょっと……とか言えん空気じゃったろ、歌っとったし」
「お優しいのですね、サカヅキさん。その優しさに漬け込んで、私はこれからもノリノリで歌ってからお水を汲むと誓います」
貴重な湯船ですからね。常に露天風呂が満喫できるなんて、最強なのですよ。
「セコい魔法少女じゃのう、うぬ。まあよいがの」
私とサカヅキさんのやり取りを聞いていたシアノさんが、ようやく声を出して自己紹介に返しました。
「よろしくねサカヅキさん。シアノって呼んでくれて嬉しい!」
「呼ばれとうない称号で呼ぶほど、儂はクソタンブラーじゃないのでのう。よろしく頼むぞい」
「うん!」
「あと儂の名前にさん付けせんでもよいぞ。ピンボケさんと違って、儂の名はサカヅキだけじゃからのう」
「わかった、よろしくねサカヅキ!」
「うむ」
無事,自己紹介の交換も済んだようですし、良かった良かった。
まあ私は、サカヅキさんをサカヅキさんと呼び続けますけどね。アイデンティティなので。
バスタイムはまだ続き、私はサカヅキさんに疑問をぶつけました。
「サカヅキさん、私の変身ってスパッツ以外に進むことはないんですか? サカヅキさんを被れば少しくらい変化あると思ったのに、すっごい期待を裏切られたんですけど?」
「変身は無理じゃと言っといたじゃろ」
「ガッカリですよ」
「諦めるんじゃな。うぬの場合、ピンボケさんが幼いことに加えて、それ以上にうぬの名前が関係しとるからの」
「名前? 私のですか?」
そういえば、ピンボケさんが幼い以外にも理由があるとか言っていましたね。あの時はスパッツの先があることに夢中になり、さらっとスルーしましたけど。
「うむ。うぬのフルネーム
「どういうことですか?」
「名前とは本来、自身を表すものじゃ。魔法少女になる少女は総じて、名前と関係する属性を持つ魔法少女になるんじゃが、うぬの下の名前は空の姫じゃが、苗字がツバサナシと読むことで、空の姫なのにツバサナシで飛べない——と、空の姫の良さを消しとるんじゃよ」
こればかりは仕方ないのお——と、サカヅキさん。本当にどうしようもない問題過ぎて、笑えない。
「それが原因でうぬの属性は名前と関係ないモノになっちょるんじゃ。しかも混沌の魔法も扱えるんじゃろ。じゃからメリットはあるんじゃがの」
「メリットと呼べますか? 飛べた方が嬉しいんですけど」
「二種類のメイン属性を使え、二種類の属性を混ぜる——こんなことできるのは、歴代魔法少女でもうぬくらいじゃろうて」
「そう言われると、私だけの特別感が出て悪い気はしませんね」
つまり私は、破壊と再生の魔法少女ということですか。
かっこいーい。いえい。
「う……わたし、そろそろ上がるね……ご飯の準備もしなきゃだし……あっつい……」
のぼせたのか、シアノさんが長風呂から脱落しました。競ってるわけではないですけども。
「サカヅキさん」
シアノさんが湯を出たので、地味に気になっていた——と言いますか、サカヅキさんご本人の意思を確認しておきましょう。
「サカヅキさんは、私たちについて来てくれる——と、考えてよろしいのですか?」
ほぼ無理矢理パクって来ちゃいましたけれど、ご本人にきちんと確認しておかねばなりませんからね。
「うむ。A子からは情報提供したら好きにしていいと言われとるし、また美術館に展示されるんも嫌じゃしのお」
「やっぱりお暇だったんです?」
「儂、本当は帽子じゃね? って思うくらい暇じゃった」
「それもう病んでますって」
「じゃから、儂も着いていくぞい。持ち運ぶのはうぬじゃがのう。うぬの戦力にもなれるしの」
「了解しました。私が責任を持って運搬させていただきます」
さて。意思確認も終わりましたので、私もそろそろ上がるとしましょうか。
「そうじゃ、寝る前にピンボケさんを儂に預けてくれるかの?」
湯を出て、お着替えしていると、サカヅキさんからそんな提案が。
「構いませんけど、お話でもするんですか?」
「お話というよりレクチャーじゃの。儂のサイズ変更の魔法をピンボケさんも使えた方が便利じゃろうて」
「?」
便利——なのかわからない。安全ピンを大きくしても、特に良いことはない気がします。が、まあ、ピンボケさんに出来ることが増えるなら、それはそれで良いですかね。
着替えを済ませた私は、サカヅキさんにピンボケさんを預け(タンブラーの中にカランと置いただけ)、さてさて今夜のディナーを楽しみにするとしますかね。
ちなみに、サカヅキさんの中に溜めたお湯は、サイズを元のタンブラーサイズに戻し自動的に排水したあと、少し残ったお湯はその辺にぶち撒けました。
「いやあ、湯っていいもんなんだなあ、おい!」
すっかりご機嫌なボロさんも、お風呂を満喫したみたいで良かったです。
「ボロさん、ちょっと聞いても構いませんか?」
「服着てからで良いか?」
「あ、はい、どうぞどうぞ」
存在が魔法ではあるボロさんですが、服を着る常識はあるんですよね。でもその黒ローブはこの世界だと地味に目立つので、どこかでボロさんの衣装を新調したいですねえ。てか黒ローブの下はすっぽんぽんですし。
ボロさんにはどんな服が似合うでしょうか?
こうして見ると、私と同い年くらいではあるんですけれど、私より出るところは出ていますし、スタイル良いんですよねえ。
悔しいから思いっきり乳出しファッションをコーディネートしてやりましょうか。とても悔しいから次の町で一番えちちな服を選んでやると誓います。
「待たせたな。で、俺様になんの話だ?」
「えちちな服……じゃなくって、ボロさん。ボロさんが所属してた黒ローブグループって、何人いらっしゃるんです?」
私と面識があるのは、ボロさんと魔法少女神殿でお会いした、幻影魔法の黒ローブ。おそらく複数人いると思われるので質問してみたのです。
「人数——厳密には魔法数だが——、俺様を含めて六人だ」
「じゃあボロさんの他に五人いらっしゃるんですね」
「ああ。だが、俺様以外の連中は、生まれてからもうだいぶ時間が経っちまってるから、仲間に引き込むつもりなら、そいつは無理だと思うぜ」
「なぜです?」
「俺様は生まれたばかりだから、
たとえ命を散らしたとしても——と、ボロさん。
「なるほど、わかりました。メンバーの得意な魔法とか、お名前とかわかったりします?」
「わりいが、全員は知らねえ。全員と面識もねえしな。俺様が知ってるのは一人だけだ」
「構いません、その一人を教えていただけますか」
「一番初めに造られたファースト——コスタリィル・キャニング。得意魔法は知らねえが、転移させたり出来る」
「オッケーです、ありがとうございます」
「名前だけ聞いてなんか意味あんのか?」
「いえ、それだけでもありがたい情報なのですよ。また支配権をぶんどる機会があれば、お名前を知っているか知らないかで、成功率は段違いなのですから」
「にしてもお前、魔力は平気なんか? 俺様がこうして活動してるだけで、お前の魔力を消費しちまってるはずだが」
「その辺はご心配いりませんよ。私、魔力回復速度、めちゃくちゃ早いので」
「なら安心した。じゃあもう心配しねえ」
「ええもちろんです」
今のところ全然問題ない——が。もし人数が増えれば、少し難しいかもしれない。
いえ、かもしれないではなく、はっきりと難しい。それくらい、ボロさんを発動し続けるのは、尋常じゃない魔力を必要としている。
もし足りなくなれば、いつでもシアノさんから補給できますが、だけどこれは戦闘に響くかもしれません。
ボロさんを発動したままでは、おそらく『
なにか良い方法——解決策を見つけるしかありませんね。
幸い、私には強化パーツを自称するサカヅキさんが協力してくれますし、ある程度の敵や魔物とは問題なく戦えるでしょう。
「あ、そうだボロさん。聞くの忘れてたんですけど、シアノさんが狙われてる理由ってなんなのです?」
これは聞いておかねばなるまい。本当に忘れていた自分は逆にすごい。
「あー、それな。俺様も知りてえわ」
「はい?」
「俺様が生まれた瞬間から、それが行動目的としてインプットされてたんよ。だからぶっちゃけ、俺様も知らねえってわけ。つーか俺様は知ってることの方が少ねえ」
「了解しました」
「ずいぶんあっさりしてんだな。俺様が嘘ついてるとか思わねえのか?」
そう言われると、いいえと答えれば嘘になる。私はボロさんを自由にしていますので、簡単に言うならコントロールしていない魔法をぶっ放し続けているに等しいのです。術者権限を使えば、嘘かどうか——あるいはボロさんが持つ情報全てを強制的に開示させることも可能ですが、そんなパワハラ私のやり方ではありませんしねえ。
「思わないと言えば嘘になりますけど、正直あちらさんの目的を知ったところで、私のやるべき行動はなにも変わらないのですよ」
目的がなんであれ、勇者の剣を自称した瞬間から、私の目的はシアノさんをお守りすることなのですからね。
「そういうの自己中って言うんだろ、俺様知ってるぜ」
「そこはせめて、義理堅いって言って欲しいですね」
「俺様の方が硬えけどな!」
あーそうでした。ボロさんバカなんでしたね。忘れてましたよ。字が違うってツッコミたいけど、この世界の文字と日本語が違っているのでツッコめない歯痒さ。
とりあえず、ボロさんのバカさはスルーしまして、
「シアノさんが狙われていること、シアノさんに内緒にしてくださいね」
と、ボロさん、そしてピンボケさんにレクチャーしているサカヅキさんに言いました。お二人とも了承してくださりました。
「あと黒ローブグループに私たちの行動って筒抜けなんです?」
「どうなんだろうな、俺様はよく知らねえが、お前たちの向かう場所に転移させられたのは事実だ」
「じゃあ初対面の時はトンボコロシのお腹に転移させられてたんですか……」
「ああ。流石の俺様も転移先が腹ん中だと思ってなかったからよお、ぶち破っちまったよな、あっはっは!」
じゃあ転移のタイミング次第では、私の魔法で即死でしたね、ボロさん。結構運が良いみたいです。
殺さなかった私も——生きてたボロさんも。
「さて。ではシアノさんがご飯を用意してくださっているので、私たちも向かいますか」
明日は朝から、次の目的地について話し合うところからスタートになりそうですね。
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