パーティバラバラそれぞれタイマン

 1


 それぞれが光に包まれ、強制転移させられた。


 私が飛ばされたのは、無駄に広い海辺。無人のビーチ。


「無人の——ではないですかね」


 私は、眼前に立つ人物に向かって言った。


「あなたは何番目の黒ローブなんです?」


「俺は五番目——ウリル・リゾ」


「なるほど。ではボロさんのひとつ上ってことですか」


 確かボロさんが六番目でしたね。黒絵さんに憑依したヤゥトゥマさんが三番目だったから、残る四人の黒ローブが私たちをバラバラに飛ばして、それぞれタイマンって感じでしょうか。


 やれやれ……これはちょっとキツい展開ですね。


「私以外の人は無事なんですよね? えっとウリルさん?」


「さあな。俺はお前を仕留めるだけだ、他は知らん」


「ぶっきらぼうな口調ですねえ。きっと馬鹿なんですかね」


「なんと言われようと問題ない」


 ボロさんのように挑発に乗ってくれるタイプではないようだ——というか、いささかボロさんが例外過ぎたのだろう。


 こちらとしてはペースを握りたかったのですが、困りましたね。


「行くぞっ——!」


 私にペースを渡すつもりはないようだ。ウリルさんは言うと、ビーチの砂を操り、私に飛ばして来た。


「え、まってくださいよ!」


 魔法障壁で防ぐ——が。


「おわっ! 威力つよっ!?」


 魔法障壁をぶち破り、私目掛けて粒子の小さな砂粒が飛んでくる。


 ひとつひとつは小さな砂粒。たが、纏まれば大きさは自由自在に等しい。


 思考加速で避ける手段を模索する——ジャンプして避けるは悪手だ。身動きが取れない空中では、狙い撃ちされる。


 サイドステップでわす——しかない。


「てやっ!」


 私はサイドステップで砂を躱わした——が、砂粒はこちらに向かってホーミングしてくる。さらに砂浜が私の足を鈍くさせる。


「くそっ!」


 魔力は温存したい。けれど、ダメージは受けたくない。


 仕方なく私は魔法障壁を二重で展開し、自分をコーティングする。


「うっ……!」


 二重で展開しても完全には防げない。ダメージは最小に抑えたが、ノーダメージというわけにはいかなかった。


「大丈夫カイ!?」


「ええ……平気ですよ、ピンボケさん」


 今のところは平気です——けど。


 これはまずいですね……私勝てないんじゃないですか……これ?


 ボロさんを解除して戦う——その選択肢は排除する。


 唯一無二のボロさんを解除してしまったら、それは殺しに等しい行為だ。私はそんなことしない。


「弱いな、お前」


「言ってくれるじゃないですか……ウリルさん」


 砂が武器になると言うことは、この砂浜にはウリルさんの武器で溢れている。そして海辺ということは、海すらも武器になり得ると見るべきでしょう。


 おそらく、それぞれの黒ローブが有利な場所で戦闘を挑んで来ている。


 では早く蹴りをつけて、シアノさんをお守りしなければならない——が。


「……今の私じゃ、どうやって勝てばいいのか」


 魔力は枯渇寸前。回復はしますけれど、ボロさんに七割の魔力を消費している私ができることは、魔力障壁でダメージを和らげることが限界かもしれない。持久戦は当然不利。威力のある魔法は難しい。


 だけど速攻でカタをつける——それしかありません。


 手段があれば——なのですけど……。


「お前が弱いのは、我々も承知していた。だから我々の中で最弱の俺がお前を相手にしているのだ」


 ショッキングな発表ですね、それは。


 黒絵さんやボロさんならまだしも、まさかシアノさんより評価が低いとは。


 ずいぶんと舐められたモノだ。


「空姫、落ち着イテ!」


「大丈夫ですよ、ピンボケさん」


 屈辱的ではあるが、納得せざるを得ない。


 うちのパーティを戦力図にするなら、黒絵さんがダントツトップ。次点にボロさん。


 三番手は私だと思っていましたが、黒ローブ側の見立てでは私は最下位。


 ムカつく。なーんかムカつく。


「……でも実際、ピンチなんですよね、私」


 魔力も足りない。さっきからボロさんの魔力消費が激しい——おそらくボロさんも戦闘が始まり、相当追い込まれているのでしょう。


 黒絵さんとシアノさんはどうなのかわかりませんが、シアノさんには元未来視の魔法少女でなぜか喋る剣になっているA子さんもとい刻代ときよさんが一緒なので、心配ではありますが平気だと信じるしかない。黒絵さんの心配はいりませんね。強すぎるので。


「サカヅキさん、なにかアイデアありません?」


 私は頭に乗るサカヅキさんに訊ねました。


「うぬ次第じゃ。残念じゃが儂に言えること——儂に言うことが許されとるのは、それくらいじゃよ」


「未来が変わっちゃうとかそういう感じのやつですね」


 じゃあ打開策は存在する。それをサカヅキさんが口にすることが許されていないのだろう。


 打開策があるだけ十分です。希望があれば足掻けます。


「にしてもいつの間にサカヅキさん、A子さん……じゃなかった刻代さんから言えることを聞いたんです?」


「あやつめに被さったときじゃよ。あの部屋の壁は壁ではなくあやつめの魔法、未来を読む本と同じモノだったんじゃ。集束して収束した光に情報を込めて、儂に伝達したっちゅーわけじゃよ」


 なるほど。砂粒を避けながら聞く話ではないですね。疲れちゃいます。


「のう、空姫や」


「なんです?」


 今忙しいんですよ私。思考加速しているとはいえ、砂粒を最小限のダメージでやり過ごすのに必死なんですから。


「うぬはなんの魔法少女じゃ?」


「完璧で究極の魔法少女です」


「ガッカリじゃよ……その返事」


「嘘じゃないんですけどっ!」


「破壊と再生の魔法少女じゃろうが……はあ、よーく考えてみい」


 再生と、、、はなんじゃ、、、、、——と。サカヅキさんはそう言った。


「再生……とは……ですか……」


 再生とは——なにか。


 どうやらそれがわからない限り、残念ながら私には、生き残る余地はないようだ。


 生き残る余地も——あるいは、生き残る予知も。

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