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戻す——戻し戻す。繰り返し戻す。
「さーて、そろそろ反撃しちゃいますからね、ウリルさん」
やることは固まりました。イメージは完璧です。
もう避けるのはやめだ。反撃の手は見つかった。
「我が左手に宿し魔は再生の
ウリルさんに接近しながら私は、再生の魔力を込める。
もう砂を恐れる必要がない。今の私に砂は無力なはず。
「詠唱の時間などくれてやらん」
私の詠唱に気づいたウリルさんは、ビーチの砂、およそ半分を使用して、私に放って来る。同時に私の足に砂を巻きつけて、動きを封じた——が。
「残念ウリルさん、詠唱終わってるんですよ」
詠唱は終わった。私の詠唱はもうとっくに終わった。
「ここからは無詠唱でいきますっ!」
向かって来る砂の集合体に向かい、私は両手を突き出す——全て破壊。
「やったうまくいったー!」
「な、なんだと……っ!」
ウリルさんの驚く顔がよく見えます。ええわかりますよ、そのお気持ち、察しますとも。
今の私に、ここまでの破壊を可能にする魔力はない——と。
そう思っていらっしゃるのですよね。その通りですよはい。
いくら魔力回復力が高いと言っても、瞬間的に全回復するわけじゃあない。人並み以上ではあるが、無限以下であることに変わりはありません。
魔力肺活量が強い私——でも無限ではない。
シアノさんのように、無限に魔力を使い続けることは出来ません。
ですが私なら——無限に近づけることが可能なのです。
それに気づいた私に、もう苦戦はあり得ません。
「ウリルさん——終わりです」
ウリルさんの武器、この砂浜の砂を全て破壊。跡形もなく。
粒子レベルの残骸すら残さずに、完全消滅させた。
私とウリルさんの足元だけ、足場として残した地面以外は粉すらも残さずの破壊。完全破壊。
「バカなっ! 砂が消えただと!?」
ついでにちゃっかり海も消しましたけどね。恐るべき環境破壊少女ですね私。
初めて焦りを見せたウリルさん。私に接近されぬよう、距離を取った——が。
そこに地面はない。一歩後退りの先は、砂が消えた地面。
砂が消えた地面は、地面ですらない。剥き出しの穴とでも言うべきか。
暗くて見えませんが、おそらくその穴の下にはマグマが溜まっているはずです。
体勢を崩し、その穴に落下しそうになっているウリルさんに向かって、私は手を伸ばし——掴んだ。
「捉えましたよ」
ウリルさん。ウリル・リゾ。
私は彼女を解放する。
「離せっ!」
「離すわけないでしょう。いま離したら、私犯人になっちゃいますもん」
殺さない。私はウリルさんを殺さない。
この体勢のまま、術者権限——ウリル・リゾという魔法の支配権をぶん取ります!
「よーしピンボケさん、一緒にやったりますよー!」
「オッケーだよ空姫、ボクちゃんも張り切るヨー!」
ピンボケさんのアシストもあり、私はウリルさんの強奪に成功。本来なら魔力不足なのですが、現在の私は軽く最強なので
「あなたは自由です。好きに生きてください」
穴から引き上げ、私はそう言いました。海と地面も再生させました。きちんとやっておかないと、極悪非道の環境破壊しまくるやべえ魔法少女になってしまいますからね。
ウリルさんは困惑している様子——あるいは無心、放心とも言うべきか。
道具として扱われていた彼女の解放は、果たして解放だったのか否か。自由にすることで、私は彼女の道具という役目をぶち壊してしまったのかもしれない。
「貴様……なぜ、そのような魔法を使えた?」
なぜ使えた——疑問系で放たれた言葉。死んだような目をしたウリルさんから放たれたその言葉に、私は素直に答えることにしました。
「魔力を戻し続けたのですよ。単純に」
再生とは——戻すチカラ。そう考えた私は、自分の再生魔法をバフったのです。バフり続けたのです。
バフの対象は私——ではなく、魔力。
私の魔力そのものです。全力状態で使える、私の限界魔力に対して再生魔法を掛け続ける——つまり。
擬似無限魔力——常に私のMPをカンスト状態に固定するレベルの永遠の戻し。一度戻してしまえば、私の魔力を使ってピンボケさんがループ再生を自動化させてくれたのです。
魔力を再生し続けることで、私は無限に等しい魔力を使うことが可能になった——ということです。
無限生成は不可能ですが、無限再生なら可能というわけなのですよ。えっへん。
「『
名前は今つけました。思いつき。
「そうか、わかった」
「……………………」
そんな簡単にわかられてしまうと、私が虚しくなるですけど。
もうちょっとドヤ顔で自慢したい気持ちがありますのに……。
いや、今は虚しくなっている場合じゃない。無気力になってしまった——もとい私が無気力にしてしまったウリルさんに構っている時間が惜しいのです。申し訳ないですけど、ボロさんがヤバそうなので。
「ウリルさん、私をボロさん——ナルボリッサ・ナルボロッソさんのところまで飛ばせますか?」
転移させた側であるウリルさんなら——そう思ったのですが、
「不可能だ」
と、
「転移は俺がやったことではない」
なるほど。ウリルさんが転移をさせたわけじゃなくて、さらにウリルさんはその転移魔法を使えないってことですか。
困った。こうしている間にも、ボロさんが相当やばい。
さっきからボロさんに使う魔力消費が減ってきている。
おそらく瀕死に近い状態だろう。どうしよう。どうしようどうしよう!?
「どうしようピンボケさん!? ボロさん死んじゃう!?」
何も思いつかない私は、ピンボケさんに頼りました——が。
私の言葉に答えてくれたのは、ピンボケさんではありませんでした。
私のおしり。臀部。
私のお尻が答えたのです。驚くことに。なんでだ!?
「うふふ、そのお悩み、わたくしが解決いたしますわ」
「どうして私のキュートなヒップからあなたの声が聞こえるんですか、黒絵さん!?」
「そのご説明をしてもよろしいのですが、お時間は必要になりますわよ? 構いませんか?」
尻から声。めちゃくちゃ気になるところですが、ボロさんの命を天秤に掛けたら……さすがに人命優先ですよ。畜生。
「私の悩みを解決してくれるなら、お願いします黒絵さん」
人命優先。お尻の声よりも優先した私、本当に偉い。
「はい、
黒絵さんがそう言うと、私の背後にはボロさんが倒れていた。
黒絵さんの『
目視している範囲でしか偽物を出すことはできない——確か私はそう聞いていたのですが、あの女また嘘つきやがってたんですか!?
いや、今はいい。嘘については後で問い詰めるとして、今はボロさんだ。
無惨な姿で、かろうじて生き残ってくれていた。
柄にもなく、私を気遣って自殺寸前でしたけど、私はその自殺を許さない。
すぐさまボロさんに再生の魔法を掛け、もがれた四肢と生命力を回復させる。ボロさんの生命力は魔力ですけども。
「あなたがうちのボロさんをこんなにしてくれたんですね?」
私は、ボロさんをボロボロにした犯人——眼前で余裕ぶっこいて腰を下ろしている黒ローブに向かって言った。
「やあ、今度は生身で会えたね」
「その口ぶり……あなた魔法少女神殿の陰気野郎ですか?」
魔法少女神殿で幻影魔法を使って姿を見せた、あの陰気野郎。
「あはは。陰気野郎って自覚はないけれど、魔法少女神殿はその通りだよ。空姫」
「一方的に名前を呼ばれるの好きじゃないんですけど」
「それは失礼した。セスタ・レンフロー。四番目だ。久しぶりだね空姫」
四番目——その順番が果たして強さとイコールなのかわかりませんけれど、雑魚ってことはないでしょう。
「久しぶりのご挨拶を交換する間柄ではありませんけど、ボロさんの借りは、代わりに私が返させて貰いますよ」
「構わないよ。来るといい」
相変わらず、偉そうな構えです。両手を広げて、誘うような構え。どこか黒絵さんに似た構えですが、憎たらしさでは黒絵さんの方が上ですね。
「ではお誘いに乗って差し上げるとしますかね」
行きますよ——と。私は一直線に突っ込んだ。
が——私が相手をする前に、セスタさんは無力化された。
余裕ぶっこいた構えを見せていたセスタさんを、謎の箱が閉じ込めた。一瞬で現れて一瞬で閉じ込めた。
セスタさんを謎のレインボーな箱に閉じ込めた犯人は、嬉しそうに言う。
「うふふ。わたくしのお手柄ですわね?」
と。いきなり私の背後に登場した黒絵さんが、私の手柄を横取りした挙句、さらに言いました。
「さあお二方、シアノさまと
バトる気満々だった私のやる気はどこに発散すればいいんだ。
納得できないですよ。なんでもアリ過ぎるでしょ黒絵さん。ふざけんな、って気持ちが豆苗のようにぐんぐん成長していきますが、いえ今はシアノさん優先で、ここは私が大人になるとしましょう。我慢我慢。
「…………いいですけど、どうやって飛ぶのか、どうやってここに現れたのか、いやそれよりも私のお尻になにをしやがったのか吐いてくださいよね?」
「ええもちろんですわ」
あとセスタさんを閉じ込めたレインボーな箱はなんだ。どうなってんだそのレインボーな箱。
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