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「空姫さまのお背中に、あらかじめわたくしが作った偽物の目を貼って起きましたの。その偽物の目からわたくしの目に視覚情報を移動させたのですわ——ざっくり噛み砕いてご説明しますと、リアルタイムでわたくしの目に直接送られてくる監視カメラみたいな感じですわね」
だから目視している範囲なので嘘ではない——と、黒絵さんの言い分。なんでもアリすぎんだろ!?
「視覚情報を移動って、それは位置交換で瞬間移動するやつの応用ってことですか?」
「はい、その通りですわ。さすが空姫さま」
私の背中にペタッとした偽物の目を使い、私のお尻に偽物の口を作る。そこから黒絵さんは本物の口から出した声を偽物の口に位置を移動させることで声を届けた——と。わかりにくい説明をされてしまいましたが、なんとなく理解はできました。
納得はしていません。出来てたまるか。
そんな肉眼に直通した監視カメラみたいなモノに対して、納得するのはとても困難だと言わざるを得ませんよ。オマケに肉声を直接届ける電波要らずの電話みたいな口までセットですし、納得とか無理って話です。
てかたぶん、じゃあ私のお尻か背中に偽物の耳も作りましたよね……盗み聞くために。
まあ、今回は役に立ってくれたので、見逃して差し上げましょう。寛大な心を持つ私はとっても優しい。
とりあえず私の脳内では、便利なテレビ電話的な解釈で強引に解決することにしました——が……。
「一体、いつ私の背中に目なんてモノを……」
「舌ドリルされたときですわ。熱烈なハグをされましたのでその時に。憑依が解けたら目の前にナルボリッサさまが見えましたので、ついでにペタッとしておきましたの。シアノさまは、先程まで広いお部屋で寝ていましたのでその時に。備えあれば憂いなし、でしたわ」
「……………………」
あの時か。あの時なのか……思い出したくなかった瞬間になんてモノを背中に貼ってくれてんだ。
「ちなみに、偽物の目はシールみたいに貼って剥がせて全方位全角度を見渡せますのよ。本物の目では到底不可能なスペックを押し付けることで、偽物判定にいたしましたの、うふふ」
だからその異能力チート過ぎますって。卑怯ですよ。
クソ便利な能力過ぎる。ほぼ全能な能力じゃないか。
なんだその応用力の塊みたいなやつ。ズルいズルい。
黒絵さんの『
「なあ……呑気に談笑してやがるけど、シアノを助けなくて良いんか?」
と、ボロさん。肉体は回復しましたが、精神的な疲労までは回復していないので、いつもよりテンション低めです。さっきまで手足を失って死ぬ寸前でしたからね、無理もありません。
四肢ちょんぱから復活して、もうテンション高かったら引きますもん、普通に。
「だって、ボロさん。シアノさんが手出し無用って言うんですもん」
「もちろん、本格的にヤバそうでしたら私は黙って見てるつもりなんてありませんけど、今のところは平気でしょう」
敵の黒ローブは剣を使っている。シアノさんも同じく剣を使っている。シアノさんは互角以上の戦いを見せてくれている。
なんだろう……シアノさんが抜刀して戦っている。その姿を見るだけで、ちょっと感動さえ覚えてしまう。
立派になったなあ。あのビビリで戦闘中は震えているか気絶してるかの二択だった勇者が、自分のチカラで剣を振るっているのを見ると……なんというか親心とでも言うべきなのか、不思議とグッと来るものがあります。うるうる。
「にしてもシアノさん、剣術の心得とかあったんですねえ」
普通に剣を使いこなしていますが、なぜそのスキルがありながらビビリ散らすことしか出来なかったのか——確か気絶したりしていたのは、シアノさんが振るっている剣である刻代さんの
「シアノさま、剣の腕前は確かなようですわ」
「黒絵さんも剣とか使えるんです?」
「多少なりと心得はありますわ。ですがわたくしの場合は、ナイフなど短刀の扱いの方が得意ではありますけれど。うふふ」
「……………………」
忘れてましたけど、そういえばこの人の家業暗殺なんでしたね。
暗殺者の面影とか雰囲気は無いのに。いや凄まじい殺気を放ったりしますけども。
「つーか黒絵さん、さっきセスタさんを閉じ込めたレインボーな箱。アレなんですか??」
私はピンボケさんサカヅキさんに、シアノさんがピンチになったら教えてもらえるように頼んでから、黒絵さんに色々質問をぶつけることにしました。
気持ち的には尋問です。さあ吐け!
「あの箱は、魔法を包み込む偽物の魔法ですわ」
「なんですかその意味不明な説明……」
「ヤゥトゥマさまがわたくしに憑依したことで、気づいたのですわ。わたくしには空姫さまたちのように魔力がないようですけれど、魔力の偽物が作れる——と」
そういえば、ヤゥトゥマさんが黒絵さんに憑依したとき、ヤゥトゥマさんは自分のショボい魔力を黒絵さんの能力で偽造した偽物の魔力で包み込んで隠蔽していましたね。
「じゃああの箱は、魔力を完全にシャットアウトするってことですか?」
「ちょっと違いますわね。流れ出る魔力はシャットアウトしていますが、流れ込む魔力は遮断できませんのよ」
「それ、ほっといたら内部が魔力で満たされてヤバくないですか……?」
流れ込む魔力の遮断ができないなら、溜まる一方だ。
まさかキャパ無限、ってわけでもないでしょうし、流れ込んだ魔力を一気に爆発させるように使用されたら、とんでもない大惨事になりそうなんですけど……核爆発レベルの。
「対策としましては、三重構造にしてありますのよ。一層目には内部魔力量の調節をするための自動消費、二層目に魔法無効化、三層目に内部魔力遮断、と。ヤゥトゥマさまがわたくしの能力を使って、わたくしの身体でやっていたことを、箱という形にリメイクしてみましたの」
偽物の偽物ですわね——と、黒絵さん。
「ヤゥトゥマさんすげー」
あの人そんなことして隠蔽していたのか。
そうしなければ、隠蔽していたとしても、内部魔力が勝手にキャパオーバーで破裂してしまいそうですし。かと言って外からの魔力をシャットアウトしたら、魔力が生命力だったヤゥトゥマさんは(あるいはボロさんもですけど)、すぐに窒息死に近い理由で死亡しちゃいますし、よく考えてたんですね、ヤゥトゥマさん。かしこーい。
「そういや黒絵さんは、どんな場所で戦ったんです?」
「わたくしは、よくわからないサイバー空間みたいな場所でしたわね。わたくしとお相手だったコスタリィル・キャニングさま以外は存在できないフィールドに飛ばされておりましたわ」
「それ、黒絵さんからすれば絶望的にピンチなのでは?」
そのフィールドってつまり、偽物を作り出すことができないってことだ。どう考えても、黒絵さんとの相性は最悪だと思われる——が。さすが黒絵さんはなんでもアリなので、
「偽物が出せなくとも、普通に接近戦で倒しましたわ」
とのこと。この人、接近戦までこなせるのか……やべえ。
「コスタリィルさんって、確かボロさんが言ってた一番目の魔法でしたよね……?」
私がボロさんに言うと、ボロさんも苦笑いを見せながら頷く。
「ああ……一番強え姉貴だと思うんだが……」
「そうなんですの? ワンパンでしたわよ」
「……………………」
なんだコイツ、って顔してるボロさんに激しく同意する。
「もし気になるのでしたら、わたくしのバトルをあとでお見せしましょうか?」
「え、見れるんですか!?」
「ええ、わたくしの戦闘中の記憶を、空姫さまとナルボリッサさまに移せば可能ですわよ」
「それ、ヤゥトゥマさんがやって後遺症があったやつじゃ……」
「ヤゥトゥマさまは使い方が悪かったのですわ。細かくご説明しますと長くなりますが、お聞きになります?」
「いえ結構です」
長いのは御免です。眠くなりますもん。
「うふふ、端的に言えば、偽物を扱うキャリアが足りずにヤゥトゥマさまは自滅したのですわ。わたくしほどの経験があれば、あのようなミスは考えられませんもの」
よくわからないけど、安全だというなら、その記憶を見せてもらいましょうかね。シアノさんの戦いも長引きそうなので。
「安全なら今見れますか?」
「はい、可能ですわ。わたくしの一人称視点になりますけど構いませんか?」
「構いませんよ」
シアノさんがピンチになった場合に備えて、念のためボロさんは私の後に見ることに。
では見せていただきましょうかね。黒絵さんの無敵っぷり。
黒絵さんの一人称視点で。ちょっとワクワクしちゃいます。
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