第2話 飲み会へ誘われる。

「……!!」


何だこの女は。

馴れ馴れしく、人の腕に絡み付いて来やがって。

…まさか都会の女はみんなこうなのか?


むぎゅ。と俺の腕に胸を押し付けて来る女に、つい眉間に皺がよる。


なんて下品な…、恥じらいはないのか?

俺の知ってる大和撫子はもう絶滅したのか?


舌打ちしたいのを我慢して、溜息を吐きながら腕を振り払うと、女は驚いたような、怒ったような顔で俺の顔を覗き込んで来た。


「え、真城クン…?」


「…だから何?サークルなら入らねーけど」


何がしたいのか分からない。

早く用件聞いて、この場を去りたい。


すると女は、思い出したように手を叩く。


「…えーっと、…そう!飲み会!」


「飲み会?」


「そう、私入ろうか迷ってるサークルあって、その飲み会に誘われてるの。でも一人じゃ不安だし、真城クン一緒に来てくれない?」


「…飲み会か」


酒は好きだ。

まぁ、飲み会なんぞは縁がなく、一人でチビチビと宅飲み派だったが。


「いや俺は…」


陽キャの集まる飲み会なんぞ、場違い極まりない。

断って立ち去ろうとすると、女は「タダよ?」と爆弾を投下して来た。


「…へぇ?」


「サークルに人集めたいらしくて、新入生はタダなの」


…なるほど。

取り敢えず、タダで飲める飲み会で人数集めて、ひたすらサークルに誘いまくろうって腹か。


「どんなサークルなんだ?」


「…!あのね、とにかくワイワイ騒ぎたい人達の集まりって感じかな」


俺が興味を示した事に気づくと、女は我が意を得たりと、また俺の手を握って来た。


「ね?行くでしょ?タダで飲みまくろうよ!」


タダで飲みまくる…。

ヤベェ、最高じゃねーか。

金はあるが、他人の金で飲む酒はまた別格だ。


「…サークルには入らねえぞ」


そうして、酒に釣られた(元)貧乏人の俺は、名前も知らない(覚えてない)女に誘われて飲み会に行く事になった。


タイミングよく、女の友達が「みゆりー、早く行こー!」と女に声を掛けなければ、名前は知らないままだっただろうな。



#みゆりside ────



初めて見た時から狙ってたイケメンが、久しぶりに顔を見せた。


金も持ってるって噂だし、遊び相手には丁度いいと思ってたのに、ほとんど大学に来ないから、なかなか仲良くなれなかったけど、これはチャンスだ。


「真城クン!」


必殺の笑顔で声を掛けながら近寄ると、真城はつまらなそうに足を止める。


…んだ、コイツ。

私が声を掛けてんのに、面倒そうなツラしやがって。


正直イラッとする。

でも相手はイケメンだ、そんな顔は見せられない。

何とか笑顔で取り繕う。


「冷たいなー。ね、サークル入った?同じところにしよって言ってたよね。もぅ…全然大学来ないからさぁ」


そう言うと、真城はキョトンとした顔で首を傾げる。


「…あぁ、俺サークル入らねーけど」


「え?何で!?」


まさかの展開だ、同じサークルに入って、距離を縮めようと思ってたのに。

「…興味ねーから」と行って立ち去ろうとする真城の腕に、私は慌てて自分の腕をからめた。


すると、真城の野郎はあろう事か、するりと私の腕から逃げ出した。


「え、真城クン…?」


「…だから何?サークルなら入らねーけど」


嘘でしょう?

この私がスキンシップして、自慢の胸まで押し付けてやってんのに…!


男にこんなつれない態度を取られたのは、生まれて初めてだ。

逆に落としたくなる。


このまま帰られちゃったら、せっかくのチャンスが無駄になるし、どうしようかと考えていると、パッと今夜の飲み会を思い出した。


「…えーっと、…そう!飲み会!」


「飲み会?」


食いついて来た。

やっぱ飲み会は好きだよね、うんうん。


「そう、私入ろうか迷ってるサークルあって、その飲み会に誘われてるの。でも一人じゃ不安だし、真城クン一緒に来てくれない?」


上目遣いで見上げながらいうと、真城は少し迷ったみたいに目を泳がせた。


「…飲み会か。…いや俺は…」


…!!

断らせる訳にはいかない。

何とか興味を持って貰おうと、私は急いでタダという情報を明かす。


「…へぇ?」


「サークルに人集めたいらしくて、新入生はタダなの」


お金持ちって聞いてたけど、意外とタダって言葉に弱いのか。


「どんなサークルなんだ?」


「…!あのね、とにかくワイワイ騒ぎたい人達の集まりって感じかな」


やっと話に食いついて来た!

このまま飲み会に一緒に行って、ガンガン飲ませて良い雰囲気に持ち込む!


「ね?行くでしょ?タダで飲みまくろうよ!」


「…サークルには入らねえぞ」


渋々といった感じではあるけど、取り敢えず合意は得た。

後は飲み会が勝負だ。


よしっ!と心の中でガッツポーズをすると、ちょうど友達が「みゆりー、行こー!」と手を振って来る。


私は絶対に来てね、と飲み会場所を教えて念を押してから友達の元へ戻った。

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