第44話 みゆりの手料理。
#大和side ────
颯斗達がバイトに来た翌朝。
たまたま朝早く目が覚めた俺は、颯斗を起こさないように部屋を出た。
それにしても、昨日のマリンには焦ったな。
まさかマリンまで颯斗に惚れるとは…。
(俺もそれなりにイケメンなのになぁ…)
何で俺はモテないんだろう?
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、異様な臭いが漂って来た。
「……ッ!?な…何だこの臭い…!」
今までに嗅いだ事のない、臭いだけで人を殺せそうな、何とも言えない臭いだ。
一階の食材は当然、叔母さんが管理してるし、まさか2階の客用の食材が傷んでるのか?
ほとんどの食材は、俺達がここに来る直前に買って来た物で、期限は心配ないけど、元々常備してあった食材とかもあるはずだ。
慌ててキッチンへ向かうと、中から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
(…?鼻歌…?この声はみゆりちゃんの…)
ものすっごく嫌な予感がする。
そおっとキッチンを覗いてみると、案の定だ。
中ではみゆりちゃんが
…そう、
何かは分からない。
いそいそと手慣れた感じで食材を
(え…?え…?)
メッチャ楽しそうに見えるけど、何作ってんのアレ??
嘘でしょ?食べ物なの?
(どうしよう…!アレ…絶対に止めないとヤバいやつだ…!)
だけど楽しそうに鼻歌を歌っているみゆりちゃんに、恐ろしくて声がかけられない。
「…ッ!」
思わず片手で鼻と口を押さえる。
…ダメだ、目がしみる。
「…ゲホ…」
しまった、声が出ちまった!
慌ててキッチンを見ると、みゆりちゃんは俺に気付いて手を振って来る。
「あ、おはよ大和」
みゆりちゃんはこの異様な空気の中、嬉々とした様子で寄って来た。
「えっと…、なに…作ってるの?」
一応だ、一応。
もしかしたら何かの実験で、料理じゃないかも…。
だけど俺の微かな願望は、満面の笑顔で否定された。
「何を作ってるかって…、嫌ねぇ…見れば分かるでしょう?」
そう言うと、みゆりちゃんは手元の鍋を覗き込む。
中には見た事もない色をした液体が入っていて、毒々しく煮だっていた。
「朝早く目が覚めたからぁ、朝ごはん用意しようと思ってぇ」
ニコニコとそう答えるみゆりちゃんに、つい首を傾げてしまう。
「…朝ごはん?これが…?」
…え?嘘でしょ?
朝ごはん?どれの事?
鍋の中身は、明らかに人間が口にしては駄目な色をしてるよ?
(…まさかあの鍋の中の、よく分からない液体の事じゃないよね?)
「えーと、これ…このよく分からない液体の事?朝ごはんって?」
「何言ってるの?煮物じゃん?食べたことあるでしょ?」
「……」
え、どうしよう。
思考が止まるんだけど、にもの?にものって何だっけ?
魔女がデッカい壺で作ってそうな、この
「…もしもし?大和ー?」
「…煮物…?」
「そうよ、味見してみて」
「え?俺殺されるの?」
「…何でだよ、煮物だっつってんだろ」
怖いよみゆりちゃん、素が出てるよ。
小さなお椀に入れられた煮物(?)が差し出される。
…食べなければ殺される。
俺は生唾を飲み込むと鼻を近付けた。
「…グッ…ふ!!」
酷い異臭が直接
ドブとか生ゴミとかの臭いに似てる。
え、無理。誰か助けて。
横目でみゆりちゃんを見ると、まさか俺が食べないとは全く想像してないようだ。
(これは…食うしか…)
満面の笑顔で俺を見つめるみゆりちゃんに、食べたくないとは言えない。
俺は覚悟を決めると息を止めて、煮物(?)を口に運んだ。
#颯斗side ────
朝起きて2階の客人用のリビングへ行くと、テーブルに突っ伏している大和と、エプロン姿のみゆりがいた。
「…早いな二人とも」
あくびをしながら声を掛けると、みゆりがいつも以上の笑顔で近づいて来る。
「おはよぉ、真城クン」
「…?何だ?」
いつもの笑顔のはずなんだが、妙に薄ら寒い。
冷蔵庫から麦茶を出して飲みながら大和の隣に座ると、みゆりは大きな鍋を持って来た。
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