第43話 プロポーズは突然に。
叫んだのは大和だ。
俺を指差しながら、震える声でマリンの名前を叫ぶ。
「マリン…!!俺にはキスしてくれた事ないのに!!」
…そこかよ!!
「何でいつも颯斗ばっかり…!!俺もマリンにチューして欲しい…!!」
嘆きっぷりがガチだな。
愛莉とみゆりが若干引いてるぞ、気付いてるのか大和。
「イヤよ!ヤマトはいっつもマリンにキスして来るけど、シツコイの!アチコチ舐められるのもイヤ!」
(舐め…、え?それは俺も引くぞ)
…姪っ子が可愛いだけだよな?
他意はないよな?信じて良いよな大和…!?
一歩間違えると、ヤバい奴だぞ?
色々とツッコんでやりたいが、マリンに完全拒否された大和の凹みっぷりが凄すぎて、声がかけにくい。
「お兄ちゃん、ハヤトって言うの?」
「…ん、…あ…あぁ」
「ヤマトよりイケメンだし、ヤマトより紳士だし、ヤマトより優しそうだし。…うん、決めたわ」
おいおい、大丈夫か?
さっきから、瀕死の大和に容赦なくトドメを刺しまくってるぞ?
「ハヤト、マリンが大きくなったら、お嫁さんになってあげる!」
「…お…、お嫁さん…!?」
当然、マリンの言葉に一番反応して声をあげたのは大和だ。
年頃の娘が、初めて彼氏を連れて来た時の父親みたいになってんぞ。
「ね?マリンと結婚してくれる?」
「あー…、えっと…」
ここはどうやって答えるのが正解だ?
泣かれるのも面倒だし、YESともNOとも言えねぇぞ。
さりげなく皆んなを見ると、サムは微笑ましそうに見ていやがるし、大和は瀕死だし、愛莉は可愛いー!って楽しんでるし、みゆりはスマホに夢中だ。
(誰もフォローなしかよ)
…確かに、わざわざ助け船を出さなくても、幼い子供と大人の他愛ない会話だよな。
俺が(あと、ガチで大和が)大袈裟に反応し過ぎてるだけだ。
(俺の女嫌い…と言うか、免疫のなさはガキにも適用されるのかよ)
こんなガキの言葉に振り回されてどうする。
「…あー、っと…。そうだな、大人になったら…?えーと…楽しみにしてる…よ」
どう答えるのが正解なのか、全く分からん。
泣かせないように、傷付けないように。
いつもの感じで話さないように、細心の注意をしながら答えると、マリンは眩しい笑顔を向けて来る。
(…ぐッ…、この何も疑ってない純粋な視線はキツい…!!)
今だけだぞ、ガキ。
そんなに人を素直に信じられるのは。
(俺にもこんな頃が…あったんだろうな)
目の前に広がる道が、優しくて幸せなものだと疑わなかった頃。
そしてその平和な道が、ずっと続いて行くんだと、何の根拠もなく信じていた頃。
膝の上でスイカを食べているマリンを見下ろす。
大きくなると、裏切りや現実を知って、このキラキラした目も曇って行くんだろうか。
(まぁ、その頃には、俺との約束なんぞ忘れてるだろうが…)
そして、面白がったサムが俺を息子と呼び出して、その場は色んな意味で阿鼻叫喚の絵図になった(主に大和だ)。
だけど、たまにはこんな穏やかな時間も良いな…と、ガラにもなく思いながら、その夜は更けていった。
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