女嫌いのイケメンは、全ての恋愛フラグをスルーする。

第1話 イケメンに転生する。

…あ、俺死んだ。

職場に向かう為、駅に預けてある自転車に乗っていると、猛スピードで目の前に現れた暴走車。


前は交通事故なんて、運動神経が悪い奴が遭遇するもんだ。と思っていたが、いやいやどうして。


頭で分かっていても、避けられない。

いや、当たり前だけど。


つーか、俺が死んだら、俺が抱えてる案件はどうなるんだ?

自慢じゃないが、俺の職場はブラックで、俺は社畜だ。


こんな時にすら仕事の事を考えてしまう自分が怖い。


それに身体が動かない分、頭は働く。

ほんの一瞬のはずの時間なのに、色々考えられるのがすごい。


こんなクソみたいな人生、別に終わっても良いが、せめて女共に一矢報いっしむくいてから死にたかった。


直視できない程のブサイクに生まれた俺は、当然女に縁がなく、散々酷いことを言われてきた。


一番記憶に刻み込まれてるのは、高校の時にすごく好きだった、委員長のあの子…。

いつも優しく微笑んでる子だったのに、俺が告白した時の嫌そうな顔が忘れられない。


…神様仏様。

今流行りの転生があるなら、今度は普通の顔にして下さい。

そうしたら、今度こそ俺は…。



♢♢♢♢♢♢



鳥の声が聞こえる。

…それと、クソうるせぇ目覚まし時計の音。


「…ッ!?」


ハッと目を開けると、見知らぬ天井が見える。


「…ここ…どこだ?」


つーか、俺死んだんじゃねーの?

起き上がって自分の姿を確認する。


…怪我は…してない。

因みに病院でもない、普通の個人の部屋だ。


ぼんやりした頭で部屋を見回すと、ちょうど枕元の鏡が目に入る。


「…ぅおッ!?誰だ!!?」


思わずベットから飛び降りて、鏡を手にする。

俺は山岸聡太やまぎしそうた、…だよな?


「…??え、ホントに転生ってやつ?」


鏡に映る見知らぬ顔に、心底驚く。

びっくりするくらいのイケメンだ。


…神様仏様。

普通の顔にしてくれって…、そう言ったじゃねーかよ…。


(…ん?)


鏡を見て、今の自分の顔を知ったせいか、今の俺の記憶が一つの映画を見たみたいに、脳に流れ込んで来た。


真城まき 颯斗はやと

年齢二十歳。

大学の為、田舎から上京。

実家は田舎の金持ち、つまり今住んでる部屋も、大学生のくせにアパートじゃなくてマンション。


因みに、大学は在籍してはいるものの、遊びたいが為の進学で、ほとんど行っていない。


というか、全然行ってねぇ。

毎日遊び歩いてる記憶しかねぇぞ。


(…なんだコイツ…)


いや、俺だよ。

信じられんが、イケメンの上に金持ちのお坊ちゃん。

それに遊び人ときたもんだ。

…実は田舎者って所だけ、好感度アップ。


当然だが、小中高とモテモテ人生まっしぐら。

なるほどな。これだけのイケメンなら、そりゃそうだろう。


(最悪のパターンだな…)


自慢じゃないが、前世の俺(聡太)はモテなさすぎて酷い目にあった。

今思い出しても、あれはイジメだ。


自殺しなかった俺、マジで偉い。

…まぁ、事故って死んだけど。


そのせいで、俺は女が大嫌いなのだ。

女という生き物は、どんなに表面上を取り繕っても、中身は悪魔だ。


このルックスなら、女が掃いて捨てるほど寄って来るだろうが、絶対に信用してはいけない。


つまり、イケメンに転生してしまったと言う事は、この世の人間の半分(女)は敵という事だ。


(…気合いを入れていかねぇと…)


そう心に誓いながら、俺は鏡に映る自分に頷いた。



♢♢♢♢♢♢



天気も良いし越して来たばっかだし、取り敢えず自分の住んでる町を散策してみる事にした。


高級住宅ってほどじゃないが、閑静で良い所だ。

大学へもさほど遠くない。


(大学か…)


我ながら、遊び歩いていただけで、大学に行った記憶がない。


(行ってみるか…)


そんな訳で、俺は自分が通っている大学へ行ってみる事にした。


キャンパスを歩いていると、かなり賑やかだ。

やっぱり高校とは違うな。


それに、基本的に俺とは関わり合いになりそうにない、陽キャばかり。

しかもこっちをジロジロ見てる。


(…何だよ?)


今の俺はイケメンで、昔のブサイクと違って気後れする必要はないが、中身はブサイク当時の俺なんだから仕方ない。


ドギマギしながら辺りを見回すと、一人の女と目が合った。


見覚えが…ない。

けど、女は俺をガン見してる。

…知り合いか?どこで会っただろう…。


「真城クン!」


名前を知ってる。

やっぱり知り合いか。


足を止めると、女は小走りに駆け寄って来る。


「…何か用?」


純粋に、本当に何の用なんだろうと聞いたつもりだったが、女が相手という事で、かなり乱暴な物言いになってしまった。


…いかんいかん。

別に敵を作りたい訳じゃねーんだ、普通にすれば良い。


「冷たいなー。ね、サークル入った?同じところにしよって言ってたよね。もぅ…全然大学来ないからさぁ」


「……」


言われてみれば、最初の頃に少し大学に来た時、そんな話をした女がいたような…。


「…あぁ、俺サークル入らねーけど」


「え?何で!?」


大学のサークルっつったら、女がいっぱいいる。

誰がそんな所に好き好んで入るか。


…と、言いかけるが、さすがに言える訳がない。


「…興味ねーから」


そう言って場を濁そうとすると、女は甘えた声で俺の腕に自分の腕を絡めて来た。

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