第11話 ドキドキしないお泊まり会。
#愛莉side ────
漫画家になるのは、小さい頃からの夢だった。
沢山の漫画を読んで、私もこんな風に皆んなをワクワクさせられる漫画が描きたいって思ってた。
でもお父さんとお母さんは許してくれなくて、大喧嘩の末に家出した私は、都会に出て行った幼馴染の家にやって来ていた。
「えぇー!どうしてよ!」
あの軽い颯斗なら、簡単にOKしてくれると思ってたのな、当てが外れてしまった。
「当たり前だろ、田舎に帰れっつーの。なんで俺がお前の面倒見なきゃならねーんだよ。帰れ帰れ」
「お願い!私漫画家になりたいの!」
「…はぁ?」
「高校の頃から漫画を描いてきて、色々な賞に応募したけどダメだった…。でも諦めたくないの!それなのにお父さんとお母さんが…」
「諦めて就職しろってか?当たり前だ」
「諦めたくないんだってば!」
「仕事しながらでも漫画は描けるだろ?」
「…ぅ…」
どうも、子供の頃の性格と違う。
子供の頃は面倒事は嫌いで、何でも楽な方へ流されて、ノリだけで生きてきたような奴のはずなのに。
こんな顔だけのアホ男に、正論で黙らさせられるとは…。
「どう考えても、お前をここに住まわせるメリットが、俺にはねぇ。とっとと帰れ」
「メ…メリットならあるよ!」
このままでは、追い出される可能性もある。
なんとか説得しないと。
「…ほぉ?例えば」
…私に向けられる白い目が、お前に何ができるんだ。と言っている。
「家事得意!」
「そうか、家で叔父さん達の手伝いでもしてやれ」
失敗した!
そう言えば、颯斗は勉強だけじゃなくて、家事全般もそつなくこなしていた。
「嫌だってば!ねぇ、ここに置いてくれたら、食事も掃除も何でもやる!」
すがるように距離を縮める。
この際、使える手は何でも使ってやる…!
せっかく胸元の開いている服を着てるんだ。
さりげなく谷間を見せながら、私は颯斗の太ももに手を置いた。
「あのなぁ…、だったら一人暮らしでもすれば良いだろ」
「お金がかかるじゃん。ねぇ颯斗…私、漫画を描きながら家事するから…」
胸を見せながら、甘えた声で言うと、颯斗はチラっと私の胸元に視線を送り、深く溜め息を吐きながらスマホを取り出した。
「とりあえず今夜は泊まっていい。おじさんには連絡するぞ?」
やった!
色じかけ成功!
「ありがとう!颯斗はお父さん達の信頼あついから、きっと許してもらえる!」
昔っから、大人の前では猫被って、いつも笑顔の優等生を演じてた颯斗だ。
こんな時こそ役にたつ。
「…あー、安心したらお腹すいちゃったぁー。冷蔵庫開けて良い?あ、その前にシャワー浴びたーい。バスルームどこ?…あっち?」
「おい!そっちは俺の寝室…」
ここに来るまでに、ずいぶんと汗をかいた。
とりあえずシャワーを浴びさせて貰おうと、近いところにあったドアを開くと、そこは寝室だった。
「うわー、けっこう綺麗にしてるね!あ!ダブルベットじゃん!颯斗のくせに生意気ー」
ダブルベットだなんて…、彼女でもいるんだろうか?
もしいたらどうしよう…。
そんな事を考えていると、颯斗が私の腕を掴んで部屋の外に連れ出した。
「勝手に入るな、俺は寝相が悪いから、シングルだと落ちるんだよ」
「へー…。…ね、ダブルベットだと一緒に寝られるね?」
#颯斗side ────
「何が一緒に寝られるね?…だ、お前はソファだ」
甘えた顔で見てくる愛莉の鼻を、ギュッとつまむと、愛莉は悲鳴をあげて逃げて行く。
「信っじられない!いきなり鼻つまむ!?」
「脂っぽいな、顔洗え」
「最低!!」
愛莉の鼻をつまんだ、テカテカした指を見ながら言うと、愛莉は真っ赤になってバスルームへ消えて行った。
「…あ」
タイミングを見計らったようにスマホが鳴る。
愛莉のおじさんからだ。
♢♢♢♢♢♢
最悪のパターンだ。
電話に出て状況を説明した俺に、愛莉のおじさんが言ったのは。
「颯斗君と一緒なら安心だな。なるべく早く、そっちにアパートを探すから、見つかるまで愛莉をよろしく頼む」
だったのだ。
…良いのか、それで?
年頃の娘を幼馴染とは言え、ただのお隣さんの息子に預ける事に、何の不安も感じないのか?
(我ながら、大人達の俺への信頼度はどうなってんだ?カンストしてんのか?)
耳を澄ますと、愛莉がシャワーを浴びている音が聞こえる。
(あいつ…分かってやがったな…)
泊めてしまったうえに、親の許可も得てしまった。
こうなってしまったら、おじさんが愛莉にアパートを借りてくれるまでは、ここにおくしかない。
(しばらくはルームシェア…、面倒だが仕方ねぇか…)
女と同居なんぞ死んでもごめんだが、愛莉なら妹みたいなもんだ。
そんなに嫌悪感は出ないだろう。
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