第92話 狙われた颯斗[3]
帰る途中、定食屋で飯食ってから部屋に戻ると、愛莉の部屋の電気は消えていた。
(買ったプレゼントは隠しておかないとな…)
ふと昼間に買った誕生日プレゼントを思い出す。
愛莉は俺の部屋に来ると、頼みもしないのに掃除や片付けを始めるから、きちんと隠しておかないと、あっという間に見つかる可能性が高い。
部屋の中に入ってとりあえずエアコンとテレビを付けるとソファにドカッと座り込む。
(今日は疲れたな。シャワーより風呂に湯入れて、じっくり浸かるか…)
風呂に湯を溜めてる間に愛莉のプレゼントを隠し、スマホを弄っていると、玄関から来客を知らせる音が鳴った。
(……?こんな時間に?)
電気はついてるように見えなかったが愛莉だろうか?
仕方なくドアホンのモニターを見ると、そこに立っていたのは美穂だった。
「……ッ!!?」
思わず後ずさる。
…え?は?何で?
(見間違いか?)
念の為にもう一度モニターを見ると、やっぱり美穂が立っている。
モニターに映っている美穂は首を傾げながら、またしてもピンポン、と音を鳴らす。
(何でここに…)
つーか電気付いてるから、留守のフリは無理じゃねーか。
時計を見ると、もう既に日付は変わってる。
(こんな時間に人ん家を訪ねるか普通…!!)
それにどうやら美穂一人しかいないみたいだ。
足が痛くて歩けなかったくせに…、どうやってここまで来たんだ。
(あのクソ野郎…多めに金渡したってのに…)
このまま無視していれば諦めて帰るか?
いや、帰るも何も終電終わってんじゃねぇか?
(…ここで放置して何かあったら、俺のせいか?)
…仕方ない。
諦めてドアを開けてやると(チェーンはつけてある)、美穂は一瞬だけチェーンを見て眉をひそめたが、すぐに申し訳なさそうな顔になって俺を見つめて来た。
「…すみません、急に来ちゃ…」
「…誰から場所聞いた?」
「…あ…長谷川君…です。終電逃した、どうしよう?ってメッセ入れたら、真城君のマンションが近いよって教えてくれて…」
個人情報って何だっけ?
あの男はブロック決定だ。
「飲み屋を出た時まだ10時頃だったろ。さすがにどんなにチンタラ歩いてたって終電逃す時間じゃないんじゃねーの?こんな時間まで何してたんだ?一緒に帰った奴と一緒だったんだろ?」
二人で飲み直しか?と聞いてみると、美穂は「まさか!」と手を振った。
「彼は…えっと…」
「……?駅までついて来てくれなかったのか?」
「…そ…そうなんです。あの…私…途中で置いていかれちゃって…、ここまでやっと歩いて来て…」
…本当か嘘かは確かめる方法がないな。
たまたまフープで会って、その場の勢いで行った飲み会だしな…。
当然だが連絡先なんぞ交換していない。
「…それで?俺になんか用なのか?」
「真城君…その前に入れて貰えません?」
「彼女の友達を夜中に部屋に入れるとか、さすがに出来るわけねーだろ?…千代音呼んでやろうか?」
アイツが何処に住んでるかは知らんが、さすがに困った友人を放っておかねぇだろ。
そう言うと、美穂は「…あっ!」と声をあげてしゃがみ込んだ。
「い…いたた…、捻った足首が…」
「………」
何処から突っ込んだら良いのか、誰か教えてくれ。
ここまで歩いて来たんだよな?その間は痛くなかったんだよな?
(はぁ…、一応千代音と付き合ってる事になってるし、千代音の知り合いを放っとく訳にもいかねーか…)
仕方なくチェーンを外すと、美穂は嬉しそうに部屋に入って来た。
#美穂side ────
ここまでは予定通り。
本当は別に足なんか怪我してないんだから、駅からここまで歩いてくるのも問題ない。
あの金を渡されてたブサイクは、途中で喉が渇いたってジュースを頼んで買いに行かせてる間にサヨナラした。
今頃焦って探してるかもね。
それに颯斗も千代音と付き合ってるんだし、最初から簡単に部屋に入れてくれるとは思ってなかった。
でも誰がどう見ても千代音と私なら、100人中100人が私を選ぶでしょ。
(可愛い子が訪ねて来て、部屋に入れない男なんている訳ない…)
案の定、コイツも何だかんだ言って部屋に入れてる。
そのつもりに決まってる。
部屋の中を見回すと、千代音の気配どころか、女の気配自体がない。
(…ふーん…こんな感じなんだぁ…)
「適当に座ってくれ。俺風呂入ってくるから、自分で千代音呼べんだろ?」
そう言うと、颯斗はさっさと姿を消した。
…呼ぶ訳ないじゃん。私今日はここに泊まるんだし。
耳を澄ませると、シャワーの音と水音が聞こえて来る。
(こっちかな…)
音のする方へ向かうと、すぐにお風呂場は見つかった。
コッソリと脱衣所からシャワールームを覗くと、颯斗はバスタブに浸かってるみたい。
(さてと…どうしよっかなー、出てくるのを待っても良いけど…。手っ取り早く落とすなら、このチャンスは見逃せないよね)
私は鏡の前でメイクのチェックをしてから、髪をアップにまとめて服を脱いだ。
裸の身体にバスタオルを巻き付けると、迷う事なくドアを開けてシャワールームへ入る。
すると颯斗がギョッとした顔で固まった。
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