第30話 ガンバレ大和くん!

そして30分後。

なかなか怒りの収まらない愛莉に、何か好きな物を買ってやるからと約束し、事態は収束した。


当然だが、買うのは大和だ。


ラフな部屋着だった愛莉は、とりあえず着替えに行ってる。


「彼女かと思ったら幼馴染かよ」


「…当たり前だ。トラブル持ち込んでんじゃねーよ、クソ野郎。何しに来たんだ」


「何しにって…、別に。…ただ、最近見ないからどうしたかと思ったんだよ」


「…田舎に帰ってたんだよ、いちいち言う必要あるか?」


「そりゃないけど、心配するだろ?普通…、でも部屋で倒れてるとかじゃなくて安心したぜ」


そう言った大和の顔が、本当に安心したみたいに見える。

…そうか、マジで心配してくれてたんだな。


友達だなんぞ、微塵も思ってもいなかったが…。

もう少しだけ、仲良くしてやっても良いかも知れないな。


「だってさー、お前がいなかったら、女の子誘うエサがなくなっちまうだろ?」


…前言撤回。

コイツはやっぱ他人だ。

俺の事、客寄せパンダとしか見てねぇ。


「…あ」


声を上げた大和の視線を追うと、着替えた愛莉が部屋から出て来た所だった。


ジロリと愛莉に睨まれた大和は、小動物みたいに俺の後ろに隠れる。


「…はぁ…、もう許してやれ愛莉」


「人の荷物をあさっておいて…」


「詫びに、コイツに好きな物買わせていいから」


「人の下着を見ておいて…」


「…金額上限なしだ」


「………、仕方ないわね。ジェラ◯ケのルームウェアで手を打つわ」


大和が「えっ!?」という顔をしてるが、自業自得だ。

ハイブランドじゃないだけマシだろ。


「…それで?まさか様子を見に来ただけじゃないだろ?用があるんじゃねーのか」


「そうそう!颯斗、お前さ、俺と一緒に海に行かないか?」


「あぁ、行かねぇ」


「即答!もう少し考えて!」


「…はぁ、海だって?」


「そう、俺の親戚が民泊と海の家やってんだよ。二、三人連れて、数日バイトしに来てくれって頼まれて。もちろん、バイト代出るし、民泊代も掛からない」


「…却下だ」


「えー!!お前いつもそうじゃんかー!!」


当たり前だろ、誰が行くか。

しかも陽キャしか集まらないような場所へ、わざわざ行く気が知れん。


「海の家でバイトしたら、女の子の水着姿が眺め放題なんだよ!」


「…その情報で俺が動くと思うのか?」


「思わない」


「さすが親友、正解だ。さっさと帰って、クソして寝ろ」


「颯斗ぉおーー!!」


「抱きつくな!気持ちワリィ!!」


俺の腰に抱きつきながら、大和は必死だ。


「ひと夏の思い出が欲しいよー!!」


まだ新しい彼女が出来てないのか。

コイツならすぐに出来ると思ったんだが…。


そんな事を思っていると、愛莉が横から口を挟んで来た。


「えーと、大和…さん?」


「…え?」


「彼女いないんですか」


…さすが、容赦ねぇな。


「不思議ですねー。なんか人懐っこいワンコみたいで可愛いのに」


…おぉ、確かに言われてみれば。

人間に警戒心を持たない犬みたいだな。


「え…、じゃあ愛莉ちゃん、俺と付き合っ…」


「あ、無理です」


全てを聞かずに、バッサリと切られた大和は、盗み食いをして怒られた犬みたいだな。


「私、軽そうな人って好みじゃないんです」


「重い人が好きって事…?俺、付き合うとけっこう重いよ?」


バカ大和、それはアピールポイントじゃねぇ。


「ストーカー気質の人もちょっと…」


だろうな。

招待されてもいないのに勝手に家まで来て、人ん家の荷物を勝手にあさる時点で無理だ。


愛莉の大和への第一印象は、おそらく回復のしようがない。


「さて、話は終わりだな」


そろそろお帰り願おうと思って立ち上がると、大和は俺の腕を掴んで、耳元に小声で囁いて来た。


「交換条件だ」


「…はぁ?」


「欲しいんだろ?…新見晴子の情報」


「…!!てめえ…」


「俺には頼み事するのに、俺の頼みは聞いてくれないのぉ?」


「…クソ!…」


何の話?と言う顔で、愛莉が首を傾げているが、無視だ。


「…分かった、行ってやる」


背に腹はかえられん。

事実、頼み事をしたんだし、コイツの頼みを聞いてやらなきゃ、確かにフェアじゃないからな。

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