第31話 波乱の予感。

そして何故か、私も行く!と言い出した愛莉も一緒に、海の家へバイトに行く事になった。


嬉しそうに帰って行く大和と、絶望に打ちひしがれた俺の温度差がすごい。


ちなみに俺と愛莉の他にもう一人誘ったらしく、駅前に集合という事になっている。


(もう一人は誰だ?アイツ交友関係が広すぎて、誰が来るか分からんな…。ま、誰でもいいけど)


愛莉は人見知りしねぇし、大丈夫だろ。


(それにしても…)


イベント事なんぞ興味ねえのに、夏祭りに行って、今度は海だと?

完全に、夏満喫!状態じゃねぇか。


あぁ…、面倒くさい。

一人で引きこもっていたい…。

いや、引きこもっても、一人じゃないんだが。


「ねぇ颯斗」


「…ん?」


「海の家のバイトって、来週からでしょ?その前に水着を買いに行きたいんだけど」


「…勝手に行け」


「一緒に行ってよ」


「何で俺が?一人で行けよ、子供じゃねぇんだから」


「だって似合う水着見て欲しいもの」


いや、それこそ俺の役目じゃねぇだろ。

ただの幼馴染に、そんな事頼むから普通?


「水着なんて、どんなんでもいいだろ」


「そんなわけにはいかないわよ、やっぱり可愛いのが欲しいじゃない」


「俺が一緒に行ったって、役に立つとは思えねぇ」


「選んでくれなくても良いから!一緒に行ってくれるだけで良いから!」


ねー、お願い!と言いながら、迫ってく愛莉に、俺は渋々頷いた。


これ以上言い合うのが面倒だからだ。



♢♢♢♢♢♢



それからの数日は、なるべくレポートを進めたり、単位のために大学に行き、あっという間に約束の日になった。


朝早くから駅に集合だったせいで、とにかく眠い。


愛莉のせいで、相変わらずリビングのソファで寝ているせいもあって、最近は疲れがなかなか取れない。


「…ふぁ…」


あくびをしながら待ち合わせ場所に向かった俺と愛莉に、すでに待っていた大和が気づいて手を上げる。


「…あ、こっちこっち!」


「おはようございます、大和さん」


外行きの笑顔で愛莉が挨拶する。


「呼び捨てで良いよー、その代わり、俺も愛莉って呼んでもいい?」


「おはようございます、大和さん」


…さすがだ。

笑顔のまま完全に拒否された大和は、すごすごと俺に向かってくる。


「フラれた」


「…そうか」


正直、あの最悪の初対面以降、顔を合わせる事もなく、悪印象が少しも変わってないのに、馴れ馴れしく出来るコイツの度胸がすごいと思う、


「…それより、もう一人は?もう電車の時間だろう?」


「あぁ、大丈夫。さっきタクシーで向かってるってメッセ来たから、もう来ると思うよ」


それを言い終えないうちに、一台のタクシーが俺たちの側に停まった。


「ほら来た」


そう言って大和が近付くと、タクシーのドアが開く。

そしてそこから降りて来たのは…。


「…え」


「おはよー、真城クンッ」


見間違うはずもない、みゆりだ。

思わず隣の愛莉を見る。


案の定、愛莉は顔をひきつらせている。


(大和お前…、知らん事とは言え、最悪な事をしてくれたな…)


そんな俺の気持ちなど知りもせず、愛莉に気付いたみゆりは、ニコッと笑って、愛莉の顔を覗き込んだ。


「あらー?真城クンの、幼馴染の愛莉さん?おはようッ」


「…おはよう、颯斗のお友達の…どなたでしたっけ?」


今度はその愛莉の返しに、みゆりが顔をひきつらせる番だった。


(…もう既に帰りてぇ)


当然だが、この二人の最悪の初対面を知らない大和は、頭の上に「?」マークが浮かんでる。


今回の海への旅行、どうも波乱が待ってそうだと、俺一人だけ溜め息を吐いた。

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