第32話 波乱の幕開け。
それから◯◯県にある、大和の親戚がやっているという民宿まで数時間。
電車の中の雰囲気は一触即発だった。
愛莉とみゆりは、お互いに顔も合わせねぇし、大和が何とか盛り上げようと話を振っても、完全に暖簾に腕押し状態だ。
(すまんな、大和…。俺は到着まで寝たふりをさせて貰う)
何度か三人が話しかけて来たが、全部無視して寝たふりをしてるうち、俺は本当に寝てしまった。
隣に座っていた大和に、そろそろ降りる駅だぞ。と話し掛けられるまで、熟睡していた。
…疲れてんだなー、俺。
まだ半分寝ている状態で、なんとか目を開けて窓の外を見ると、そこには鮮やかな青が広がっていた。
「…海、か…」
太陽に照らされて光っている海面に、思わず声が出る。
「やっと起きたか、もうあと十分くらいで駅に着くぞ」
そう言って腕時計を見る大和と、寝ている間に打ち解けたらしい愛莉とみゆりが、キャアキャア言いながら窓の外を指差している。
(…女ってのは分からんな)
あくびをしながら伸びをすると、目の前の愛莉がペットボトルのお茶を差し出して来た。
「おはよ、ずっと寝てたわね。疲れてるんじゃないの?よく眠れてる?」
「……」
お前が言うか。と思うが、グッとこらえる。
この話が長くなると、色々と厄介だ。
せっかく愛莉と大和に口止めして、俺が愛莉と暮らしている事は、三人の秘密になっているんだ。
わざわざ自分から、みゆりにバラす訳にはいかない。
(何で俺こんなに気ぃ使ってんだ…)
アホらしい。と思いつつ、窓の外を見る。
そこには絵に描いたような青い空と白い雲。
そして俺の心とは正反対の、光る海が見えていた。
♢♢♢♢♢♢
「着いたー!!」
最初に電車から飛び降りて、大きく伸びをしたのは愛莉だ。
コイツは昔から大人しくしている事が苦手だからな。
続けて大和、それからみゆりが降りて、最後に俺が降りる。
(…潮の香りがするな)
さすがの俺も少しワクワクする。
(海なんか、何年振りだ?)
ガキの頃に家族で行った、潮干狩りが最後か?
「とりあえず、ウチに荷物置きに行こうぜ。動き回るなら、手ぶらが良いもんな」
「大和さんの親戚がやってる民泊なんですよね?近いんですか?」
「いや、海からは近いけど、
大和はそう言ってキョロキョロする。
「…電車の時間は伝えてあるんだけどな…」
「どんな車なんだ?」
一緒に探そうと聞くと、大和は「あ!あったあった!」と、一台の車を指差した。
(…おぉ…真っ赤だ…)
そこには夏の海にぴったりの、真っ赤なオープンカーが停まっていた。
運転席に乗っているのは、金髪のゴツいオッサンだ。
…?……??
…従兄弟?なのか?
…アレが?アメリカ軍人とかじゃねぇの?
身長は2メートル近くあるだろうか。
ムッキムキの身体は日に焼けて、ボディビルダーを思い出す。
髪はオールバックに固めてあり、ハッキリと見える耳にはピアスが沢山だ。
「言いたい事は分かるぜ、あれでも従兄弟だ、日本人だ。…歳はメッチャ離れてるけどな」
…いや、親の兄弟が多ければ、歳の離れた従兄弟も、そりゃいるだろうが…。
それでもお前とイメージ違い過ぎだぞ。
いきなり「HAHAHAHA!
マジで血ィ繋がってんのか?
そんな俺の気持ちなどお構いなしに、大和は「イワオ兄さん!」と手を振っている。
「あ…、厳しい男って書いて
いらねぇ情報だよ、巌男ってツラかよ。
ジョニーとかアンディとかの方が、まだしっくり来るぞ。
近づいて来た大和の従兄弟は、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「やぁ!君たちがヤマトの友達か!俺は巌男。気軽にサムって呼んでくれ!」
いや、サムってなんだよ、本名に一文字もカスってねえし。
「サ」と「ム」はどっから出てきた?
いっそ清々しいほどにツッコミ所満載で、逆にめんどくせぇぞ。
「何言ってんだよ、兄さん。…ごめんな皆んな。イワオ兄さんって、少しアメリカ
「ハハハ!アメリカは行った事ないんどけどな!」
…ないのかよ!
(ツッコミ待ちなのか?それとも素なのか?)
「今回はよろしく頼む!…さぁ、君たちが泊まる所に案内しよう、乗ってくれ」
そうして、俺たちはサムの車に乗って民泊へ向かった。
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