第33話 仁義なき女の闘い

大和の言っていた通り、民泊は海のすぐ近くだった。

しかも結構広い。


「すごーい!窓から海がよく見える!」


案内された2階の部屋の窓から、身を乗り出して外を見たみゆりがはしゃぐ。


部屋は純和風の畳張りで、窓際だけテーブルとイスを置くためにフローリングになっていた。


「…ふぅ、田舎のおばあちゃん家に遊びに来たってイメージね」


荷物を置いた愛莉の言葉に俺も頷く。

俺や愛莉のばあちゃん家もこんな感じだから、下手にお洒落な場所より、全然くつろげそうだ。


ちなみにだが、愛莉とみゆりの荷物を運ぶために付いて来ただけで、俺と大和の部屋は当然別だ。


2階は全部、泊り客用のフロアになってるらしく、簡単なキッチンもある。


風呂は一階で暮らす大和の家族と一緒らしいが、見に行ったら、かなり広かった。

温泉みたいな作りになっていて、外の景色が一望できる。


「お風呂は時間で男女分かれてるけど湯船は同じ。あ、お湯はちゃんと入れ替えるから」


そうやって、大和に民泊の中を一通り案内して貰って、いざ海の家へ出発する事になった。



♢♢♢♢♢♢



海辺に隣接する駐車場へ車を停めて、それぞれが靴からサンダルに履き替える。


別に海で遊ぶつもりはないが、靴の中が砂だらけにはっても困るからな。


「あそこに見えるのが俺の店…、君たちに働いてもらう海の家だ」


そう言ってサムが指差した方を見ると、そこには完全にアメリカナイズされた海の家があった。


(…海の家っつーか…、あの付近だけ完全にハワイアンだな)


小さいボロ小屋みてーな海の家と、周りに少しのテーブルやイスがあるだけだと思ってたから、完全に予想外だ。


皆んなで海の家に行くと、サムはハワイアンレイを首にかけた。


「ようこそ!俺の海の家へ!アローハー!」


もうツッコむのも面倒だ。

親指と小指を立てた、サムのアロハサインを無視して海の家へ入る。


「わぁ!素敵!」


「すごいわね、本格的にハワイみたい」


愛莉とみゆりは楽しそうに見回している。


「海の家っつーから、もう少し簡単な作りかと思ったら、本格的に店っぽいんだな」


正直、民泊の建物が田舎の良さを体現したような感じだったから、海の家も昔ながらのイメージだった。


だが店内のコルクボードには、色んな雑誌やネットで紹介されたらしく、記事が貼られている。

どうやらフォトスポットとしても人気らしい。


メニューも見栄えや量など、いわゆる"映え"を狙った物が多い。


(なるほどな、こりゃ混みそうだ…)


まだ早い時間だっつーのに、すでに砂浜は混雑し始めてる。

軽い気持ちでいたが、予想外にハードなバイトになりそうだ。


「じゃあ皆んな水着に着替えて来てくれ、まさか浜辺で服着て接客ってワケにいかないからな」


そういうサムに、愛莉とみゆりは嬉しそうに頷いて更衣室へと向かって行った。



#みゆりside ────



颯斗が来るって言うから来ただけで、大和の親戚なんか期待してなかったけど、これなら楽しいバイトが出来そう。


(にしても…、もう一人来るってのは聞いてたけど、まさかあの時の女だったなんて…)


今回の泊まりがけのバイトで、颯斗を落とそうと思ってたのに、邪魔になりそう。


(まぁでも、シチュエーション的には私に有利みたいね)


隣で水着に着替えてる愛莉を横目で見ると、子供みたいな体型をしてる。


(貧乳…)


思わずクスッと笑うと、それに気付いた愛莉が睨んできた。


「…何か?」


「別にぃ?ただ、羨ましいと思っただけ」


そう言うと、何の事なのか察しがついたらしい。

愛莉はヒクッと顔を引き攣らせる。


「…そうね。みゆりさんは、を二つも抱えてるものね」


「…下品な爆弾ですって!?のくせに!」


「デブよりマシよ!」


「誰がデブよ!引っ込むところは、ちゃんと引っ込んでるわよ!」


悪いけど、スタイルには気を使ってるのよ!

貧相な身体をした愛莉に、自慢のCカップを見せつけるようにすると、愛莉も私に胸を張って来た。


「男の人は、細くて華奢な女の子の方が好きなんじゃないかしら?」


…確かに、女の私から見ても、細い腰と折れそうな手足は守ってあげたくなる儚さ…。


(これは…颯斗の好みがセクシー系なのか、それとも可憐系なのかによるわね)


当然私は、スタイルの良さを強調できるビキニだけど、愛莉は可愛らしいワンピース型の水着を着てる。


(愛莉は幼馴染だし、颯斗の好みが分かってるのかも…)


もしかしたら水着の選択を間違えた…?

そう思っていると、更衣室の外で待っている男陣の方から「まだかー?」と声が聞こえて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る