第130話 女達の仁義なき戦い。

愛莉に対するこの様子を見てると、たまたま気に入ったとかじゃなくて、マジで惚れてんのかな…って地味に思う。


(コイツが女に本気になってんのとか、ちょっとイメージわかねーけど……)


……ま、俺には関係ないけどな。

雑誌を見ながら大和の電話に耳を傾けると、微かにだが電話の向こうの愛莉の声も聞こえる。


「…今大丈夫?…うん、そうそう。颯斗と一緒ー」


楽しそうに世間話をしてる大和を横目に、俺はまた雑誌に目を落とした。


(……温泉か、まぁ海の家より俺的にはアリだな)


パラパラと雑誌をめくってみると、全体的に雰囲気が良い旅館が紹介されてる。

そりゃこれ見たら行きたくなるわ……。


「でさ?本題なんだけどー」


(本題出すまでが長ぇだろ…)


「今颯斗と温泉行こうぜって話しててさ、うん、温泉」


(行こうぜって言ってたのはお前だけだけどな)


「愛莉ちゃんも誘ってみようと思って。……うん、………うん。…みゆりちゃん?」


そう言うと、大和はチラッと俺を見てから素早く目を逸らした。


「みゆりちゃんはまだ誘ってないよー、……え?いや、分からないけど」


(嘘つけ、みゆりは行くだろうって、ほぼ確定事項みてぇに言ってただろうが……)


確かに愛莉はみゆりとあまり仲が良くない。

みゆりが来る事が決定してたら、愛莉は来ないかも知れねーもんな。


みゆりの参加について曖昧にぼかした大和を見ながら、俺は大和に見せつけるように盛大に溜め息を吐いてやった。






結局(分かってた事だが)、愛莉もみゆりも温泉旅行に行く事になり、どの旅館にするか4人で話そうと、大学の近くにあるファミレスに集まる事になった。


みゆりは今日は大学に来ておらず、直接向かうとの事で、俺は大和と2人でファミレスに向かう。


「いやー、温泉楽しみだなー」


「おっさんか」


「え?颯斗は楽しみじゃないの?湯上がり浴衣姿の、愛莉ちゃんとみゆりちゃん。湯上がりで頬が桜色に染まって、うなじから見える汗ばんだ肌と……」


「黙れ、楽しみってそっちかよ。お前…完全に考えがおっさんなんだよ」


「あー、そっか。颯斗は愛莉ちゃんの湯上がり姿なんて毎日見てるもんな」


「見てねーよ」


そんないつもの軽口を叩きながらファミレスへ向かって歩いた俺は、大学を出てからずっと後を付けて来てる人物に気付いてなかった。






集合場所のファミレスについて、先に飲み物を頼んで大和と話していると、急に目の前のテーブルが暗くなる。


(……?)


俺の傍に誰か立ったんだと気付いて顔を上げるのと同時に、その誰かが俺の隣に強引に座って来た。


「……!お前……!」


こんな事をするのはみゆりか?とも思ったが外れた。

隣に強引に座って来たのは……。

来たのは………。


「……何でお前がここにいるんだよ。えーと……何だっけ名前……」


高校の時の同級生だ。

確か俺の元カノ……名前が思い出せん。

つい名前が思い出せない事を声に出すと、女は「なに冗談言ってんのー、さっきココに入るの見かけて、一緒に入っちゃった」と俺の腕に抱きついて来る。


当然だが初対面の大和は笑顔のまま固まってやがる。


「えーと……、どちらさま?」


説明しろと言わんばかりに俺を見て来る大和に、仕方なく「高校の時の同級生」だと言おうとすると、女は俺の言葉に被せて自己紹介した。


「そういうそっちは誰?あ、私は彩綾さあや。まぁ……颯斗の…元カノ?」


彩綾がそう言うと、大和は一瞬だけキョトンとした後、楽しそうに笑う。


「……へぇ?元カノ……」


本気にしてるのかしてないのか。

大和は「ふーん?」と目を細めて笑っている。


「おい。彩綾、お前……」


わざわざ元カノって言う必要ねぇだろう?

ついカッとして立ちあがろうとすると、タイミング悪くみゆりがやって来た。


「あ、みゆりちゃーん!こっちこっち!」


大和があっけらかんと、みゆりに向かって手を振ると、こっちに気付いたみゆりは笑顔で手を振り……、彩綾を見て顔を凍り付かせた。


そのまま無表情で近づいて来ると、席には座らずに俺に抱きついてる彩綾を睨む。


「真城クン、誰ー?この女ー」


俺に向けるのは笑顔だが、目は笑っていない。

ダメだ、帰りたい。

やっぱり来るんじゃなかった。


だが後の後悔先に立たず、だ。

既にバトルの火蓋は切って落とされた。



♢♢♢♢♢♢



みゆりが「アンタ誰?」と不機嫌そうに、俺の腕に抱きついている彩綾を睨むが、彩綾はさっきと同じで「は?颯斗の元カノだけど?」と言ったまま俺から離れようとしない。


「えー?真城クンの元カノ?その元カノが何でここにいんの?」


「いちゃ悪い?」


そうふてぶてしく返した彩綾に、みゆりは笑顔で「悪いでしょ」と答えて、彩綾の腕を掴んで俺から離すように無理矢理に引いて立たせる。


勢いよく引かれた彩綾はその勢いのまま立ち上がると、みゆりの隣に立ってみゆりを睨んだ。


「…何すんだよ、クソ女」


そういや彩綾は高校の時から素行が悪かったな。

みゆりはホワホワしてるし、大丈夫か…?とみゆりを見ると、みゆりは笑顔をすっと真顔に変えた。


「クソ女はどっちだよ、元カノは元カノらしく消えてろよ」


………はい?

あぁ…なるほど。このみゆりは、あの寝起きの時ののみゆりだ。

ダークサイドみゆりと名付けようか。


「何でンな事アンタに言われないといけないわけ?つーか誰よアンタ」


「真城クンの今カノだけどぉ?」


「違うだろ!!」


普段なら女同士の喧嘩に口は出さないんだが、ついツッコミを入れてしまった。

するとみゆりが俺に笑顔を見せて来る。


「照れてるだけよねぇ?」


「照れてねぇし付き合ってねぇ!!」


「えー?こないだ一緒にラブホに泊まったじゃない」


「黙れ!!泊まっただけだろ!」


つい大和を見ながら言い訳すると、大和は楽しそうにニヤニヤしながら事の成り行きを見ている。

…相変わらず役に立たねぇ野郎だ…!!


楽しそうな大和を睨んでやると、彩綾がみゆりを鼻で笑う。


「颯斗は泊まっただけって言ってるけど?ヤッてもないくせに彼女面?私はヤったんだけど」


「お前も張り合ってんじゃねぇよ!バカ女!!お前とも付き合った覚えたねーぞ!!」


確かにヤった(らしい)が、付き合うなんて話はしてない……はずだ!!


「…らしいわよぉ?」


「は?何が?」


アンタも同じじゃない。と肩を竦めるみゆりを、ジロリと彩綾が睨むが、みゆりは気にもせずに笑っている。


「アンタもヤっただけで、付き合ってないんじゃないってコト」


「あー?てめぇこそヤってもねぇくせに、何が今カノだよ」


ずい、と彩綾がみゆりに顔を近付けると(やってる事が完全に昔のヤ◯キーのソレだ)、みゆりは気にもせずに自分からも彩綾に顔を近付ける。


「……とりあえず身近にいただけの、ごときが…人間様の言葉しゃべんな。生意気なんだよ」


みゆり……お前口悪すぎ。

いや、彩綾もだけど…。


「ちょっと颯斗!付き合ってたようなもんでしょ?私達!!」


彩綾がそう言って俺に近づいて来るが、みゆりがそんな彩綾と俺の間に割り込んだ。


「へぇー?そうなのー?どっちが告白したのぉ?身体の関係になったから、付き合ってると勝手に思ってただけじゃない?付き合ってるみたいになったけど、真城クンの事だから、誤解解くのも面倒で放置されてただけ…って感じ?用があったのは、アンタのだけじゃなぁい?」


「……ッ!!ガバガバなのはテメェの方だろ!!」


助けて誰か……。

穴があったら入りたい、逃げ出したい、つーかもぅ消えたい。


どうやったらこの戦場を平定させられるのか…。

さすがに大和にも協力させようとすると、大和が「…あ」と言って視線を動かした。

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