第129話 大和の本音。
#大和side ────
参ったな、晴ちゃんがダンマリ決め込んじゃった。
颯斗の正体を知りたいって事で頭がいっぱいで、自分の中での気持ちの整理が追いついてない感じかな。
(うーん…性急すぎたかなぁ…?)
でも俺としても、晴ちゃんだけに任せて置けない理由がある。
晴ちゃんの今後の行動次第で、親友が消えるかも知れないんだしね。
……そう考えると、少し寂しい感じがする。
幽霊とか面白いじゃん、としか思ってなかったけど、結果的に俺の知ってる颯斗がいなくなるって事を想像すると何か嫌だな。
(俺…けっこう颯斗の事好きだったのかな…)
正直、親友なんて、適当に言ってるだけだった。
颯斗に限らず、親友だなんて思った奴いなかったし。
颯斗の事だって「親友」って言った時の反応が面白くて言ってただけだし、アイツが一緒にいると女の子もよく捕まえられたし……。
でもただそれだけで、本気で親友なんて呼んだ事も…ましてや思った事もなかった。
(それなのになぁ…、誰とでも割り切った付き合いしてるつもりだったのに)
思い出す、俺の言葉に対して素直な反応をする颯斗の姿。
まぁ素直というか純粋というか…、面白いんだよなぁ、反応が。
欲しいところで的確なツッコミくれるし、場の空気も読めるし、……馬鹿じゃないところが気に入ってた。
俺がアホキャラなんだから、一緒にいるのは冷静かつ的確に突っ込んでくれる奴でないと、俺がただのアホになっちゃうしね?
(いや、そっちのケはないよ?ないけど……)
颯斗の素直じゃなさそうに笑う顔を思い浮かべながら、俺はずっと気になってた事を聞いてみた。
「ねぇ晴ちゃん?その晴ちゃんの好きだった人って…、名前なんていうの?」
ずっと聞いてみようと思ってた。
俺の……、俺の
聞いて良いのかどうか分からないけど、単刀直入に聞いてみると、晴ちゃんは丁寧に「山岸聡太」ってフルネームを教えてくれた。
「山岸…聡太ね」
思ったより普通の名前だな。
全然顔のイメージが湧かないや。
俺らの中で聡太の顔を知ってるのは晴ちゃんだけだもんな。
「どんな顔してたの?写真ある?」
『…顔……説明しにくいな…。アルバムなら探せば実家にあるかも』
「あ、見せて見せてー。実家に帰る用がある時で良いからさッ。やっぱり女受けの良い顔してるの?」
『その言い方はちょっと棘が……、でも普通かしら。クラスに数人はいそうな感じの……』
…モブっぽいって事かな?
言われてみれば、颯斗の性格とか態度とか…、少し陰キャっぽいもんね。
イケメンだからクール属性に分類されて許されてるけど、あれがモブ顔だったら女の子から、暗いだのキモいだのと、間違いなく陰口叩かれるタイプ……。
(なるほどなるほど……、……ん?)
そこまで考えた時点で、ふと思いつく。
晴ちゃんは確か、学生の時のクラスでのイジメが原因で教師を目指したって話だけど、それってもしかして……。
「ねぇ、もしかして晴ちゃんの教師目指したキッカケのイジメって……」
ついそう口に出すと、晴ちゃんは『勘が鋭いね』と返事に詰まる。
(やっぱりか)
いじめられっ子ってイメージは今の颯斗には勿論ないし、奴の性格上、例え陰キャだとしてもイジメられてた…って事はなさそうなんだけどなぁ。
強いて言うなら、イジメられても気にしなそう…って感じ?
それを晴ちゃんに伝えると、晴ちゃんは『あはは…』と濁すみたいに笑う。
『正解…かなぁ…、私の目にはイジメられてるように見えたし、私ならあんな事されたらイジメられてると思うんだけど……。後から考えたら、山岸君は気にしてなかったんだろうな…って』
「やっぱねー、アイツほら…ふてぶてしいし」
そう言うと晴ちゃんは、堪えきれないって感じで吹き出した。
それから少し颯斗…じゃなくて聡太の話を聞かせてくれたけど、どの話も俺には颯斗の事にしか聞こえないし思えない。
それでやっと心の中に、颯斗=聡太であり、俺の親友はホントに幽霊だったんだな…って、ようやくストンと落ちた。
(俺……いつまで
#颯斗side ────
「温泉旅行…?」
久し振りに大学内で大和に会って、一緒に飯食ってた俺は、何の脈絡もなく温泉に行こうと言い出した大和に白い目を向ける。
「そそ!ど?行こうぜ!冬と言えば温泉!男女の距離が近くなる場!」
「…頭沸いてんな、勝手に行けよ」
急に何を言い出すかと思えば…。
夏もこの流れで海に行って、面倒なバイトまでやらされた。
二度はごめんだ。
「またまたぁー、そんな事言って…何だかんだ言って来てくれるく・せ・にッ」
「気色悪ぃな…!!」
く・せ・にッと高い声で言いながら、人差し指で俺をつつく大和から距離を取る。
「いいじゃん、夏の思い出作ったんだし、今度は冬の思い出だろ?」
「思い出?そんなもんわざわざ作らなくても、いつの間にか出来てるもんだろ。卒業だってまだだし、これから嫌でもまだ顔付き合わせんだろーが」
そう言うと、大和は一瞬だけ顔を曇らせて、すぐにいつもの胡散くさい笑顔に戻った。
「えぇー?確かにこれからずっと死ぬまで一緒にいるとしてもさー、今年の冬は今年だけだぜ?」
「そこまで言ってねぇよ!だれが死ぬまでお前と一緒にいるか!!」
大学卒業したら、お前との縁も終わりだって言おうとして、何故か言葉が止まる。
言いたくないような…、言っちゃいけないような。
なんか、そんな気がしたからだ。
「………」
楽しそうに温泉特集が載ってる雑誌を広げる大和を見ながら、俺は海に行った夏を思い出す。
(そうだな…、冗談抜きで大学卒業したら疎遠になるかも知れねぇし…)
認めたくはないが、コイツといるのは楽しい。
…絶対に本人には言わないが。
俺は隠れて溜息を吐くと、大和から顔を逸らしたまま、モゴモゴと口を開いた。
「……まぁ…その…、行っても良いぞ……」
そう言ってチラッと大和を見ると、大和はキョトンとした顔をしてる。
「……は?」
「…は?じゃねーよ、行ってやっても良いって言ってんだよ」
恥ずかしいのを我慢してもう一度言うと、大和は当然みてーに頷く。
「うん、当たり前じゃん。そもそも聞いただけで、颯斗に拒否権ないし。断るのは分かってて聞いたし、断っても何だかんだ言って来るのは分かってたし」
「………」
らしくないのを我慢して、行くって言ってやったのに、何なんだコイツは…。
「……はぁー、アホくさ」
怒る気もなくなって、俺は頬杖つきながら大和の見てる雑誌に視線を落とす。
「……へぇ、その旅館…純和風でけっこう良いな」
「だろ?それに古いから安いし。みゆりちゃんは行くだろうけど…、愛莉ちゃんは行くかなぁ?主に金銭面が気になるけど…」
そう言われて、ぼんやりと最近の愛莉の様子を思い浮かべる。
ネットで受けてるらしいイラストの仕事もそれなりに忙しそうだし、無駄遣いしてなければ旅行代くらいは捻出できそうだが…。
(あいつも生活が楽なわけじゃねーし、無理に誘いたくねーな。誘えば余裕がなくても行きたがるだろうしなぁ……)
そんな事を考えてると、大和は自分のスマホを出すと、さっそく愛莉へと電話をかける。
(……行動早いな)
そうだよな。
もう俺が間に入らなくても、二人で勝手にやり取りしてんだもんな。
どこか寂しいような、勝手にしてくれというような。
複雑な思いで大和を見ていると、愛莉が電話に出たのか大和の顔がパッと明るくなった。
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