第128話 晴子の思惑。
#大和side ────
愛莉ちゃんから聞いた颯斗の話を、晴ちゃんへ伝えたのは、俺が愛莉ちゃんと電話で話してから数日後だった。
すぐに連絡しなかったのは、今手に入れた情報を、ある程度自分の中で消化して理解しておきたかったから。
状況や気になる事を要約するとこんな感じ。
▪ 晴ちゃんは颯斗に、本当に幽霊が取り憑いてると思ってるのか。
▪ その幽霊は晴ちゃんの同級生なのか。
▪ それが本当なら、本来の颯斗(の人格)はどうしてるのか。
▪ 晴ちゃんの最終的な目的。
まず第一に、颯斗には晴ちゃんの死んだ同級生が取り憑いてる…。
取り敢えずここまでは疑わずに取り敢えず話を進めると、じゃあ本来の颯斗の人格…というか、本物は今何してるの?って事になるよね、普通。
それから晴ちゃんは、それ(同級生が取り憑いてるのか否か)を知ってどうするつもりなのか。
(晴ちゃんの話ぶりや、聞いた内容…占い師の言った台詞から、晴ちゃんがその同級生が好きだった事は確実っぽいんだよな…)
だとしたら、その同級生が取り憑いたままの颯斗と付き合いたいのか。それとも自分の未練を何とかして、同級生を成仏させたいのか。
(…ん?待って?もしその流れで進んで行ったら…、俺の知ってる颯斗はいなくなるんじゃないの?俺の知ってる颯斗は…取り憑いてる同級生の方だもんな?)
俺は思わず目を閉じると、自分の部屋でベットに仰向けに倒れ込んだ。
(でも……そうだ、愛莉ちゃんが好きなのは…本物の颯斗だよな?本物の颯斗が戻ってきたら、愛莉ちゃんの気持ちも強くならない?)
一瞬そう思うけど、すぐに関係ない事に気づく。
晴ちゃん曰くの同級生に取り憑かれた後も、愛莉ちゃんの気持ちは変わってないんだから、もはや性格云々じゃないんだろうな。
ガキの頃から兄弟姉妹同然に付き合ってきた相手ってだけで、性格が変わろうが何しようが、愛莉ちゃんの気持ちも信頼も変わらないんだろう。
(……名前…、聞くの忘れた)
俺が知ってる颯斗は、幽霊が取り憑いた後の颯斗だけ。
って事は、俺が親しくしてるのは颯斗じゃなくて、晴ちゃんの死んだ同級生だ。
(俺が親友だと思ってる男の名前……、何て言うんだろうな)
思い浮かぶのは颯斗の顔だけど、何となく…俺はその幽霊の顔を想像して苦笑いした。
#晴子side ────
大和君から連絡があったのは、夜も遅い時間だった。
いつもならこんな時間に電話があっても、気付かなかった事にして翌日折り返す時間。
でも私は、その待ち構えていた電話を直ぐにとった。
「…はい!新見です!」
『はい、新見です…って、おもろ。家電じゃないんだからさー。個人の番号に電話してるんだから分かるってー』
「え?あ……」
突っ込まれて気付く。…そりゃそうよね。
「あの…、それより…その……分かったんですか?性格が変わったタイミングと言うか時期というか……」
緊張しながら聞くと、大和君はあっけらかんと『うん』と答える。
『はっきりと日時までは分かんないけど』
そう前置きしてから、真城君の幼馴染から聞いた事を教えてくれる。
話によると、やっぱり真城君は性格が変わってた。
しかもそのタイミングは……。
「大学に入ってから、その幼馴染の子が東京に来るまでの間…」
そう独り言のように呟くと、大和君は幼馴染の子がいつ頃上京して来たのかを教えてくれる。
…それは山岸君が亡くなったすぐ後だった。
(私の想像が正しいなら、幼馴染の子が真城君と再会したのは、山岸君が取り憑いてからそんなに日が経ってない頃だわ)
もうこれは確実だと言っても過言じゃないんじゃないかしら。
…いいえ、間違いない。真城君は……山岸君だわ。
『なんかこうして晴ちゃんと話してると、マジで颯斗は幽霊に取り憑かれてるんじゃ…って思うけど…、晴ちゃん的にはどう?確信持てた?』
私の心情を察してか、大和君は探るように聞いてくる。
「………えぇ、大和君が信じても信じなくても…、私は……」
そこまで言ってから、私は言葉を止めた。
何故なら私が確信したこの結果は、大和君にとっては…きっと残酷だから。
すると大和君はあっけらかんと『大丈夫』と電話口で笑った。
『前にも言ったけど、俺は大丈夫だよ。晴ちゃんはきっと俺が親友だと思ってる相手が実は死んでる…って言いにくいんだよね?……晴ちゃんが出した結果はそう言う事でしょ?』
「え…えぇ…」
確かに前に、幽霊が親友なんて面白い。…みたいな事を言っていたけれど、分かってるのかしら。
その
『それでさ、晴ちゃん』
「……?」
返事をしようとすると、それを待たずに次の言葉がやって来た。
『晴ちゃんの目的ってさー、……何?』
「…目的?」
『そ、颯斗の正体が晴ちゃんの同級生だって確信持てたんでしょ?んで、その次は?』
「……その…次…?」
『あるでしょ?颯斗の正体を知る事
そう言われて言葉に詰まる。
(…そうよね……、知って「はい、おしまい」ってワケにはいかないわ)
…本当に?
別に良いんじゃない?
死んでしまった好きな人が戻って来たのよ?
今度こそ想いを伝えて……それで……。
(違うわ、この状況はおかしいの。私の好きな人は……山岸君は死んでるんだから)
だったらどうする?
山岸君を成仏させる?どうやって?
(どう……やって……?)
占い師の言葉を思い出す。
私の強すぎる思いは……。
『貴女の強すぎるその想いは…、亡くなった方をこの世に縛り付けてます。無意識のその想いは…亡くなった方が成仏出来ない原因になりますよ』
山岸君が成仏できない原因は…私の…想い……。…未練?
(じゃあ…私の気持ちを今の真城君に伝えたら?それは…山岸君に伝えた事にならない?)
そうしたら私の未練はなくなって、山岸君は成仏出来るのかしら?
(でもでも……!!そんな事したら、私はまた好きな人を失う……!!)
このまま真城君が山岸君の幽霊に取り憑かれてるままで言い訳がない。
それでもこんなに思い続けた人に再会できて…私は……。
まだ電話中だという事を忘れて、私は答えが出ない自問自答を繰り返していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます