第36話 サンセットオレンジ。


#颯斗side ────



嵐のような一日だった。

店じまいしてから店を出る頃には、もう夕方だ。


正直、バイト一日目にして、来た事を後悔している。

バイト代は奮発させるぞ大和…。


だけど目の前に広がるオレンジ色の海と空は、素直に綺麗だと思う。


(昼間の青い海より、夕暮れの海の方が雰囲気あるな…)


ほんの少し物悲しさを感じる砂浜には、昼間あれだけいた海水浴の客がほとんどいない。


オレンジ色の海に沈んでいく夕日を見てると、まぁこんな夏も良いか…と思えてくる。


(今年の夏は大学に行く以外は、引きこもってる予定だったんだがなぁ…)


まったく人生ってのは予定通りにいかないもんだ。


「颯斗ー!!」


…らしくもなく、夕暮れの海を見ながら黄昏てたらしい。


名前を呼ぶ声に振り返ると、既に帰り支度を済ませた愛莉が手を振ってる。

もちろん、大和とみゆりも一緒だ。


俺は返事の代わりに軽く手を挙げると、三人の元へと歩き出した。



♢♢♢♢♢♢



その日の夕飯は、せっかく来たのだから…と言う事で、1階の大和の親戚家族と一緒に食う事になった。


明日からは、2階で俺達だけで食う事になる。

その為に、2階にもキッチンがあるんだから当然だ。


たらふく美味い飯を食った後は、それぞれが好きなように過ごす事になった。


「なぁ颯斗、イワオ兄さんが花火を用意してくれたんだ。俺の用事が終わったら浜辺に行ってみようぜ」


「行くわけねーだろ。疲れてんだよ、休ませろ」


「えー!相変わらず付き合い悪ぃなー。せっかくの夏だぞ?海だぞ?青春の1ページだぞ?な?行こうぜ」


ウキウキしながら聞いてくる大和を無視して、部屋に戻ろうとすると、ちょうど入浴セットを持った愛莉とみゆりに出会でくわした。


「聞いちゃったー、楽しそうじゃん花火ー!私は行くよー」


「さすがみゆりちゃん、愛莉ちゃんは?」


「せっかくですし、私も行きますよ。…ね?颯斗」


「……」


これは嫌だと言ったところで、無理矢理に強制連行されるパターンだな。


「…分かったよ」


溜息を吐きながら答えると、3人は楽しそうに話し始める。

そんな3人から離れた俺は、さりげなくフェードアウトしながら部屋に戻った。



♢♢♢♢♢♢



大和は用事があると言っていたし、これでやっと一人でゆっくり出来る。


(一人きりなんて久々だな)


前はマンションに帰れば一人になれたが、今は愛莉がいるからな。

おまけにベッドまで占領しやがって…。


そう考えると、一人でベッドを使って休むのはマジで久々だ。


「…ベッド最高だな!」


ごろりとベッドに横になる。

下が固くないのはやっぱり良いな。


ポケットからスマホを取り出して、ハマっているオンラインゲームにログインする。


(大和が来るまで、じっくり遊べそうだな)


女共はさっき風呂に向かう感じだったし、あの二人のことだ、どうせ長風呂だろ。



#愛莉side ────



食事の後、みゆりさんと一緒にお風呂に来た。


もちろん、一緒に来たわけじゃない。

たまたまタイミングが合っただけ。


お風呂の用意を持ってるから、お風呂に向かうのはバレてるし、部屋に戻るのも気を使った…と言うか、負けた気がして癪だから一緒に来た。


脱衣所で戸惑う事なく服を脱ぐみゆりさんを、ちらりと横目で見る。


(ンっ…ぐ…!)


なにこの人!!

こんな漫画やアニメみたいなスタイルの人って、ホントにいるの!?

まるで等身大フィギュアでも見てるみたいじゃないの!


出るところは出て(出すぎ!)、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる。


すっごい白くて、なめらかな肌は、女の私でも触れてみたくなる。


(マシュマロみたい…。抱きしめたら、何かふわふわしてそう…)


って言うか、…え?何?この白さ。

紫外線とか浴びた事あるのこの人?

人形なの??


胸も、たゆん…ッと柔らかそうで、…うん。これは揉んでみた…、いや、触ってみたい、埋もれてみたい。


(このAV女優みたいなスタイルで、颯斗を誘惑してるのね…!)


逆に私はといえば、真っ黒とは言わないけど健康的に焼けた肌で、胸も平均的で全体的にストンッとしてる。


(…やっぱり男の人って、みゆりさんみたいに、柔らかそうな女の人が良いのかしら…)


ついジーッと見ていると、みゆりさんがクスッと笑った。

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