第35話 みゆりのホンネ。
「なぁ颯斗、みゆりちゃん大丈夫なのか?」
「おぅ、大和。サムの雑用は終わったのか?」
「まだだけど、店で騒ぎがあったって聞いて、イワオ兄さんと戻って来たんだ。それより、みゆりちゃんの様子見てこいよ。公衆の面前でストリップだろ?ショック受けてんじゃねーの」
「はぁ?知るか、あんなカッコで仕事してんのが悪ぃ」
「そんな事言ってぇー。みゆりちゃんを、カッコよく助けたって聞いたぞ」
「…みゆりのためじゃねーよ。あんな牛みてぇな乳、客の男達に目の毒だと思っただけだ」
「確かにー、あんなロケットおっぱい、生で見たら、男なら寝れなくなるよなー」
「そこまで言ってねぇ。下品だぞ、大和」
「てへッ」
そんな事を話していると、落ち着きを取り戻したらしいみゆりが、愛莉と一緒に戻って来た。
「みゆりちゃん、大丈夫?」
「あれ?大和戻って来てたの?大丈夫よ、ありがとー。やっぱ可愛いって罪よねぇー」
…全然平気そうだな。
「あ、颯斗。休憩行ってこいよ。俺しばらくキッチン変わるからさ」
「良いのか?」
「どっちにしても、お昼休憩は順番に回さないとならねーし」
そう言う大和に、みゆりが「私も休憩行ってくる!」と手を挙げる。
「いいよー、じゃあ二人が戻って来たら愛莉ちゃんとか、他のバイトの休憩回すから」
「ありがとッ!行こ、真城クン」
「…抱きつくんじゃねーよ、牛女」
当然のように絡めてくる、みゆりの細い腕からするりと抜け出す。
…この動作にも慣れたな。
♢♢♢♢♢♢
休憩に食べようと焼きそばを買って、店の裏に行くと、何故かみゆりもフランクフルトとジュースを片手に付いてくる。
「…何だよ?」
「一緒に休憩しよーよ」
そう言うと、俺の返事も待たずに俺の隣にピッタリとくっ付くように立つ。
「暑い…!離れろ!」
「えぇー…、良いじゃん。それより、さっきはありがとねッ」
「自業自得だぞ?あんな際どい水着を着てた、お前も悪いんだからな」
「え?せっかくの海なのよ?ふつう魅せるでしょ!…あ、真城クンにだったら、見られてもいーよ?見る?」
「見ねぇ。…ったく、さすがにショック受けてんじゃねぇかと思ったが…、心配して損したぜ。全然平気そうじゃねぇか」
「きゃー!心配してくれてたの?真城クン優しいッ!」
「だから抱きつくな!」
腕に抱きついてくるみゆりを引きはがそうと、腕を見ると、二つのロケットが腕に押し付けられている。
「お前なぁ…、だからこういうのは…」
やめろ。
そう言おうと思ったのに。
いつもとは違う様子で、俺の腕に抱きついて来るみゆりに、つい言葉が止まった。
(…震えてる)
…そりゃそうか。
運が悪ければ(俺が呼ばなければ)、店のど真ん中…しかも誰も助けてくれる人間がいない所で、その自慢のロケットを完全ポロリする所だったんだもんな。
「ありがとう…」
「…あ…、あぁ…。どう…いたしまして…?」
素直に感謝されると、逆にやりにくい。
だけど、茶化せる雰囲気でもない。
仕方なく俺は、みゆりの震えが止まるまで、黙ったまま、腕に二つのロケットの感触を感じていた。
#みゆりside ────
正直、あの時は恥ずかしさで顔から火を吹きそうだった。
まさか人の水着を取ろうとする奴がいるとは思わないじゃん?
(でも…)
ふと、あの時の事を思い出す。
あのタイミングで私を呼んでくれた颯斗は、結局何の用だったのか言わなかったけど、もしかしたら私の水着を取った男に気付いてたから、心配して呼んでくれたんじゃない?
(後から、居合わせたお客さんに聞いたけど、あの変質者…ずっと私の後をついて来てたとか)
気付かなかったのが情けない。
でもそれより、もし颯斗がそれに気付いてたんだとしたら、颯斗もずっと私を見てたって事にならない?
(だとしたら嬉しすぎる…)
私の腕を掴んで引き寄せて、隠すように抱きしめてくれた颯斗を思い出すと、ドキドキする。
(ダメだ…、私…完全にコイツに夢中…)
最初はイケメンだって理由だけで興味を持ったけど、ちょくちょく話すようになってみると、意外と人をよく見てる。
(顔だけのバカ男じゃないってか…)
颯斗の腕に抱きつく腕を解くと、私は笑顔を颯斗に向けた。
「さ、早く食べて戻ろっか!」
そう言うと、私は持って来たフランクフルトを頬張った。
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