第154話 逃がさない。

「ごちそうさまでした」


他愛ない話をしながら、のんびりと食事をして、どれくらい経ったのか。

かなりの(3、4人分?)量があったけど、美味しく完食。

っていうか、残す訳ない。


やっぱり愛莉ちゃんのご飯は美味いよな。

定期的にコレを食べてる颯斗が妬ましい。


「私洗い物しちゃいますね」


食後、ゆっくりする訳でもなく立ち上がる愛莉ちゃんに習って、俺も立ち上がる。


「じゃ俺も手伝う」


「大和さん……だからこれはお礼ですから、手伝うとか……」


「俺が手伝いたいの!好きな子が作ってくれたご飯を一緒に食べて、後片付けは一緒にするとか、最高じゃない?」


そう言って愛莉ちゃんの手からカラの食器を奪って流しへ向かう。

すると愛莉ちゃんは笑いながら、ボソッと「颯斗も見習えば良いのに」と呟いた。


「………」


自分では颯斗の事を考えてたくせに勝手だけど、この状況で愛莉ちゃんの口から颯斗の名前が出て来るのは、正直イラつく。


でもそれを笑顔の裏に隠したまま、洗い物をする愛莉ちゃんの隣で、綺麗になった食器を丁寧に愛莉ちゃんの持って来たバックにしまう。


「……これで全部です、手伝ってくれてありがとうございました」


「どういたしましてー。それより、まだゆっくりして行けるでしょ?」


用は済んだとばかりに、そそくさと帰り支度を始めようとする愛莉ちゃんからバックを奪う。


「……あ……でも、あまり遅くなるとちょっと……。慣れてる帰り道じゃないですし。電車の時間とか」


案の定だ。

すぐにでも帰りたそう。


(そんなに俺といるのは嫌なのか……。でも逆に警戒してるって事は、男として意識してる……?)


それなら少し強引に行くべき?こんな子は押しに弱いパターンが多い。

嫌われてない……いや、自惚れじゃなく意識してくれてると考えるなら……。


愛莉ちゃんを抱きしめたい衝動に駆られて手を伸ばす。

でも俺はすんでの所で我慢すると、代わりに腕を掴んだ。


「帰りを心配するほど遅くない時間だよ?ほら座って座って?今度は俺がコーヒーでも淹れるからさッ」


「あ……」


押しに弱いのは思った通り。

俺が強引に部屋へ連れ戻すと、愛莉ちゃんは困った顔をしながらも素直にクッションに座る。


「テレビ見る?あ…映画とか好き?」


心変わりして立ち上がられないように、矢継ぎ早に話しかけながらコーヒーを用意すると、愛莉ちゃんは観念したみたいに微笑んだ。


「分かりました、食後のコーヒー……ありがたく頂きますね」


良かった、すぐに帰ろうって気はなくなったみたい。

安心して愛莉ちゃんの前に座る。

テーブルを挟んでコーヒーを飲んでると、愛莉ちゃんは持っていたカップをテーブルに置いて、俺を見た。


「大和さん…、改めて……昨日はありがとうございました」


「………」


この状況で、まださらにお礼を言うか。真面目だなー、ま、そんなとこも好きだけど。


(真面目………か、それなら……)


いつもみたいに、軽いノリで「どういたしまして」と言おうとした俺は、一息つくと同じように持ってたカップをテーブルに置いた。


「……愛莉ちゃん」


「はい?」


笑顔で俺を見つめる顔から目が離せない。

あーぁ…、俺こんなキャラじゃなかったんだけど。


いつもの軽い「好きだよ」じゃ伝わらない。

いつもの軽い「好きだよ」じゃ逃げられる。


………逃がさない。


俺は真っ直ぐに愛莉ちゃんを見ると、こんなに真剣に告白なんてした事ある?ってくらいに大真面目に口を開いた。


「好きだよ」


そう言うと、愛莉ちゃんは今までの「好きだよ」の時とは全く違う反応を見せた。


「………、………?……!??」


俺の言葉を理解するのに時間が掛かったのか、少しの間固まった後、愛莉ちゃんの顔が茹でタコみたいに真っ赤になってく。


「そ…そそそそ……、そんな…急に言われても……!!」


そこまで言うと、真っ赤な顔を隠すみたいに俯いてしまう。

…ダメだ、可愛い。理性が壊れそう。


今までの「好き」はやっぱり半分以上は冗談だと思われてたんだろうな。

俺はずっと「好き好き」言ってたのに、こんなにうろたえた愛莉ちゃんは初めてだ。


「急じゃないでしょ?ずっと言ってたよね、俺…愛莉ちゃんが好きだって」


「それは……!だって……私……」


「冗談だと思ってた?」


「………」


さすがに頷く事はしない。

真面目な真面目な愛莉ちゃんは、きっと今までの俺の告白を思い返して、冗談だと思ってたが故の失礼な態度をとってなかったか、考えてるんだろうな。


(別に失礼な態度はとってなかったよ、ってか俺が悪いんだし)


でも真剣に告白すれば、こうして真剣な反応を返してくれる。

なんでもっと早くやらなかったんだ、俺………。


「愛莉ちゃんも俺を嫌ってないと思うけど……どぅ?俺の自惚れ?」


目を逸らさずに聞くと、愛莉ちゃんはさらに耳まで真っ赤にさせた。

……おーい、あんまり可愛い態度とってると……、俺にも限界があるからねー?


「自惚れ……とまで言いません、けど……。でも私……その……」


「颯斗が好き?」


愛莉ちゃんの言葉に被せて聞くと、驚いた顔を上げた愛莉ちゃんと、やっと目が合う。


(……何その顔……)


真っ赤な顔で、潤んだ目で、恥ずかしそうに口を強く閉じてる顔からは、何も読み取れない。


「バレてないとでも思った?颯斗以外は気づいてるよー?」


「────!!!」


あはは、アワアワしてる。面白い。

自分で態度に出てるの分かってないのかな。


「……颯斗が好き、なんでしょ?」


優しく問い掛けるように聞くと、愛莉ちゃんはやっと頷く。……小さく。


(……分かっちゃいたけど、改めて本人から聞くとキッツイな)


でも少しの可能性にすがるなら、俺の事も満更じゃないはず。


「……俺は?俺じゃダメ?俺の事も嫌いじゃないよね?」


座ったまま、少しずつ愛莉ちゃんへ近付く。

テーブルを避けて、愛莉ちゃんの隣まで行くと、逃げるかと思った愛莉ちゃんは俯いたまま逃げようとはしなかった。


「それ…は…、その…あの…」


「嫌い?」


「い……いいえ……」


「じゃあ好き?」


何としても頷かせてやる。

考える隙を与えずに、次々と聞き続けると、愛莉ちゃんは俺の「好き?」という問いに、確かに頷いた。


「あ……で…でも好きって……その、そういう意味じゃ……」


「嘘」


絶対に嘘だ。

愛莉ちゃんの目は、俺を男として意識してる女の目だ。

それが颯斗より下でも、……今はそれで良い。


(颯斗より、俺を好きにさせれば良い)


俺は緊張で少し冷えた指先を愛莉ちゃんの首元へ伸ばした。

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