第26話 縁日は特別。
愛莉の家の前まで行くと、愛莉は玄関先で待っていた。
…浴衣姿だ。
「…颯斗!遅い!2分遅刻!」
「あぁ?仕事じゃねーんだ、小さい事でうるせぇぞ」
口うるさいのは面倒だ。
白い目を向けると、愛莉は「何か言う事ないの?」と言ってくる。
「…?ゴメンナサイ?」
「違う!浴衣!女の子が浴衣着てんのよ!?なんか言う事あるでしょう!?」
「…あー…、えーと…」
なんて言えば正解なんだ?
これ以上、愛莉を怒らせたくねぇぞ。
「んー、浴衣…夏らしくて良いな」
「それだけ?」
…はぁ、面倒くせぇ…。
やっぱ誘うんじゃなかったぜ。
「あー、似合う似合う」
「言い方が雑過ぎる!」
「…クソ!面倒くせーな、お前は!!もう行くぞ!」
こんなやり取りは、いつか彼氏が出来た時にやれ。
俺はさっさと神社へ向かって歩き出した。
すると後をついてくる下駄の音が聞こえる。
(歩きにくそうだな、なんで慣れてねぇカッコで…)
ちらりと後ろを見ると、カランコロンと下駄を鳴らしながら、必死で歩いている愛莉の姿。
(ガキの頃もこんな感じで、ずーっと後を付いて来てたなぁ)
その必死な姿が、ガキの頃の愛莉を思い出させる。
「…ちッ」
仕方なく足を止めると、俺は愛莉に手を差し出した。
「…なに?この手」
「歩きにくそうだから支えてやるよ、転ばれたら後が面倒だ」
この後は神社まで階段を登らないとならん。
途中で落っこちられたら、たまったもんじゃねぇからな。
「…へぇ、優しいトコあんじゃない、見直したわ」
「お前に見直されても、嬉しくもねぇな」
「へらず口」
「お互い様だろ」
愛莉は妹みたいモンなのに、繋ぐ手が汗ばむ。
なんだ、緊張してんのか?俺が?
(…アホらし、んなワケあるか)
暑いからだ。
夜になっても蒸し暑いから汗をかくし、縁日の太鼓の音が響く、非日常的な雰囲気に飲まれただけだ。
♢♢♢♢♢♢
祭り会場に着くと、いやいや…、なんとも…!
来るまで馬鹿にしてた俺を殴ってやりたいな。
…来て良かった。
さすがに薄暗くなってきた境内に、赤やオレンジの灯が眩しい。
道の左右に並ぶ屋台は、カキ氷やたこ焼き、目移りしそうなくらいある。
他にも金魚すくいや、縁日でしか見ない、ヨーヨーすくいもあった。
(ぅおお!懐かしいな!)
久々の祭りにテンションが上がる。
「…あ、ねぇ颯斗!お面屋さん!」
愛莉に言われて視線を向けると、一面に子供向けのお面が並んだ屋台があった。
それに仮面◯イダーやドラ◯もん、アンパ◯マンなどのキャラクターまで勢揃いだ。
「子供の頃は、お祭りに集まった子供達は、皆してお面をしてたから、誰が誰だか分からなかったわよねー」
そうだ、みんな似たり寄ったりな浴衣を着て、好き勝手なお面を付けてたから、一緒に遊んでる奴が、マジで友達なのか…、それとも知らねぇ奴なのか分からなかった。
(…うん、懐かしいな)
ガキの頃に来た祭りは、もっと目線が低くて、大人達の足元を、全速力で走り抜けてたな。
…良い思い出だ。
「ね、金魚すくいやってみない?」
「…あ?お前金魚すくいで俺に挑むつもりか?」
自慢じゃねぇが、金魚すくいは得意だ。
「ガキの頃は金魚すくいの颯斗ちゃん。と呼ばれた、この俺に?」
「…いつ呼ばれたの?知らないんだけど」
「……」
白い目を向けてくる愛莉を無視して、俺は屋台のオヤジに声をかけた。
♢♢♢♢♢♢
その後、焼きそばとたこ焼き、それにカキ氷を買って、俺と愛莉は鳥居のそばにあるベンチで休む事にした。
…因みに金魚すくいの結果だが、俺は惨敗。
一匹も取れずに、愛莉に指差さしながら笑われた。
おかしいな、こんなはずじゃなかったんだが…。
「ちょっと金魚持ってて」
愛莉はカキ氷を買ったが、さすがに片手では食べにくい事に気付いたのか、俺に金魚を付き出してくる。
…愛莉のとった金魚だ。
悔しいが、浴衣姿で金魚を持っている姿は絵になる。
田舎の夏のポスターとかにありそうだな。
俺は食ってたたこ焼きを膝に乗せると、金魚を受け取る。
狭いビニール袋の中で、3匹の金魚が悠々と泳いでるが、どれくらい生きるんだろうな?
縁日の金魚は弱っているから、持って帰っても長生きしないと聞いた事がある。
「…どしたの?そんなに金魚欲しかった?…あげるわよ?」
「俺は子供か?いらねーよ、…ただ…どれくらい生きるのかと思っただけだ」
「金魚によっては長生きするんじゃない?子供の頃に行った縁日でとった金魚、うちでまだ生きてるわよ?」
「そうなのか?…あー…そういや、一緒に金魚すくいやったよな」
「あら、意外。覚えてるの」
「…お前は根本的に俺を馬鹿にしてるよな。俺は記憶力が良いんだ」
「そんな事ないわよ。ただアンタ、約束すぐ忘れるから」
そう言った愛莉の言葉に、俺は白いワンピースの女を思い出した。
(…約束…か)
あの女との約束も…忘れてるだけなんだろうか?
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