第55話 キミのホンネ、ボクのホンネ。

死角になっていて気づかなかったけど、ベランダのドアを開けると、愛莉ちゃんと一緒に颯斗もいた。

しかもなんか、二人の様子がいつもと違うような気がする。


(…しまった…、俺もしかして、なんか邪魔した…?)


何を話していたのかは分からないけど、俺は間違いなくお邪魔虫っぽい。

何かを言いかけていたらしい愛莉ちゃんの、責めるような白い視線が突き刺さってくる。


(あ…、視線が痛い…)


これはどうするべきなんだ。

引き返すのも、…なんかおかしいよな?


「あ…二人もいたんだな、えっと…俺は…その、一服しようと思ってさ」


持っていた煙草を見せながら言うと、颯斗が首を傾げた。



#颯斗side ────



一服しに来たらしい大和は、どうも焦ったように目が泳いでいる。


「別に中も禁煙じゃないだろ?」


今までだって、普通にリビングや部屋で煙草吸ってたよな。

何を動揺してるんだコイツは。


「それより愛莉、さっき何か言いかけたよな?何だ?」


まぁ大和が変なのはいつもの事だ。

それよりも愛莉の様子が気になって振り返ると、愛莉は溜息を吐きながら首を振った。


「…別に、何でもないわ」


そう言うと、愛莉はさっさとドアに向かって行ってしまう。

しかも大和の傍を通りがかった時、暗かったせいか、お互いにぶつかってしまい、もの凄い目で大和を睨んでいた。


(あの二人…やっぱ無理だな)


「は…颯斗ぉおおー!!愛莉ちゃん怖い!!俺のコト睨んだ!!何で!?何もしてないのに!!」


「…何もしてなくても、純粋にお前の事が嫌いなんだろ」


「えぇー!!酷い!」


そう泣き真似する大和だが、コイツの性格上、実は大して気にしてないのは分かってる。

コイツも意外と本音は隠す奴なんだ。


(…俺も同じか)


人間誰だって、人に言えない本音があるよな。

もしかしたら、さっきの愛莉もそうだったんじゃねーか?


ずっと隠して来た何かを伝えようとしていた…。

そんな感じがしたな。


「なぁ颯斗…」


「…ぁ?」


大和を見ると、愛莉が出て行った後のドアを見つめている。

その時に強く風が吹いて、大和の少し長い髪が風に煽られて、振り返った大和の表情が見えない。


「愛莉ちゃんってさ…、もしかして…」


「…?何だよ?」


いつになく真面目な顔をしてやがる。

何が言いたいんだ?

眉をひそめて次の言葉を待つと、大和は自分の手を見つめた。


「愛莉ちゃんって…、Aカップじゃないかも…」


「………」


……ん?今何つった?

Aカップ?


「……は?」


「いや、だから!俺最初、愛莉ちゃんのブラ見た時にAカップの女の子か…と思ったんだけど、ここに来てからずっと水着姿を見てるじゃん?もしかしたらAじゃないかも?って思い始めてて…」


…何言ってんだ、コイツは。


「それでさっきぶつかった時、愛莉ちゃんのおっぱいが俺の腕に当たったんだけど、あのと感は、おそらくAじゃない…!!」


「だから何だ」


「え?気になるでしょ?女の子のスリーサイズ」


「…くっだらねぇ!何を言い出すのかと思えば…。お前の頭の中はソレばっかだな!!」


「えー?だって俺、ヤりたい盛りの男の子よ?気に入った女の子のスリーサイズは気になっちゃうよね!」


「はあー…、聞いて損した。時間の無駄だ」


付き合ってられん。

大和を置いてベランダを出ようとすると、大和はぐいっと俺の腕を掴んだ。


「何だよ?」


まだ何かあるのか…と振り返ると、大和はいつもと同じ笑顔で、ニコッと笑った。


「俺さー、愛莉ちゃんに本気になってイイ?」


「…は?」


本気?

本気ってなんだ?どう言う意味だ?


「どういう…意味…」


「もー、分かってるだろー?俺、愛莉ちゃん気に入ってるんだよ、俺のモノにしても良いよね?って事ぉー。初めて見た時も思ったけど、スゲー可愛いし、思ったよりもおっぱいも大っきいし?」


「…はぁ?」


「アレ…?なんか問題あったりする?…あ、ホントは颯斗も愛莉ちゃんが好…」


「んなワケねーだろ!ただの幼馴染だ!前にも言ったろうが!」


「なら問題ないよね?」


「…あぁ、ないな。勝手にしろ」


いつもと同じ顔、同じ声、同じ口調なのに、何故か大和が俺の知ってる大和じゃねぇみたいだ。


(そうか、いつもの軽口なのに、目が笑ってねぇんだ)


…嘘だろ、本気なのか?

本気で愛莉を好きなのか?


「んじゃ、俺先に戻るねー」


そう言って室内に戻って行く、大和の後ろ姿を見送る。

そんな俺の頭の中は、大和の問い掛けがリピートしていた。


ホントは颯斗も、愛莉ちゃんが好きなんじゃないの?


(馬鹿言いやがって…、クソ野郎…)


ほんの少しだけだが、大和の言葉に動揺したのは、誰にも言えないな。

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