第6話 合コンへ行く。

(…やっぱり来るんじゃなかった)


居酒屋に集合し、合コン開始早々、俺は心底後悔した。

何故なら、女どもが全員俺の周りに集まって来て、男達の視線が痛すぎるからだ。


いや、分かるよ?

俺も前はソッチ側だったからな。


だけどあからさま過ぎるだろ、女共…。

少しは他の奴らと話せ。


「…で、颯斗君は彼女いないの?」


「どんな子が好み?」


「あ、飲み物追加、何にする?」


代わる代わる、話し掛けてくる女がウザい。

女子力アピールもウザい。


何が女子力だ。

んなもん、女ならあって当然だ。

何のアピールにもならん。


喉乾かない?

熱くない?

私マッサージ得意なの!


…等々。これではまるで、王様とその王様にかしずく、側仕そばづかえの女達だ。


女達に興味はないが、羨ましそうに見てくる陽キャの男共の視線は…、まぁ胸がすくな。


今まで俺は、お前らみたいなのに馬鹿にされ続けて、底辺を生きて来たんだからな。


因みに大和は既に諦めているらしく、俗世ぞくせから離れたほとけのような達観した顔で、ひたすら酒を飲んでいる。


(アイツ、悟りでも開いたのか)


つーか、俺を連れて来た時点で想像つくだろ、この状況。


そんな中、面白がって、男共に見せびらかすように女達と話していると、一人だけ俺に媚び売ってこない女がいた。


(アイツ…千夏だっけ…?…っと、目が合っちまった)


目があった事に気付くと、女はニヤっと笑った。

…何だ?


「ほらほら皆!そんなに一度に色々聞いたら、颯斗も困るじゃん。…ねえ?」


そう言って、千夏は俺を振り返る。


「…ん…?あ…あぁ…」


つーか、初対面でいきなり呼び捨てか。


いや、俺も頭ん中では他人を呼び捨てにするが、親しくない相手なら、口に出す時は敬称を付けるぞ?


まぁ、小さな事だし、わざわざ突っ込むのも雰囲気が悪くなる。

俺は大人だから、千夏の馴れ馴れしさをスルーして、曖昧に頷いた。



#千夏side ────



そろそろだと思った。

あんなに女達にキャアキャア言われ続ければ、普通の男は疲れるもんなのよね。


特にイケメンは女にチヤホヤされるのに慣れてるから、すぐ私みたいな女の所へ来るのよ。


助けを求めるように見てくるイケメンに、笑って見せる。


「ほらほら皆!そんなに一度に色々聞いたら、颯斗も困るじゃん。…ねえ?」


そう言って振り返ると、颯斗はまじまじと私を見てくる。

やっぱり興味持たれちゃったかー。


いつもそう。

私はそれなりに美人だし、他の女達みたいに面倒じゃないから、すぐ男が寄ってくるのよね。


「ほら、飲んで飲んで!割り勘なんだから。飲まなきゃ損よ?」


そう言って酒を注いでやると、颯斗は私の飲んでいる酒に目を向けた。


「…お、それ◯◯か?メニューに載ってたの気になってたんだよな」


「えー、気ぃ合うね!私オシャレなカクテルとか苦手でさー。あんな甘い飲み物より、絶対こっちの方が美味いよ!一口飲んでみる?」


さりげなく間接キスを促してみると、颯斗は「いや、良い」と言って、同じ物を頼んでしまう。

…ちッ。


だけど、その後は好きな酒の話で盛り上がった。

何度か他の女達が話に割り込んできたけど、颯斗は酒にしか興味がないみたいだ。

…いや、それとも私か?


「少し飲み過ぎた、私トイレ行ってくるわ」


酒は好きなんだけど、トイレ近くなるのが難点だよね。

隣の颯斗に伝えてからトイレに行くと、数人の女達が来ていた。


…あぁ、颯斗を狙ってた女達だ。

作戦タイムなのか、メイクを直しながら話してる。


私には気付いてないみたいで、私はさっさと個室に入った。

すると、会話が聞こえてくる。


「千夏って言ったっけ?あの男女」


…私だ。

私の話だ。


「何あれ、颯斗にベッタリじゃん」


「人数合わせで誘った時は、興味ないって言ってたくせに、一番良い男狙ってんじゃんね」


「そうそう、男に興味ないって言ってるけど、いつも男と一緒だよね」


「あいつ男友達が多いのを、さりげなく自慢してるよ?モテるって勘違いしてんのよ」


「モテるのと、男友達が多いのは別じゃんね?つーか、男友達が多いって時点で、女として見られてない証拠じゃね?」


「言えてるー。どんなに周りに男が多くても、友達から先に進まないんじゃ、そりゃモテてないっつーの」


…言いたい放題だな、おい。

自分が相手にされないからって、私に当たるのはお門違いだろ。


でもやっぱり、他の奴らから見ても、颯斗は私に

ベッタリに見えるんだな。

これで颯斗と一番仲良くなれれば、気分良いだろうなー。



#颯斗side ────



男女みたいな奴に気に入られたらしい。

トイレから戻ってきて、席替えするかと思ったら、千夏はまた俺の隣に陣取った。

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