第5話 ホテルで誘われる。

近づいて来た千代音に、何?と聞くと、千代音は真っ赤な顔で、ベッドに寝てくれと言って来た。


「…ぁ?」


つい寝かせていた身体を起こす。


「私が迷惑かけて、終電逃しちゃったのに…。せめてベッド使って下さい!私ソファで良いから!」


「いや、女ソファに寝かせて、俺がベッドって…、それはさすがにねぇだろ」


「でも…」


女は嫌いだが、さすがにそこまで、気づかいとプライドは捨ててない。

無視して寝ようとすると、千代音は「じゃあ…」と、小さな声を出した。


「真城君さえ良かったら、一緒でも…」


はぁ?

何言い出すんだ、この女は馬鹿なのか?

自分が何言ってるのか、分かってないのか。


「…あのさ、言ってる意味分かってる?」


そう聞くと、千代音はこくりと頷く。


はぁー…、マジか。

やっぱ放って帰るべきだったぜ。


飲み会とか慣れてなさそうだったし。

変な男に捕まって、お持ち帰りされても可哀想だと思ったけど、まさか本人もそのつもりだったとは…。


でも俺には、そんなつもり一切ない。

…つまり俺は、コイツの男漁りを邪魔をしたって事になる。


俺が放っておけば、ソッチ目的の男とホテルに来れたかも知れないな。

気を使ったつもりが、裏目に出た。

失敗したなー。



#千代音side ────



とんでもない事言った!

我ながら大胆さに驚く。


でも私をここまで連れて来てくれて、疲れてるはずの真城君をソファで寝かせるなんて出来ない。


「…あのさ、言ってる意味分かってる?」


真城君の言葉に頷くと、真城君は深い溜め息を吐いた。


「…残念だったな。悪ぃけど、俺そんなつもりねーんだわ」


「え?」


「酔っ払って終電逃して、放っておいたら変な野郎に捕まるな、と思ったから連れて来ただけ。まさかお前もそのつもりだったとは思わなかったからさ」


「…そ…、そのつもり…って…」


カァ…!っと顔が熱くなる。

男を漁りに飲み会に行ったと思われてる!

絶対に、それとなく誘惑したと思われた!


「あ…あの!私…、そんなつもりじゃ…」


「そんなつもりじゃねーのに一緒に寝ようって言ったのか?一緒に寝るだけで済むと思ってんのか?いい歳して頭ん中お花畑なのか?それとも馬鹿なのか?どっちだ?」


「…ッ!」


そりゃ確かに、少女漫画みたいな展開にドキドキはしてたけど…。

やっぱり現実は、少女漫画みたいに上手くはいかない。


恥ずかしさで消えてしまいそうになる。

私は隠れるようにベッドに横になり、布団を頭から被った。



♢♢♢♢♢♢



翌朝、目が覚めると、千代音は既にいなかった。

まぁ、そりゃそうだろう。


昨日の夜はハズレを引いたんだ。

新しく男を探しに行ってるかも知れないな。


(…ま、普通の男なら襲ってただろうなぁ…)


ヤれれば誰でも良いって野郎は、事実、星の数ほどいるもんだ。

千代音が一晩の関係を望んでたんだとしたら、あの飲み会の中にいくらでも相手はいただろう。


隣に座ったのが、女嫌いの俺で運が悪かったな。


ホテルの外に出ると、良い天気だ。

早くマンション帰って、二度寝しよう。


二日酔いで頭が痛いし、ソファで寝たから身体がガチガチだ。


そう思いながら、俺は大きなあくびをするのだった。



♢♢♢♢♢♢



翌日、大学へ向かった俺は、早速面倒事に巻き込まれた。


「…合コン?」


「そう、行こうぜ」


そう言ったのは、よく食堂で顔を合わせる男友達、大和やまとだ。

コイツは俺を友達だと思ってるらしいが、俺にとって陽キャは友達ではない。


「…行くわけねーだろ、アホか」


「そう言うなって!ほら、お前この間さ、雑誌の街角スナップに載ったろ?街で見つけたイケメン!とかってさ」


「…あぁ…そんな事もあったな」


勝手に撮られて、勝手に載せられた写真だ。

雑誌に載ってたのを、たまたま見た大和が教えてくれなかったら、ずっと知らないままだった。


…盗撮されたうえ、無許可のまま雑誌に載せるとか犯罪だろ。


「その雑誌を見た奴が、お前を紹介して欲しいって頼んできてさ」


「…はぁ?」


「…それならって事で、合コンになったんだ」


「どういう事だよ、まったく分かんねぇよ。ありえないだろ、断れよ」


そう言って立ちあがろうとすると、大和はグッと俺の腕を掴んで、甘えた声を出した。


「お前が来なきゃ、女の子が集まらないだろー?」


「…俺は客寄せパンダか、ふざけろ」


「頼むよ颯斗ぉー!俺、彼女と別れたばっかなんだよー!」


彼女欲しいー!と騒ぐ大和に、溜息を吐く。


(…俺ほどじゃなくても、コイツも結構イケメンなんだがなぁ)


性格のせいなのか。

大和はどうも良い人止まりで、いつも彼女と長く続かない。


「……はぁ…」


友達じゃない。

絶対に友達なんかじゃないが、コイツには色々と助けて貰った事もある。


仕方なく、今度は合コンに行く事になった。

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