第132話 ドキドキする。
#愛莉side ────
温泉なんて久し振りだわ。
最初大和さんから電話があった時、みゆりさんの事を聞いたけど、本当はみゆりさんがいても行くつもりだった。
……いないなら、そっちの方が良いけど。
それにこの4人で集まるのは久し振りで、少し不安もあって緊張してたけど、颯斗にもみゆりさんにも特に変わった様子がない。
(……心配しすぎたかしらね)
身体の関係とか持ったら、少しは2人の間の雰囲気とか変わると思うし…、この様子からすると関係は進んでないっぽい。
(安心……したような、気にならない……ような……)
あの日、颯斗がみゆりさんと泊まって来るって聞いた時は、身体の関係があろうとなかろうと、確かにショックだったのに……、今は何故か冷静に2人を見てられる。
「………」
ちらりと大和さんを見る。
すると私の視線に気付いたのか、大和さんも私を見て微笑んだ。
「……ッ?」
思わず目を逸らす。
(こういうところ……颯斗と全然違うわよね…)
颯斗なら、何見てんだよ?って言って来るか、目があっても無視するだろう。
あんな風に目があって微笑んで来る事はまずない。
(私……なんか……)
颯斗が好き、その気持ちは変わらないって思うのに、大和さんの存在が……私の中でどんどん大きくなってる気がする。
(しっかりしてよ……、分かってるでしょ?大和さんは絶っっっ対に好きになっちゃダメなタイプの人よ!!)
子供の頃から颯斗しか見てなかったのに、そんな風に考えてしまう事自体が、大和さんの事も意識しているのだという証拠なんだけど、認めるわけにはいかない。
(こんな人好きになって付き合おうものなら、絶対に苦労するわ……!)
出会った当初の遊んでるイメージはなくなったけど、それでも私の中の何かが、この人は私に合わないって警告してる感じ。
(それなのに……、なんでこんなにドキドキするのかしら……)
大和さんと目が合わせられないまま、旅行雑誌を見ていると、大和さんが美肌効果ありの温泉に反応して、それに便乗したみゆりさんが私をからかうものだから、私も言い返して、みゆりさんとのいつもの口喧嘩が始まる。
でも今回は何故か助かった…と思ってしまった。
その後、みゆりさんとつまらない言い争いをしてる間に、さくっと旅行の日程や場所を決めてしまった颯斗と大和さんに、後から少しの要望を伝えて、その場は解散になった。
みゆりさんはこの後予定があるとかで帰っちゃったし、颯斗と大和さんは大学に戻るという事で、私は一人でマンションへ向かっていた。
(それにしてもあの女の人……)
ファミレスに到着した時にいた、もう一人の女の人。
みゆりさんの友達かとも思ったけど、どっかで見た事があるような気がするのよね。
私が見たことあるという事は……、みゆりさんの関係じゃなくて颯斗の関係者かしら?
(でも…見た事あると言っても直接じゃなくて……)
んー…、写真かしら?
という事は颯斗の友達になるけど…。
颯斗の友達なら、実家にいた頃にアルバムやらスマホの写真やら見せてもらった事があるし。
(颯斗は高校の頃からモテてたし、取り巻きの一人……?)
沢山の女の子に囲まれてる颯斗の写真なら、飽きるほど見た。もしかしたら、その中にいたのかも知れない。
そんな事を考えながら歩いていると、背後から急に走り寄って来る足音が聞こえて、女の人が私の歩みを止めるみたいに、目の前に立ち塞がった。
「どーもー」
「………?……あ、あなた確かさっきファミレスで颯斗とみゆりさんといた……」
ちょうど考えていた人だ。
でも何で話しかけて来たの?
用があるなら颯斗を追いかけるだろうし、私は少し警戒しながら女の人を見つめた。
#颯斗side ────
大学に戻りながら、大和と温泉の話で盛り上がる。
…と言っても、盛り上がってんのは大和だけだが。
「俺、浴衣姿って好きなんだよねー。浴衣ってなんか独特の色気あるじゃん?海では浴衣じゃなかったから、楽しみだなー」
「お前そればっかだな。女以外に好きなもんねーの?」
「え、好きなモノって……女の他に何があるの?……まさか…男?…あのさー、前にも言ったけど、俺女の子が好きなんだよ。ごめんな?」
「何に謝ってんの?殴られてーの?」
「女嫌いの颯斗に、女以外に好きなもんないの?って聞かれたら、その意味は男は好きじゃないの?男の俺には興味ないの?って意味でしょ?違う?」
「……お前と話してるとストレスで寿命が縮む気がする」
そう言って溜め息を吐くと、大和は「寿命…ね…」と寂しそうに俺の言葉を口の中で反芻する。
(……?俺おかしな事言ったか?)
さっきもそうだったが、いつもヘラヘラしてるくせに、ンな顔されると何だか調子が狂う。
(何かあったのか……?またフラれたとか?…いや、最近の大和は愛莉一筋っぽいしな。愛莉とは仲良さそうだし、女にフラれたって事はなさそうだ)
なら何で、ふいにこんなに寂しそうな顔をするんだ。
コイツは何だかんだと俺に関わって来るくせに、自分の本音はあまり言わない奴だからな……。
俺がそんな事を考えているとは思いもしてないだろう大和は、何かに気づいたみたいにポケットからスマホを取り出した。
「………晴ちゃんだ」
声が暗い。
何だよ、そんな声あまり聞いた事ないぞ。
寂しそうな顔する原因はまさかの新見か?
(新見と喧嘩……、いや2人とも喧嘩するようなタイプじゃねぇ)
新見はアホみてぇに人に気を使うし、大和は大和でいつも飄々としてて怒ったり声を荒げたりする所を見た事ねー。
怒ったり苛ついても、それを隠すタイプだ。
大和に届いた新見からのメッセージが少し気になるが、新見関連で俺に関係がありそうな事は、大和はちゃんと律儀に話してくれる。
(約束通り…ちゃんと協力してくれてんだよなー…、一応)
ま、俺とは関係ない所で仲良くなったんだろうと気持ちを切り替えると、隣を歩いていた大和が足を止めた。
「……?大和?」
「なぁ颯斗ー、晴ちゃんがお前に話したい事があるんだって、……時間、取れるか?」
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