第9話 迷う。

あれからどうやって部屋まで帰ったか、全く覚えてない。

俺とした事が、マジで動揺してたらしい。


しかも、心ここに在らずの状態で、ずっと生返事してたから、一緒に帰ってた千夏に連絡先を教えてしまうという、あるまじき大失態までおかしてる。


案の定千夏からは、飲みの誘いのメッセージがバンバン入ってる。


(クソ、予想通りだっつーの…)


…だから行かねーって。

ポイっとスマホをベッドに放り投げて、顔を洗いに洗面所へ。

冷たい水で顔を洗うと、少し気分が落ちついた。


(今日は必修あったな…)


行きたくはないが、昨日は俺らしくない行動をとった。

とりあえず、大和に昨日の話をそれとなく聞いておきたい。


仕方なく家を出て大学へ向かうと、ちょうど大学へ着いた時、どこかで見ているのかというタイミングで大和から着信があった。


電話に出ると、からかうような声が聞こえて来た。


「おい颯斗、昨日はお楽しみだったのか?」


「何言ってんだ、馬鹿なのか?」


「しらばっくれんなよ、千夏と帰ったじゃねーかよ」


「同じタイミングで帰っただけだ。最寄りも違うし、駅で別れたっつーの」


「嘘つけ!お前が女と帰って、何もせずに別れる訳ねぇ!」


まぁ確かに、颯斗ならその通りだ。


だが俺は、颯斗であって颯斗じゃない。


確かに颯斗としての感情、それに記憶や考え方も残っているが、今の俺は聡太としての感情や性格の方が色濃く出ている。


…大和が知ってる颯斗はもういないんだ。

そう考えると、友人を無くした事になる大和に、申し訳ない気持ちが…、まぁ…なくは…ない。少し。


「とにかく駅で別れて、その後は知らねぇよ。…それより大和」


「…ん?」


「昨日飲み会に遅れて来た女…」


「あぁ、晴ちゃん?可愛い子だよなー。もしかしてお前も晴ちゃん狙いか?」


「え?いや俺は…」


「誤魔化さなくて良いって、飲み会に参加した野郎共、みんな同じだしな」


「…そうか、…俺はすぐに帰っちまったけど、…その…どんな子だった?」


「んー?良い子だったぜ。よく気のつく子だし、ずっと笑顔で話してて、野郎だけじゃなくて、女子にも囲まれてたなぁ」


「………」


「何だよ、気に入ったなら、途中で帰らなきゃ良かっただろ?」


「このアホが、そんなんじゃねーっつの」


その後も少しだけ話して、現在の新見晴子の事を少しだけ知る事が出来た。


必修以外はほとんど大学に行っていなかったから気付かなかったが、同じ大学である事や、入学当初から美少女として噂があった事。


…それに人気者で、いつも沢山の男女に囲まれているって事。


(…俺とは真逆だな)


いくらイケメンになっても、中身が俺だ。

外見以外は聡太と何も変わらない、陰気で友達の少ない、ただの捻くれ者。


(それにしても…)


俺…、いや聡太の記憶にある晴子とはずいぶん印象が違う。

確かに高校の頃から人気者で、学級委員もやっていたせいか、教師のウケも良かった。


たが俺は知ってる。

アイツの本性…。


誰もいない所では、俺みたいな陰キャに対して酷い態度をとる事を。


(…何で…)


聡太はあんなに嫌悪感をむき出しにされる程、嫌われてたのか?

他のクラスメートがどんなに冷たくても、アンタだけは聡太を庇って、優しくしてたじゃないかよ。


あの優しさも、表向きの顔だったのか?

皆んなへのポイント稼ぎに、良い子ぶってただけだったのか?

腹ん中では、聡太を馬鹿にして笑ってたのか?


(…わっかんねぇ…)


あんな態度を取られたのに、俺はまだどこかで、本当は良いやつなんだって、思いたいのかも知れない。

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