第20話 悪夢の裏側。
時計を見てしまった事を後悔する。
昼時だと気付いた瞬間、急に腹が減ってきた。
(コンビニでなんか買っとけば良かったな…)
大学構内でも大学付近でも、いくらでも食べる所はあるが、正直めんどくさい。
(…我慢してレポート進めるか、帰りになんか食って帰ればいいや)
再びパソコン画面に目を向けると、ふっと視界が暗くなる。
「…?」
背後に誰か立ったらしい。
振り返ってその姿を確認した直後、驚きすぎて変な声が出た。
(…!?な…なんで新見晴子が…?)
「こんにちは、真城くん…だよね?こないだの合コンで会った…」
さらりとしたミディアムの黒髪が揺れる。
…美少女だ。
「…あぁ」
動揺を悟られないように、短く答えてパソコンに顔を戻す。
すると晴子は何故か、俺の隣に腰掛けた。
(…!?なんでだよ!?どっか行けよ!!)
クソ、こんな時に大和がいれば…。
俺一人では、緊張と動揺で何も出来ない。
(落ち着けよ颯斗…!お前は聡太じゃねぇんだぞ!?)
この女に酷い態度で振られたのは、俺じゃない。
山岸聡太はいないんだ。…事故で死んだんだ!
「…あ、ごめんね。レポート中なんだね…、邪魔だった?」
「別に…、それより何か俺に用なのか?」
バクバクしてた心臓が、やっと落ち着いて来た。
小さく息を吐きながら聞き返す。
「え?別に用って訳じゃ…、ただ姿が見えたから挨拶だけでも…と思っただけで」
そう言う割に、晴子はなかなか立ち去ろうとしない。
…何だよクソ…。話があるならさっさと話せ、そして早く消えろよ。
「あの…さ」
「…?」
「勘違いだったらごめんね?その…真城くんは…私が嫌い?」
(…はぁ!?)
嫌い?
…嫌い…、嫌い…。
どうなんだ?
当時の聡太の記憶は残っているし考えも残っているが、じゃあ当時の晴子に対する恋愛感情が残っているかと聞かれると、はっきり言って残ってない。
だが嫌いかと言われると…。
「…いや、正直言って興味ねぇ」
本音だった。
勿論、女としての興味がないという意味で、晴子個人については興味はある。
どうして聡太にあんな酷い態度を取ったのかとか…、それまでの優しさは嘘で、本音では
だけど、それを今の
色々言いたい事はあるが、やっとの事でそれだけを言うと、晴子は寂しそうに笑った。
#晴子side ────
何故だろう。
真城くんとは合コンで初めて会っただけで、ほとんど会話をする事もなく、帰って行ってしまった。
それなのに、真城くんは明らかに私を警戒している。
避けている、とでも言うのかしら?
当然、ちゃんとした会話もした事なくて、警戒される理由なんてないはず…。
(それに、初めて会った時も思ったけど、真城くんって、高校の時の同級生に似てるのよね)
性格はよく知らないけど、顔は全然違うし、話し方とかも全然違う。
(…どこが似てるのかしら?)
高校の時の同級生…、山岸くんを思い出す。
いつも俯いていて、あまり皆と話さない男の子。
でも優しくて真面目で、私は山岸くんが嫌いじゃなかった。
(…クラスの性格の悪い男の子達に、からかわれてたっけ)
それでも意志は強くて、からかってくる男子達を無視して、余計に目を付けられてたなぁ。
(…嫌な事思い出しちゃった)
掃除の時間、たまたまゴミ捨てに行った時。
校舎の裏で、クラスの男子に囲まれてる山岸くんを見つけた。
その時はまたか…としか思ってなかったけど、大きな声で話してたから、会話を聞いちゃったんだよね…。
その内容は、かなり衝撃的だった。
なんと山岸くんが、「
(…断ると思った。山岸くんは大人しくても、理不尽な事ははっきりと断る強い意志を持ってたし…)
それなのに、その日の放課後。
いつも山岸くんをからかってる男子に呼び出され、図書室へ行くと、山岸くんが待っていた。
まさか?と思ったら山岸くんは私に告白してきたのだ。
私に告白しろって強要されてる所を見ちゃったし、本棚の後ろに隠れてこっちを見てる、その男子たちもいたから、本気の告白じゃない事はすぐに分かった。
ショックだった。
あの、優しくて意志の強い山岸くんが、言われるままに女の子に告白してイタズラするなんて。
告白を強要されて、人をからかうなんて最低だと思った。
本当は、いつも真面目で穏やかな山岸くんが好きだったのに。
けっこうショックで、私は泣きそうになるのを我慢しながら、山岸くんを睨む事しか出来なかった。
私は山岸くんと本棚の後ろに隠れてる男子たちに、軽蔑の視線を送って、そのまま逃げるように図書室を飛び出したんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます