第19話 友達なんかじゃない。
「…は?」
今さらりと凄い事を言ったよな、コイツ。
目が点になる。
落とせって…、え?
どこから?どこに落とすの?
え?違う??
「新見晴子を落とせ…って、…え?…つまり俺に、晴ちゃんと付き合えって事?」
「理解が早くて助かるぜ」
「いやいや、なんで?!そりゃあんな可愛い子と付き合えたら最高だけど、俺…多分脈なしだよ?」
「大丈夫だ。お前、顔だけは良いから」
「…褒めるフリして
「本音だよ」
「え?何?どう反応したら良いの俺?…それに理由は?俺が晴ちゃんと付き合うと、何かあるのか?」
「……あ、いや…」
…ん?颯斗が語尾を濁すなんて珍しいな?
色々と珍し過ぎて、なんか特別な理由がある事は、さすがの俺にも分かる。
だけど、さすがに大学でも人気者の晴ちゃんを落とせって…、無理ゲー過ぎるでしょ。
「ちょっと俺にはハードル高すぎかなぁー。理由は?聞いても良いの?」
少しの間、電話の向こうの颯斗が黙り込む。
辛抱強く返事を待つと、颯斗は思いがけない事を言って来た。
#颯斗side ────
さすがに何の説明もなく、知り合ったばかりの女を落とせなんて、無理だったか。
だけど俺は親しくなりたくないし、知り合いたくもない。
そうなると、親しい(とは、あまり思ってないが)友人に親しくなって貰って、どんな女なのか聞くしかない。
噂なんか集めたって、
晴子だって、そんな親しくもない相手に、本当の顔は見せないだろう。
大和が晴子と付き合えれば、大和に素顔を見せるかも知れない。
大和はツラだけは良いし、女と仲良くなるミッションには最適なんだが…。
(どうする…?重要な部分や、聡太の記憶はバラさねぇように、必要最低限の事だけを話すか…)
本当の事は言わないが、嘘も言わない。
これが他人を信じ込ませる最適な方法だ。
(だがどうやって…。大和は社交的で人気者の俺しか知らない。晴子の事を知りたいけど、自分は親しくなりたくないから、代わりに頼むと言って、それを信じるか?)
答えは否だ。
自分で仲良くなれば良いじゃん?と言われるのがオチだし、その方が簡単だよ?と言われたらアウトだ。
それ以上は頼みにくくなる。
それにこの男は意外と勘が鋭い。
下手な事を言って、変に勘ぐられるくらいなら…。
(…土台無理な話だったか。なら、ある程度正直に…)
アプローチ法を変えよう。
別に付き合って貰う必要はねぇんだ。
「実はあの新見晴子って女、昔の俺の知り合いに似てるんだ」
「…へぇ?」
だから何?って顔してるな、そりゃそうだ。
「俺の知ってる女なのか、それとも似てるだけの別人なのか…。本人にバレねぇように情報が欲しい」
…嘘は言ってない。
大和の顔を窺うと、予想外…と言う顔をしている。
「え…、何で本人に聞かねぇの?」
「だからぁ、本人にバレたくねぇんだよ」
「その…知ってる女だったら何か問題があるのか?」
そこまで言った大和は、何か思いついたように目を見開いた。
「…まさか…、過去に子供を堕させた女…」
きゃあ!とでも言いそうに、両手を口元にあてる仕草にイラッとする。
コイツのノリは、たまに本気で殺意を覚える。
「いっぺん死ぬか?いや、一度と言わず、何度か死んどくか?」
「そんな怒るなよー、冗談だろー。お詫びに協力するからさ」
俺が本気でイラついたのが分かったんだろう。
大和は慌てて俺の肩を叩いてくる。
「…本当だな?」
やっぱり持つべきものは友達だったな!
「あぁ、もちろん。面白そうだし。でもそのうち、ちゃんと理由を教えてくれよな」
「あ…あぁ、…そうだな。そのうち…」
…いつか本当の事を。
「すまんな、…恩に着る」
素直にそう言うと、大和は驚いたように目を見開いた。
「え?颯斗が礼を言うなんて…、天変地異の前触れか?!…スマホスマホ…、もう一回!もう一回言って!録音するから!!」
「前言撤回だ。てめぇに感謝の気持ちなんぞ、微塵もねぇ」
アホみたいにスマホを向けてくる大和に、俺は白い目を向けた。
♢♢♢♢♢♢
少しは前進したかな、という安心感で、再びノートパソコンの電源を入れる。
画面には前回から全く進んでいないレポートが映っている。
(せっかく図書館に来たんだ、ほんの少しでも進めてから帰るか)
だが腹の虫がなり始めて、ちらっと腕時計を見るとちょうどお昼の時間になろうとしていた。
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