第60話 最後の朝。
キッチンに戻った俺は、愛莉と二人で手分けして朝食を作る事にした。
俺が冷蔵庫に入っていたレタスときゅうりに、オマケのアボガドとタマゴを付けて、適当にサラダを盛り付けている隣で、愛莉はキノコやらチーズやらでオムレツを作っている。
「颯斗、冷蔵庫に昨日作っておいた冷製スープ入ってるから出しておいてくれる?あ、あとパセリも」
そう言った愛莉は、フライパンの中の卵を器用に端に寄せながら、絶妙な半熟オムレツを皿へとスライドさせている。
…正直、料理に関しての手際の良さは俺以上だ。
「…キノコ余ってたらくれよ、炒めて食うから」
言われるままに冷蔵庫から冷製スープの入ったボウルを出して、ドアポケットに入れてあるオレンジジュースと牛乳も取り出す。
ガラスのピッチャー3つそれぞれに、オレンジジュースと牛乳。それから冷水にスライスレモンを浮かべたものをテーブルに用意すると、匂いに釣られるように大和が起きて来た。
「おはよー」とあくび混じりに言いながら愛莉に近づき、何か手伝える事はないか?と聞いている。
(…アイツ…本気で愛莉狙ってんのか?)
大和は存在そのものが冗談みたいな奴で、どこまでが冗談でどこからが本気なのか分からない。
昨日言った事を今日には忘れてるなんぞ、
(……ま、どうでも良いけどな)
そう思いつつも何故か気になり、ついつい二人を見てしまう。
最初の頃よりは打ち解けたのか(そもそも大和がおかしな事をしなければ、愛莉もそんなにキツくはない)、大和が冷蔵庫を覗き込み、今日で最後だから食材全部使っちゃおうよ、と愛莉に話かけている。
(…そういや、愛莉って彼氏いねぇのか?そんな話聞いた事なかったし、いねぇと思ってたけど…実はいるって可能性もあるんだよな)
そう改めて考えると気になって来る。
ガキの頃は男と変わらなかったが、今は欲目抜きにしても、それなりに可愛くなったんじゃないか?
(そうだよな、彼氏いないわけねーよな)
そうこうしてるうち朝食の時間になって、みゆりが部屋から出て来た。
チラッと愛莉と大和を見るが、興味なさそうにイスに座って俺が用意したオレンジジュースを飲んでいる。
…相変わらず何もしない女だ。
「おいみゆり、飯は愛莉が作ってんだ、出来上がった皿を並べるくらいの事はしろよ」
「…はーい」
めんどくさそうに返事をしたみゆりをイスから追い立てると、そのタイミングで朝食メニューが全て出来上がった。
大和の冷蔵庫を「空にして帰ろう」という一言のせいで、4人分の朝食とは思えない量だが、…まぁ良いだろう。
♢♢♢♢♢♢
朝食後はそれぞれ部屋に戻って荷造りだ。
…荷造りっても土産物買ったわけでもないから、増えてねえし、あっという間だけどな。
持って来た荷物を旅行バックに詰め込んで肩に掛けると、大和がサムに電話をしている。
「……うん、……電車の時間が…だから……」
来る時もそうだったが、電車の時間を調べたり、駅までの時間配分や迎えの車のタイミングやらを考えるのは大和だ。
別に頼んだ訳じゃないが、人に合わせて予定を考える事が苦手な俺には正直凄いと思う。
俺なら出来ねえし、…まぁ出来てもやらねぇけど。
「…よし、兄さん15分くらいでコッチに来るって」
「早くねぇか?電車の時間は?」
「田舎だから東京ほどこまめに電車通ってないからなぁ…、でも兄さんも海の家があるから、俺らの電車時間に合わせて駅まで送ってもらえないしさ」
…まぁそうだよな。
早めに駅まで送って貰って、後は駅で電車時刻まで時間を潰してるしかなさそうだ。
(俺の田舎と違って駅前は賑やかだったし、1時間くらいなら潰せるか…)
大和と二人でリビングへ行くと、まだ女共は来ていない。
テーブルに荷物を置いてスマホを弄っていると、大和がペットボトルのお茶を冷蔵庫から出して来た。
「駅前にオススメの土産物屋があるんだ、そこのスイーツがお土産にはオススメだぞー」
「…土産を買うような相手はいねぇよ」
ペットボトルを受け取りながら言うと、大和は「晴ちゃんは?」と聞き返しながら俺の前に座る。
「…怒らせようとしてんのか?」
「てへ」
…絶対ワザとだな。
わざわざ新見晴子の名前を出して来る所に、性格の悪さが滲み出でやがるぞ。
テーブル下の足を思いっきり蹴飛ばしてやると、大和は衝撃で飲んでいたペットボトルのお茶を吹き出す。
「…ぶふっ!?」
タイミング悪くその時に女達がやって来て、鼻からお茶を流している大和に白い目を向けた。
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