第64話 愛莉の新居[2]
#愛莉side ────
疲れた…、やっと颯斗と二人きりになれたわ。
自分から行くと言ったものの、そんなに親しくない人達と長時間一緒に過ごすのは、やっぱり疲れる。
肩に荷物を背負い直すと、スタスタと歩き出した颯斗の背中を追い掛ける。
「ちょっと待ってよ…、歩くの早い…」
「…あ?別に俺に合わせる事ねーだろ、ゆっくり帰って来りゃ良いじゃねーか」
…女の子の荷物は多いのよ。
颯斗と違って旅行鞄も2つあるし、持ってあげようか?って言う優しさはないのかしらね、まったく…。
ブツブツ言いながら後ろを歩いていると、颯斗の手が私から旅行鞄を奪った。
「…遅ぇ、早く帰って休みてぇんだよ。トロトロ歩くな」
「……あ…ありがと」
荷物は持ってくれたけど、歩くスピードは緩めない颯斗に、素直じゃない優しさを感じる。
「…おい愛莉。そういやお前、いつ新しい部屋に行くんだ?」
「…え」
考えてなかった。
新居に運ぶ荷物は、今持っている荷物+αくらいのものだから、直ぐに引っ越せるけど、…どうしよう?
「んー…、今日はもう疲れてるし…、2、3日後…?」
本当は全然考えてない。
そう適当に答えると、颯斗は一瞬だけ視線を柔らかくした。
だけどすぐに興味無さそうな顔に戻る。
「…はぁ?さっさと行けよな、俺がベッド使えねーだろが」
「何よ、そんな邪魔扱いしなくてもいいでしょ、少しは寂しいとかない訳?」
「ない」
迷う事なく即答する颯斗を睨むと、私は内心でほくそ笑む。
(人を邪魔者扱いしてくれちゃって…、私の引越し先を聞いたら驚くわよ)
最初、こんなに早く引越し先を決めてしまった父さんに文句言ってやろうかと思ったくらいだったけど、今は感謝してる。
(…でも父さん…、けっこう無理したんじゃないかしらね)
これから暮らす新居の家賃を考えると、かなり思い切ったと思う。
清水の舞台から、軽く2、3回は飛び降りたんじゃないかしら。
何だかんだ言って、歩く歩調を合わせてくれている颯斗の横顔を見て、私は今からワクワクが止まらなかった。
#颯斗side ────
やっとマンションに着くと、荷物を片付ける体力もなく、ソファへ倒れ込む。
(…疲れた…)
まだ昼過ぎだが、このまま目を閉じて明日の朝まで寝てしまいたい衝動にかられるくらいに疲れた。
だが洗濯物がバッグの中に入れっぱなしだ、少し休んだら片付けねーと…。
このまま寝ちまったら、明日には洗濯物が臭ってそうだ。
そう思うものの身体は起き上がらず、俺はソファの上に両腕を枕にして仰向けに横になった。
すると洗面所から愛莉が顔を出す。
「颯斗ー?休む前にあんたの洗濯物出しなさいよ、一緒に洗っちゃうから」
「…バッグの中だ」
「出せって言ってんの」
もう少しダラダラしていたかったが、せっかく洗ってくれるってんだから、断る理由はない。
俺は疲れたオッサンみたいな掛け声で起き上がると、バッグの中から洗濯物の入った小さな袋を愛莉に手渡した。
それから、どちらからともなく夕食は店屋物に決定し、いつものように飯を食い終えてシャワーを浴びると、愛莉は当然のように寝室へ行ってしまう。
(…だよな、そんな気はしてた)
まぁいつもの事だ。
それに今回は洗濯物やら何やら、全部愛莉がやってくれたし、文句は言えねぇな。
俺も愛莉の後にシャワー浴びて、髪を拭きながらリビングに戻ると、ソファの上に投げ出してあったスマホを手に取る。
(…大和?)
今日別れたばかりで何の用だとメッセージを開くと、そこには…。
『愛莉ちゃんのメッセID教えて』
という短文メッセージの後に、デフォルトされた猫のキャラがお願いポーズをしている気色の悪ぃスタンプが連投されていた。
(……あれだけ一緒にいて、聞いてねーのかよ)
さすがに勝手に教える訳にはいかんだろ?
プライバシーだ。
そうメッセージで返事をすると、すぐに既読が付いた。
『じゃあ聞いて』
「………」
…どうするか。
なんかモヤモヤすんな。
だが聞いてやらねぇのも、それはそれで何か違う。
「…ん?」
考えていると、俺の返信を待たずに次のメッセージが届く。
『やっぱり聞かなくていい。代わりに俺の連絡先を愛莉ちゃんに教えておいて』
…ちッ。
教えて、じゃなくて、教えておいて。だとさすがに断りずれぇな。
(…仕方ないな)
俺は大和から来たメッセージのスクショと一緒に、大和の連絡先を愛莉に送ると、既読の確認をせずにスマホをソファに放り投げた。
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