第15話 意外な共通点。
翌朝、寝不足だったが、約束通りにショッピングモールへ買い物に出掛けた。
車はないから(免許はある)、電車だ。
「布団とか、どうやって持って帰るの?」
「持って帰れる訳ねーだろ、買う物が決まったら当日配送だ」
眠さもあって、ぶっきらぼうに答える。
人の睡眠を邪魔しておいて、自分はグースカ寝やがって。
買い物が終わったら、今度こそベッドで寝てやる。
「お前が使うんだからお前が選べ。俺は適当にぶらついてるから、欲しい物が決まったら声かけろよ。じゃあな」
買ってやるとは言ったが、一緒に買い物に回るとは言っていない。
俺は俺で、他の店を見て回る。
たまたま立ち寄った本屋で、好きな作家の本を探していると、後ろから声を掛けられた。
「真城クン?」
「…ぁ?」
振り返ると、沢山の本を抱えたみゆりが立っている。
「……」
「あー、嫌そうな顔してるー。真城クンって、結構あからさまだよねー」
「…別に…」
しまった、顔に出ちまったか。
どうにも、このみゆりって女は苦手だ。
「この間の飲み会、私友達と帰っちゃったけど、あの後大丈夫だった?結構飲んでたけど帰れた?」
そう言いながら、腕を絡めてくる。
「…あぁ、千代音が出来上がってたからな。ホテ…いや、駅まで送ってから帰った」
するりとみゆりの腕から抜け出しながら答えると、みゆりは少しだけ顔をひくつかせた。
「…今…ホテルって言った?」
「…気のせいだろ」
「千代音とホテルに行ったの?」
「このアホが。行ってねーし、関係ねーだろ」
「関係あるよー!私、真城クンの事好きだもん。千代音がライバルなのかどうか気になるじゃん」
「安心しろ、アイツはライバルじゃねーし。そもそも俺は、誰にも興味はない」
「ね、それより今日は一人?私本を買いに来ただけで一人なんだー、この後お昼一緒に食べない?」
さらりと話題を変えるな、…女ってのは皆んなこうなのか?
無視してやろうと思ったが、みゆりが抱えている本が目に入り、俺は本を指差した。
「…推理小説好きなのか?」
意外だ。
抱えてるのは推理小説ばかりで、正直言って、みゆりが読んでいるとは思わなかった。
こいつの事だから、漫画ばかり読んでるのかと思ったが違ったのか。
「あーコレ?私海外の推理小説って好きでさ。あ、もちろん日本のも好きだよ?」
「へえー、俺も推理小説好きなんだよ。◯◯著の探偵シリーズは読んだか?」
「もっちろん読んだよぉ!2作目がお気に入りだよ、最後のどんでん返しが、そうきたかーって!」
おぉ、話分かるじゃねーか。
まさかこんな近くに、趣味の合う奴がいるとは思わなかった。
「今持ってる小説は読んだ事ない作家さん達ので、試しに読んでみようと思って、何冊か見繕ってみたの」
「どれ…」
みゆりが持っている本を見てみると、何冊かは俺が読んだ事がある物がある。
「◯◯が好きなら、これはハマるだろうな。こっちは…少し系統が違うけど、結構ラストまで楽しめるぜ」
「ホント?グロいってレビューもあったから、少し警戒してたんだけど」
「あー…確かに、殺しのシーンな。…俺は平気だったが、嫌な奴は嫌だろうな」
犯人目線の地の文で、殺しの描写が嫌に生々しい小説だ。
人体の構造に詳しくないと、
そのせいか、作者は医者なんじゃないか?それともまさか…?という憶測も出た問題作である。
「俺がまだ持ってるから貸してやるよ。平気なら読めば良いし、無理なら返してくれれば良い」
「え、ありがとう!良かったー、買って読めなかったらお金の無駄だし、ずっと迷ってたのー」
そうピンクな声で言うと、みゆりは懲りずに腕を絡めて来た。
…クセ?条件反射?パプロフの犬かなんかなのか?
#みゆりside ────
私がせっかく昼に誘ってるのに、そこは無視して、思わぬところに反応を示して来た。
最初、姿を見付けて話しかけた時は、いつも通りの嫌そうな顔を見せて来たのに、私の持ってる本を見た瞬間、ゴミでも見ていたような視線が変わる。
(推理小説が好きな事は、もともとリサーチ済み。それにしても、ここまであからさまに態度を変えられると、さすがにムカつくわね)
まるで私自身には、全く興味がないと言いたげな態度だが、そうはいかない。
「あーコレ?私海外の推理小説って好きでさ。あ、もちろん日本のも好きだよ?」
「へえー、俺も推理小説好きなんだよ。◯◯著の探偵シリーズは読んだか?」
もちろん私だって、興味のない本を読もうとは思わない。
推理小説が好きなのは本当だ。
その後少しだけ会話が盛り上がり、ほんの少しだけだけど、颯斗と仲良くなれた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます