第16話 みゆりvs愛莉。
ずっと買うかどうか迷っていた小説。
面白そうだったけど、レビューから敬遠していた小説を、勇気を出して買ってみようと持っていたのだが、颯斗が持っているらしくて、貸してくれる事になった。
「え、ありがとう!良かったー、買って読めなかったらお金の無駄だし、ずっと迷ってたのー」
お礼の気持ちも込めて、颯斗の腕に抱き付くと、背後から「何してんのよ!」という声が聞こえて来た。
振り返ると、見たことのない女が私達を見ている。
「…?真城クン…知り合い?」
「んー、あぁ、まぁ…」
曖昧に言葉を濁す颯斗に首を傾げると、女はズカズカとやって来て、颯斗を私から引き離した。
#颯斗side ────
「…ッ、おい愛莉…」
「誰?」
「はぁ?」
「誰よ、この女!」
何をこんなに怒ってやがるんだコイツは…。
「…愛莉、人を指差すな。こいつはみゆり…、俺の大学の知り合いだ」
「颯斗は大学の知り合いと抱き合うの?」
「抱き合…ッ?人聞きが悪ぃな!誰が抱き合ってたっつーんだ!」
「抱き合ってたじゃない!!」
何で、浮気現場を見られた男みたいな事を、愛莉に言われなきゃならんのだ。
返事に詰まっていると、横からみゆりが声を掛けて来た。
「…あのー…?」
「あー、悪いなみゆり。こいつ俺の幼馴染なんだ、口の聞き方知らなくて…」
「幼馴染…、彼女じゃなくて?」
…はぁ?
何で愛莉が俺の彼女になるんだ。
「んな訳あるか、妹みたいなもんだ」
そう言うと、愛莉が何故か不機嫌そうに唇を尖らせ、みゆりは「ふーん…」と笑っている。
「真城クンにとってはただの幼馴染でも、彼女は違うみたいね?」
「…あ?どう言う意味…」
何の話をしてるんだ、と眉を寄せると、みゆりはニコッと愛莉に笑いかけた。
「初めましてー、真城クンに
みゆりが「妹みたいな」を強調して言うと、愛莉はあからさまに顔をひきつらせた。
…なんだ?
なんか寒気がするぞ。
「…いいえー、私も颯斗の事は
こっちはこっちで、「子供の頃」と「お友達」を強調している。
一体何なんだ?
(…ッ!?こ…これは…!!?)
み…見える…。
何故か二人の間に、静かに吹き荒れるブリザードが…!!
このままじゃまずい。
俺の本能がそう言っている。
早くこの二人を引き離さないと、とんでもないことになりそうだ。
俺は愛莉の腕を掴むと、みゆりに軽く手を挙げた。
「悪いなみゆり、本は後で大学でな!」
なんとかそれだけを言うと、俺は愛莉を連れてその場を逃げ出した。
♢♢♢♢♢♢
みゆりから逃げるように買い物を猛スピードで済ませた俺は、愛莉を連れて帰りの電車に乗っていた。
(…さっきの一触即発の雰囲気は胃に悪いな)
ちらっと愛莉を見ると、いまだにムスッとしている。
(みゆりは…まぁ…、明らかに俺に好意を持ってんだろうが…、なんでコイツはみゆりに対して、敵対心燃やしてたんだ?)
まさか愛莉も俺が好きなのか?
いや、いくらイケメンでも、幼馴染をそんな目で見ないよなぁ…。
俺(聡太)は恋愛面に疎いから、全く分からん。
(…転生して、意識を俺に乗っ取られる前の颯斗なら、分かったんだろうか…)
記憶も考えも性格も、颯斗の全ては俺の中にきちんとあるが、それ以上に聡太としての性格や、意識の方が強く出ている。
(俺がしてるのは酷い事…、なんだろうな)
周りの人間からすれば、親しかった人物が、急に他人になったようなものだ。
確かに颯斗の記憶があって、本人ではあるが、性格や考え方が変わってしまって、それは本人と呼べるんだろうか?
(俺は颯斗なんだろうか、それとも聡太なんだろうか…。融合…って感じなのか?)
「…ん?」
肩に重みを感じて意識を現実に戻すと、愛莉が俺の肩に寄りかかりながら目を閉じている。
(…ったく、昨日の夜はお前のせいで寝てねーんだぞ。眠いのは俺の方だっつーの…)
すやすやと眠る愛莉を見ていると、忘れていた眠気が甦ってくる。
(まだ降りる駅には遠いな…、起きてられるか?)
二人して眠ってしまったら、起こるのは悲劇だ。
俺は閉じそうな目を必死に開けて、窓の外を眺めていた。
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