第53話 愛莉の勇気。
#愛莉side ────
ずっと引っ掛かったままの、みゆりさんの言葉。
…分かってる。
「ただの幼馴染み」だなんて、もう言い飽きてる。
普通に考えればバレバレなのも分かってる。
それでも颯斗が私の気持ちに気付かないのは、
(颯斗は、私の事を家族としか思ってない…。うぅん、家族だと信じて疑ってない)
それは確かに嬉しいし、私も同じ気持ちだけど、私には家族以上の感情が確かにあって、それは今さら消せるはずもない。
一度自分の恋心に気づいてしまったら、もうごまかせない。
私はスマホを取り出して、お父さんからのメッセージを見返した。
私の住む部屋を見つけて、もう契約も済ませたって内容だ。
…はぁ…。
お父さん…、もう少しのんびりしてくれても良かったのに。
いつも天然でトロくさいのに、こんな時だけ素早いんだから。
(口では信用してるって言いつつ、やっぱり私が颯斗と二人で暮らしてるっていうのは、さすがに不安だったのかしらねー)
お父さんもお母さんも、私が颯斗を好きな事は知っている。
いや、話した訳じゃないけど、察してる。
もしかして?と思ったのかも知れない。
(…いや、こっちはそれを望んでるってのに…)
きっとそのうち、颯斗にも私の新しい部屋が決まったって連絡が行くはず。
(…そしたら…もう颯斗とは暮らせない)
今までみたいに一緒にいられなくなるなら、今回の泊まりで告白してしまおう…。
そう思って颯斗を呼び出したまでは良い。
(でも…今回の旅行でも思い知ったけど、颯斗は私を意識してない)
…迷う。
告白しても良いのか。
この気持ちを伝えて、後悔しないか。
颯斗は絶対に断る、これは確実だ。
お前は妹みたいなもんだ。と、冗談で済まされるならまだ良い。
(それよりも怖いのは…、私が意識しているんだと分かった颯斗が、私から離れていく事…)
もしかしたら、こっちの方が確率が高い。
昔は違ったけど、今の颯斗は…何故か分からないけど、女の子を嫌ってるように思える。
私の事を妹や家族ではなく、自分に好意を寄せるただの女だと認識してしまったら、颯斗はどう変わるだろう?
今までみたいに、気軽に傍にいられなくなる?
それとも気を使って、今まで通りに接してくれる?
…いや、気を使われるのも嫌だわ。
(颯斗の事は、誰より一番理解してるつもりだったけど…)
…分からない。
私が気持ちを伝えた後の颯斗の態度や考えが、全く分からない。
「…はぁ…」
みゆりさんが羨ましい。
あんな風に気持ちを隠す事なく、真っ直ぐにぶつかって行けるのは、立場もあるだろうけど、性格なんだろうな。
でも私だって颯斗を思う気持ちは変わらないし、妹でいるのも嫌。
妹より彼女になりたいし、颯斗には幼馴染より彼氏になって欲しい。
どちらにしても、この気持ちはずっと隠しておけない。
いつかは颯斗にもバレる。
告白する前に気付かれて、そのまま距離をおかれて避けられるより、結果は同じでも、自分から伝えた方が絶対に良い。
その方が自分もスッキリするはずだ。
何でも言い合える仲なんでしょ?と言う、みゆりさんの言葉が頭の中をリフレインしている。
(勇気を出すのよ…、今まで一緒に過ごして来た颯斗を信じるの。気持ちを伝えたって、きっと避けたりしない…。だって私達は家族同然の、幼馴染だもの…)
深く深呼吸を繰り返すと、バクバクと早鐘を打っていた胸が少しだけ落ち着く。
するとポケットの中のスマホがピコンッと鳴った。
取り出すと、メッセージが入っている。
(颯斗から…)
これから向かうという、一言だけの短いメッセージが颯斗らしい。
(…もう後戻りはできないわ)
スマホをポケットにしまって夜空を見上げる。
さっき落ち着いたはずの心臓が、またバクバクと早くなっていた。
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