第51話 肝試しは危険です。

肝試しの舞台となる廃墟へとやって来た俺とみゆりは、外からちた建物を眺める。


窓ガラスは割れ、壁や柱もぼろぼろで、なるほど確かに幽霊が出そうな場所だ。


(…おぉ、雰囲気あるな)


配られた地図のコピーを見ると、まずは一階。

玄関を入ってすぐの部屋にカードがあるらしい。


「とりあえずこの部屋に向かうか」


玄関を入り中を覗くと、これはすごいな。

変な仕掛けがある訳でもない、ただの普通の家なのに、下手なお化け屋敷より余程怖いぞ。


明らかに人が住んでいない廃墟なのに、何十年も前の古いカレンダーや、写真立てなどが置いてあり、そのアンバランスさが逆に怖い。


(…これだな)


その写真立ての前にあるカードを手に取ると、ポケットに突っ込む。


廊下を進むとキッチンがあり、そのキッチンも家具がそのままだ。

見てみると、汚れてはいるものの、中には割れてもいない皿やコップが埃まみれで並んでいる。


(…昔はこの家で暮らして、この食器で食事をしていた家族がいたんだな…)


そう思うと感慨深い。


「…子供用のプラコップだ、…子供がいたのか」


こうして、当時の物が残ってると、どんな生活を送っていたのか気になるな。


「…あ、この部屋みたいよ?」


地図を見ていたみゆりが、襖の閉まった部屋を指差す。

襖を開けて中を覗くと、ものすごい埃の臭いだ。


「へぇ、和室だな。…仏壇が置いてあるから仏間か?」


仏壇の上の壁には、ズラリと沢山の遺影が飾られている。

仏壇が置きっぱなしって事は、夜逃げとか何かの理由で放置されてるって事か…。


見ると、その仏壇の上にカードが置かれていた。


「よし、2枚目ゲット。…全部で3枚だよな?残りは…」


2階か?と上を見上げると、みゆりが「…ん?」と首を傾げた。


「…待って?何か聞こえない?」


「…そうか?次の奴らがもう来たとか…」


そう言いながら耳を澄ますと、確かに女の声が聞こえて来た。

歌詞は分からないが、悲しげな歌を歌っている声だ。


「…おいおい、嘘だろ?」


「2階からみたい…」


みゆりは天井を見上げながら、ポソっと呟く。


(マジかよ?2階はこれから行くんだぞ?マジでいるのか?幽霊が?)


怖い気持ち半分、興味半分の心境だ。

まだ歌は聞こえている。


…面白いじゃねぇか。

幽霊だろうと、幽霊じゃなかろうと、噂の正体をこの目で見てやる。



♢♢♢♢♢♢



2階は1部屋だけだった。

ドアは2つで、1つはベランダへのドアだ。

ベランダは外から見たが、ほとんど崩れていて、外には出られない。


迷わずもう1つのドアを開け、中に足を踏み入れると、えたほこりの臭いが鼻をついた。


「…人がいるとは思えねぇな、やっぱり空耳か?」


一歩、また一歩と奥へ入ると、部屋の奥にもう一つドアがあった。


「…?」


地図には書いてなかったが、もう1つ奥に部屋があるのか?

近付いてみると、鍵穴が見える。


(…鍵が掛かってて入れないから、地図には書かなかったのか?)


だがドアノブを捻ると、ドアはすんなりと開いた。


「…何だ開くじゃねぇか、おいみゆり。カードを探し…」


そう言いながら部屋の中を覗き込んだ俺は、目の前に広がる光景に、腹の底から悲鳴をあげた。



♢♢♢♢♢♢



あの後、どうやって帰ったのか覚えていない。

だが気がつけば、廃墟から離れた場所で、大和に話し掛けられていた。


「目が覚めたか?…どうしたんだよ?こんな所で寝てたら虫に刺されるぞ?」


「…俺は…ずっとここにいたのか?」


「え、知らないけど…。俺と愛莉ちゃんの番になって、廃墟へ行こうとしたら、ここで寝てた颯斗を見つけたんだよ」


「………みゆりは?」


あの時、部屋を覗き込んだ俺が見たのは、天井からダラリとぶら下がる、首吊りをした女の姿で、いつの間にかみゆりの姿はなかった。


「…?みゆりちゃん?足を挫いて歩けないから、留守番してるってメッセ入ってたけど?」


「…はぁ?何言ってんだ、一緒に肝試しに参加したろ?」


「颯斗こそ何言ってんだよー、みゆりちゃんが怪我した時、お前も一緒にいたんだろ?」


…?どう言う事だ?

俺はみゆりと参加したよな?


「ほら、それより帰ろうぜ?結局◯mazonギフト券は貰えなかったなー」


「大和さん怖がりなんですね、まさか途中で帰りたいって言い出すとは思いませんでした」


「え?違うよ?トイレに行きたくな…」


「参加前にいってましたよね?トイレ近いんですか?」


「……」


二人が話す会話が頭に入って来ない。

みゆりはホントに来なかったのか?それなら、俺と廃墟に行ったのは誰だ?


大和にも愛莉にも、嘘を吐いている様子はない。


(来てないのか?本当に?)


思わず足を止めると、二人が顔を覗き込んで来る。


「…颯斗?顔色悪いわよ?」


「どうしたんだよ?さっきから」


余程真っ青な顔をしていたのか。

心配そうに声を掛けてくる二人の声に合わせて、哀しげな歌声が聞こえた様な気がした。

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