第62話 颯斗くんは夢をみる。

帰りの電車は皆んな爆睡だった。

つい俺も眠くなり、最寄り駅の到着時刻に合わせてスマホのアラームをセットしておく。


「ふー…ッ」


3人を見ると、さすがに少し焼けたな。

狭いボックス席だからよく見えるが、大和なんぞもう上半身が真っ赤だ。

あれは東京戻ってから苦労しそうだな、ぜってぇ痛ぇぞ。


愛莉は元々焼けてる方だから見た感じは変わらないが、それでも顔周りは赤くなってる。


そう言う俺も首元が赤くなってるし、クールダウン用の薬を買っておかねぇと…。


(…あまり変わってねぇのはみゆりだけか)


コイツだけは、焼けたくない!焼けたくない!って騒ぎながら、日傘やら日焼け止めやら持ち歩いてたな。


日焼け止め塗ってくれと、甘えた声で言って来たみゆりを思い出しながら、俺も3人の寝息に誘われるように眠りに落ちた。



♢♢♢♢♢♢



声が聞こえる。…俺の声だ。

何か話してる。


眠い目を擦りながら目を開けると、俺は学生服を着ていた。

…これは…中学ん時の制服じゃねえか?


(…そうか、夢…見てんだな)


夢の中で自分の意識がハッキリあって、夢だと自分で分かってる夢…明晰夢って言うんだったか?

初めて見たぞ。


この学校内の様子、何だか懐かしいな…。

俺は学校の廊下をクラスメートと歩きながら、他愛ない話をしていた。


「なぁ颯斗、今日のテストどうだった?」


そう聞いて来るクラスメートに、俺は肩をすくめて笑顔を向ける。


「…最悪だったっつーの、まさか抜き打ちテストがあるなんぞ聞いてねーぞ、クソ」


「抜き打ちなんだから言ったら意味ないだろ」


そんな話をしながら、俺は隠れて隣のクラスメートに溜め息を吐く。

実際はあんまり難しくなかったが、それは言えない雰囲気だ。


「お前はいいよなー、頭良いもんなぁ…」


「…ぁ?んな事ねーよ、いつもたまたま勉強した所がテストに出るだけだ、良いのは頭じゃなくて運だ」


…本当は毎日寝る直前まで勉強をしてるが、それは実は両親でさえ知らない。

俺は常に100%でいたいタイプだが、それを表に出すのが好きじゃない。

理由は単純明快。努力家よりも生まれつきの天才だと思われたいからだ。

そっちの方がカッコいいからな。


そんな事を考えていると、通りすがった女子が俺を見ながらキャアキャアと騒ぐ。

見た事がない顔ぶれだ。


この学校はモンスター校とまではいかなくても生徒数が多く、同じ学年でも見た事のない生徒は沢山いる。


騒いでいる女達に笑顔で手を振ってやると、一際黄色い声が降りかかって来た。

…うん、女はやっぱ可愛い。


今は彼女もいないし、適当に好みの子を探して声を掛けてもいいが、パッと見だと可愛い子はいねぇ。

お…でもスタイルの良い子はいるな。


通り過ぎながらさりげなく女達の姿をチェックしていると、一人の女が顔を真っ赤にしながら近づいて来て、手紙を差し出して来る。

…ルックスは中の中、却下だな。


内容は見なくても分かる、どんな女が渡して来る手紙も、内容は一貫して『好きです』『付き合って下さい』『連絡待ってます』。…こんなところだ。


(…あんま俺好みの顔じゃねーけど…)


だがそんな気持ちなどおくびにも出さず、俺は笑顔で手紙を受け取る。


すると耳を塞ぎたくなる声で騒ぎながら、女は待っている友人らしき女達の所へ走り去って行った。


「相変わらずモテるな、その手紙…今日で何通目だ?」


「……女っていいよな…。俺の自己肯定感を爆上げしてくれる…」


聞いて来る友人を無視して、俺は悦に入る。

チヤホヤされたりキャーキャー騒がれるのは、やっぱり気分が良い。

むしろもっと褒めちぎれ。


「…俺、お前のそういうところ嫌いじゃないぞ」


それからも下校時間になるまで何通もの手紙やプレゼントを受け取って、帰る頃には学生鞄はパンパンだった。


部屋に戻ると、貰った手紙を机の引き出しに入れてプレゼントを開ける。


(そろそろ捨てるなり何なりしねぇと、部屋が凄いことになって来てるな…)


部屋の中や押し入れの中は、貰った手紙を入れた段ボールやプレゼントで一杯だ。

使わないんだから捨てても良いんだが、どうも抵抗があるんだよなぁ。


何故なら、残してあるプレゼントの量や手紙の数が多ければ多いほど、見返した時に自分の人気度が分かるからだ。


(…ま、後で考えるか。それより今日の授業の復習しねぇとな)


学生鞄の中から今日の授業で使った教科書とノートを取り出すと、俺は机にノートを広げた。



♢♢♢♢♢♢



目を開けると、そこは電車の中だった。

どうやら夢を見ていたみたいだ。


(…中学の頃の夢だな)


記憶…という意味では覚えているが、感情や考えてる事まで鮮明に思い出すのは初じゃねぇか?


(記憶からはただの女好きの遊び人かと思ってたが…、まさかこんな…)


…こんなアホだったとは。

え?我ながら思い出すと恥ずかしいぞ?


女好きの遊び人であり(これは間違いない)、天才だと思われたい努力家でもあり、生粋のナルシストでもある…。


(……キャラ設定少し…いや、かなり欲張り過ぎだろ)


まぁ努力を隠したいって部分は俺にも分かる。

努力してる部分ってのは、人に見せるもんじゃねーもんな。


でもだからって俺は元の颯斗みたいに、努力せずに何でもこなす天才だと思われたいとまでは思わない。


女共見る目なさ過ぎじゃねーか?

自分で言うのもなんだが、過去の俺はかなりアホだし、あまり性格も良くねぇぞ。

腹ん中で女の品定めしてるような男だぞ?


(外ヅラの良さと愛想の良さは完璧だったって事か)


…今はどっちもダメだけどな。


つい溜息を吐きながら時計を見ると、最寄り駅まで後2〜30分だ。

俺はセットしておいたアラームを解除すると、マナーモードでゲームアプリを開いた。

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