第160話 アウト?セーフ?

#颯斗side ────



最初、今自分に起きてる状況が理解できなかった。

いつの間に寝てたのか……、いや、問題はそこじゃない。

俺は何故か真っ暗なリビングで、なんとでソファに寝てた。


(どうなって……、酔っ払ってた訳じゃあるまいし、なんで服脱いでんだ?)


ソファから降りると、床に脱ぎ捨てられた服が足に当たる。

……脱いだ記憶がねぇ。


(……電気つけねーと……、リモコンどうしたっけ?)


手探りでいつもはテーブルの上に置いてあるリモコンを探すが見つからない。

俺は仕方なく、床に乱雑に散らかった服の中から下着を探して身につけた。


「………!!そうだ、みゆりは?」


みゆりが来てたよな?

あいつはどこ行った?

みゆりが来てんのに、俺は1人で全裸になって寝ちまったのか?


(……ってオイ、ンなワケあるか。普通に考えてありえねーだろ)


あいつの前で全裸って……襲われるぞ。

あいつは人間の女の皮を被った、野生の狼なんだからな。


(……みゆりの奴に好みの女の話をされた後辺りから、どーも記憶が曖昧なんだよな)


急に気分が悪くなって、それで……。


(みゆりが心配そうに俺に………)


俺に………?

俺に触れたみゆりの冷たい手を思い出す。


気分が悪くて頭が重かった。

そんな時に触れてきたみゆりの手が冷たくて気持ち良くて……。


(それ以降の記憶がない)


部屋を見回すがみゆりの姿は見つからない。

俺が寝てるうちに帰ったのか?


服をしっかり着て廊下に出ると、バスルームからシャワーの音が聞こえて来る。


(………まさか………)


え?

いや、まさかだよな?


全裸で寝てた俺。

一緒にいたはずのみゆりがいなくて、今バスルームからはシャワーを浴びてる音。

もしかしなくても、シャワー浴びてんのはみゆりだろ。

他に誰もいないんだからな。


(……この状況……、まさか……)


ヤったのか?みゆりと?!

これっぽっちも覚えてねーぞ!!


いや……ありえねぇ、俺が女なんか抱く訳ねー(男なら良いって訳じゃねーぞ)。


(そうだ……ゴムは?)


リビングに引き返して電気をつける。

緊張しながらゴミ箱を覗くが、それらしきゴミはない。


(これはヤってないセーフなのか生でヤったアウトのか……。勘弁してくれよ………どうなってんだよ?)


クソ……、どっちだ。


(ヤベェ……!悪寒がする!!)


まさかマジでみゆりとヤったのか?と想像した瞬間、強烈な吐き気がして、慌ててトイレに駆け込んで嗚咽する。


「……ぉえ……」


記憶にない、記憶にないのに、感触が残ってる気がする。

手や指、唇や身体のアチコチに。


「………」


自分の手のひらを眺める。

みゆりの肌の感覚を、頭じゃなくて手のひらが覚えてる。

……確かに触れた。

肌の弾力、なめらかさ、それに指先に残る熱さ。全部残ってる。


「………ッ!!」


また気持ち悪くなって便器を抱えてうずくまる。


触れただけか…?

それなら前にもあった、いまさらだ。


(気持ち悪ぃ………)


俺の身体にもみゆりの匂いや温もりが残ってる気がする。

……早くシャワーを浴びたい。


なんとか深呼吸を繰り返して吐き気がおさまる頃、廊下からみゆりの声が聞こえた。


「真城クーン?………あ、ここにいた、どしたのぉ?」


「……みゆり………、さっき………」


聞きたいのに聞けない。

俺たちヤったのか?と聞いて、みゆりの口から「うん、ヤったよー」なんて言われた時にゃ、確実に死ねる自信がある。


つい言葉に詰まって黙ると、何かを察したらしいみゆりがニヤニヤと笑った。


「んーー?なにぃー?」


………殴ってやろうか。

つーか、みゆりの態度や様子は普段と変わらねーな。


「……勝手に人ん家でシャワー使ってんじゃねーよ」


やっとの思いでそれだけ言うと、みゆりは濡れた髪を拭きながら肩をすくめた。


「真城クンが先にシャワー使いなよって言ったんじゃない、覚えてないの?」


「………」


覚えてねぇ。


「真城クンもシャワー浴びて来たら?汗だくでしょ?激しく動いた後だし?……って、私の家じゃないけどー」


みゆりの言葉に顔がひきつる。

激しく動いた後で汗だく?


「真城クンってばけっこう激しいよねー、私体力なくなっちゃったー」


まさか……!?と顔が青ざめる。つーか倒れそうだ。

するとみゆりが面白そうに吹き出した。

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