第39話 瞬間、心、重ねて
『ビッグ・マンタよりサイガー1へ。寝てた?』
「……ああ、はい。おはようございます」
思わず朝の挨拶をしてしまったが、時計を見るとギリギリまだ朝だったので……まぁいっか。
最初は点のようにしか見えていなかった、先行しているビッグ・マンタとサイガー3に少しずつ近付いてきて、今は形状がはっきりわかる程になってきた。
『もうすぐ目的地なのでサイガー1もサイガー3も準備してください』
「了解」
『了解』
「サイガー1からサイガー3へ。どんな感じ?」
『……まぁなんとかなると……思います』
……なんかすごく緊張してて不安を感じるけど、本人の自己申告を信じよう……
「あれだけ何度もやったんだから、大丈夫、信じよう?」
『はい……そうですね!なんか自信出てきました』
『……もう一度、合体プロセスの最終確認をします。動画を再生して、タイムラインに沿ってミスがないように、しっかりとイメージトレーニングしておいて下さい』
メインの大きめのディスプレイで動画が再生され始める。もう何度となく見た動画だけれど、それでももう一度確認していると、先行していたサイガー3と、ビッグ・マンタに追いついた。
『では、訓練通りの配置について!』
ビッグ・マンタは徐々に高度を上げ、サイガー3はスピードを上げてビッグ・マンタの下側を追い越したのに続いて、僕もスロットルを引いて、上方に見えていたビッグ・マンタの巨体が後方に見えなくなるように速度を上げていく。
『合体シークエンス第一段階に入ります!』
『『了解!』』
「カウントダウン、5、4、3、2、1!」
「行くぞ!」『行きます!』
『『サイガードッキング・第一シークエンス、パターンC、GO!』』
掛け声に合わせて左手のスロットルを徐々に引いて出力を上げていく。サイガー3も同時に加速しているが、こちらの方が少し早いので徐々に近づいていく形になる。
サイガー3がかなり近くなり、上昇を始めるのが見えると、こっちも少し機首を下げながら遅れてトップスピードに入った所で少しこちらも右手の操縦桿を大きくグッと引いて……
大きな宙返りに入る。
結局、水平飛行中に合体させるのは、訓練でかなりの回数を試したけれど難易度が高すぎて、いくら試しても満足出来る結果にはならなかった。
それならということで垂直上昇中なら位置が合わせやすいんじゃないか?という発想で試したものの、それもどうも上手い事いかない。水平飛行からただ垂直に上昇させるだけだと、出力を絞る時に失速しかねないのだ。さらに、位置合わせ……速度が乗った状態でサイガー1に続いてサイガー3の順序で上昇するのが難しかった。
それで、どうしたものかと色々試行錯誤して導き出した結論が、最初に大きな宙返りを組み込む、というものだった。
まず先頭にサイガー3、その後方の少し下側にサイガー1、そしてそのかなり後・上方にビッグ・マンタという並びでフォーメーションを組む。
この配置から速度を上げてサイガー1、3がほぼ同時に宙返りをに入ると、サイガー3よりスピードが速くて旋回半径が少し小さいサイガー1の方がサイガー3より先に宙返りを終えて順序が入れ替わり、ループ後半の急降下そのままの勢いで垂直上昇、遅れて宙返りを終えてサイガー1と同じ位置で垂直上昇に入ったサイガー3の上に乗るようにサイガー1を合体させて、そのちょうど上方を通り過ぎるように調節したビッグ・マンタからサイガー2,4,5を投下して合体させる、というものだった。
タイミングは何度もシミュレーションを繰り返して綿密な手順を組んであり、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の表示によるアシストもある。
最初は水平線だった視界が操縦桿を引くとともに青空だけに変わって、身体にかかるGも次第に大きくなり、気を抜くと視界が狭く、白黒になりそうになるので気合を入れて視界を保つ。Gによって頭に血液が回らなくなることで起きるグレイアウトだ。
そんな目まぐるしく変わっていく視界を一瞬まぶしく太陽が通り過ぎて、頂点辺りで近づくビッグ・マンタがちらりと見えて……先に宙返り後半に入っているサイガー3が徐々に近付きながら下の方に移動して、視界から消える。
そしてループの頂点から……
一旦緩めたスロットルを、上方から地平線が見え始める辺りから全開にして増速する。
キュゥゥゥゥンッ、ゴォォォォォッ!
それまで逆らっていた重力加速度に乗せて一気に降下に移る。降下……というより落下する時の自分の体重がなくなって不安になる感覚にはいまだに慣れない。
そこから更に増速させて、ループ終了から勢いそのままに垂直に上昇する!!
ゴゴゴゴォォォォォッッ!!
最後に上昇しながら180度ロールを加える。これはこの後に放出される2、4、5号を合体させる為に正面を輸送機側に向けるため。
サイガー3も予定通り少し遅れて予定通りループを終えて、同じく180度ロールし、ぴたりと真下に位置取りする。
「南原さん、いけそう?」
『大丈夫です!順調です!今回はできます!』
南原さんに声をかけると頼もしい言葉が返ってきた。うん、これならいけそう!
徐々に接近するサイガー3を後方カメラの映像を見ながら相対速度をなるべく近づけるようにスロットルを調整する。
さぁ、本番だ!
「サイガードッキング、1,3、シンクロスタート」
「ドッキングサーチャー始動!」
「レーザーサーチャー同調!」
「相対速度、コンマ900……930!」
細かい速度は可変翼を操作して調節できるように操作UIを改修してもらっておいたのだ。エンジンの出力で速度を調節するだけでなく、可変翼の角度でも調節できるように。
変形動作の間だけ、いつもの左手で操作するスロットルの人差し指と中指で作動させる引き金・キャンセルトリガーを、可変翼の展開・収納トリガーにしてもらった。ちなみに、変形可変翼操作モードキャンセル→通常の兵器トリガーに戻すには同時長押し。
「相対速度コンマ950……970……980!」
「レーザーロックOK!」『レーザーロックOK!』
両機体のレーザーロックが成立した後は自動で合体してくれるので次の段階へ移行する。
「チェンジ、サイガー1!ドッキングゴー!」
『チェンジ、サイガー3!ドッキングゴー!』
南原さんと息を合わせて、ダイサイガーになるための変形を始める。
まず、サイガー1の機首部分が変形してサイガーエースの頭部だけが現れる。
コクピットも当然、サイガーエースと同じように移行するのだけど、機体が垂直上昇中なので背中側が下方向だったシートが上向き=前へ倒れて水平になり戦闘機コクピットから頭部コクピットへ移動すると、上昇中はほとんど空だけしか見えていなかった視界が上半分が空と真ん中に水平線の下は海面にガラリと変わると、上下がわかりやすくなったので少しだけ安心する。
続いてサイガー3も攻撃機状態から変形を始めると、胸部~腹部~腰部分が現れ、航空機の時にあったウェポンベイはそのまま利用可能なように、ダイサイガーの腹部となる。
その変形した形態のまま、二機は上下にゆっくり近づいていき……
ガチャン!
無事にサイガー1とサイガー3は見事合体を果たした!
ここで合体したサイガー1とサイガー3はダイサイガー状態では頭部~胸~腰辺りになる。
『やった!やったよ、芹沢君!成功した!成功したよ!!』
「うん、うん!やった!成功した!!」
あの苦労は何だったのだろう……と思うぐらい、第一段階のサイガー1と3の合体は順調にいったので二人で喜びを分かち合う。
実は、水平飛行中に合体させるのを諦めてループを組み込んだ後はようやくそれなりに成功するようになったのだけど、それほど練習回数を重ねることが出来ずにこの本番に臨むことになったで成功の感動もひとしおだった。
いや、あの苦労があったからこそ、この成功があったのだろう。
そんな感慨に浸る間もなく、次の第2段階へ進むために変形が始まる。
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