第19話 迎撃せよ!フタタビ作戦発動!

「これで座学の授業は最後なのだが、芹沢、キサマ、今までに心が折れた事があるか?」

 そんな慣れない訓練の日々がようやく最終日になった最後の座学の時間。

 内容は想定される戦闘の流れと、想定から外れた展開になった場合の対処方法についてだったのだけど、それが全部終わって最後の残り5分になって教官がいきなりそんなことを言い出した。

「え~っと、そうですね……最近だと中学の時に長距離走を走らされた時、ですかね……?」

「で、その時はどうした?」

「歩きました」

「うむ、しかし長距離走ならそれでも問題ないが、今回の戦闘中に心が折れたらそこでおしまい。名誉の戦死、二階級特進だ。結果、この街どころか国、最悪この星の未来まで危なくなる」

 そんな大事な役目やらせないでくださいよ……責任重大すぎる……

 ……と、思わないでもないが、黙って話の続きを聞く。

「そういうシチュエーションで追いつめられると、疲れた、痛い、眠い、パトラッシュ、もういいよね?ここで諦めたらこの苦痛から解放されるとか、自問自答がはじまって、浮上するきっかけが掴めないままネガティブなスパイラルに陥ってしまう」

「まぁ、そうですね……その結果、心が折れてしまうと思います」

「そんな状態で気持ちが自分の内側に引きこもってしまった時にでも、外からの声援、応援がある・あった事を思い出すだけでも、もうちょっとでも頑張ってみるか、と少しだけでも前向きになれたりするものだ」

「そもそもそんなシチュエーションには追い込まれたくはないですが……話はわかります」

「最後まで諦めるな!とはよく言うが、その最後とは誰が決めるのか?自分にとって最後だから諦めるのだろう?他人が言葉にして言う分には簡単だが、今まさに自分としては最後で、もうすでに諦めそうな当事者になってしまっている場合はそう簡単にはいかんものだよ」

「…………」

「だからだ。なんでもいい。誰かのため、家族のため、地域のため、国のため、地球のため、そんな大仰なものでなくてもいい。その大事なものが具体的で身近な何かであればあるほど追い込まれた時にもう少しだけ踏ん張れる。それは忘れない方がいい」

「……本当にそこまで追い詰められた時には、先生のその言葉を思い出す……ようにしたいです」

 ……でも、僕にはそこまで大事にしたい何かはあるだろうか……?

「つまり、どんなに追い詰められても自分の中へ気持ちを籠らせないで、なんでもいいから意識を外へ向けるきっかけみたいのを意識して戦ってくれ、ということだよ」

 なるほど、言ってることはわかる。しかし……

「それでもダメな時は……?」

「改めて驚愕し、大いに喚き散らして機と運命を共にするのだ!」

「無茶苦茶だ……」帝国陸軍かよ……

「まぁこれは半分は冗談なのだが、でも私は信じているよ。君はそんなことにはならないって。必ずや勝利してくれるって」

「……だといいですね……そう願いたいです。そうなるように頑張りたいです」

 でも、半分は本気なんだ……

「どうしても思いつかなければ私の為でも良い」

「そ、そうですね……思いつかなければそうします……」

「ふふふ、そうしてくれ。それとももう誰か思い当たる人がいるかな?」

 誰かのため……やっぱり告白されたことを思い出す。あの時の気持ちが追いつめられた時に効いてくるのかもしれない。

「さて、雑談はこのあたりにして、これで全ての講義は終わりだ」

 そして最後にサングラスを外した町田先生が僕を抱きしめながら言う。

 ああ、やっぱりそうだったんだ……なんか大人の人の香りがした……

「私にはこれぐらいしか出来ないけど、絶対に最後まで諦めないで死なないで生きて帰ってくれ。ここまでのカリキュラムをなんとか消化出来た君なら絶対大丈夫です。自信をもって臨んで下さい」

「……はい……保証は出来ないですけど、出来る限りやってみます」


 それから三日後、太平洋に張り巡らされた各種センサー網が水中を北上している未確認な何かを観測して警報を鳴らし、急行した早期警戒船が距離を取りながら張り付いて位置をリアルタイムで通報する。その測定結果から本土来襲は二日後と予測され、準備が急ピッチではじめられた。

 この迎撃作戦(フタタビ作戦と名付けられた)を成功させるための様々な方面との会議、段取りの打ち合わせを終えていよいよ出撃準備に入る。

 しかしこんな状態で本当に勝てるんだろうか……

 逃げたくなる気持ちを抑えて、とうとう上陸予定日を迎えた。

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