第18話 甲太郎、特訓
次の日、町田先生にサイガーマシンに乗って戦う決意をしたことを伝えると、「……そう、ありがとう……」と言葉少なに答えた後にパンフレットを渡される。そこにはこれからの流れに訓練の内容と、その施設の紹介が書かれていて、施設内地図には『動きやすい服装に着替えてここに集合☆』というメモが貼ってあった。
その日の放課後向かった先は研究所の端にある本格的な訓練施設だ。
少し迷いながらも指示された所へ着くと、迷彩柄の軍服を着て帽子を被ったガタイの良い女性が待っていた。ミラーのサングラスを付けているので顔は良く見えない。さらには手に竹刀まで持っている。昭和かな……
「よく来たな、芹沢ァッ!」
その女性が開口一番、竹刀で地面をバシバシ叩きながら叫ぶ。
「貴様の訓練を仰せつかった教官のまち……マチルダだ!これから二週間で立派なサイガーマシンのパイロットに育成してやるから覚悟しろ!」
また激しく竹刀で地面を叩く。
……あれだけ硬い気持ちで決意したのに、もう挫けそう……
「ここでの訓練はまず体力だ!しかし、体力自体も大事なのだが、精神面でも体力は大事だ。体力がないと疲れた、しんどい、痛い、もういいかなとなって、心が折れるのだ!そして、一番大事なGに慣れる訓練だ」
「は、はいっ!」
「返事は簡潔に!」
「はいっ!」
「航空機……サイガーマシンの操縦はかなりの部分が自動化されているが、機体の挙動に伴うパイロットにかかるG……即ち加速度だけはどうしようもない。普通に暮らしている分には重力加速度以外はほとんど感じないからな!」
「そんな3Gとか9Gが掛かって視界が歪み、内臓が潰され、血液が偏る中でも冷静に正しい判断して間違えない操作をしなければならない」
「はいっ」
「それにも絶対に折れない心、鉄の意志、極限状態での気持ちの支え、動機などが必要だ!では走るぞ!ついてこい!」
こうして始まった僕の特訓は、まずは体力作りと、そして座学。
体力作りはとりあえず、ただ走る、走る、走る。座学では分厚いマニュアルを何冊も渡された。初級・中級・上級から実践、整備、格闘、兵装、困った時のFAQなどなど。
……これ、全部読んで理解すんの……!?
配られたその量に呆れたり驚いたりしていると、
「安心しろ。さすがにいきなり全部は無理だから、とりあえず大事な所だけはしっかり理解すればいい!」
とか言われたけど、この1/3としてもかなりの量だぞ……?
「芹沢のヤツ、何してるの……?」
「あのサイガーマシンを操縦するための大型特殊可変なんちゃらっていう長い名前の免許を取るために訓練しているらしい」
「そうか、そりゃ大変だ……」
「……」
普段は解放されていない場所なのだけど、付近で一番見晴らしが良いからという理由で屋上を特別に使わしてもらって、航空機のコクピットを模した模型を持って、乗っている時にキャノピーから遠景がどう見えるかの訓練をしていた。はたから見れば遊んでいるようにしか見えないが、大真面目な訓練である。
その訓練に付き合ってくれてるのは他の編集メンバー+1の南原さん荒砥と竜崎と早乙女。
といっても、ただ見ているだけだけど。竜崎は見てすらもいなくて、ただ携帯をいじっている。それでも付き合ってくれてるのは変に律儀だ。
まぁでも、誰かに見られているってだけでも気持ちが違う。サボれないし。
「疲れたのでちょっと休憩……」
「おつー」「お疲れ様ー」「お疲れ……」「……」
早乙女がそう言って缶ジュースを渡してくれた。
「さんきゅ」
一口飲んで一息つく。そんな様子を見て南原さんが聞いてきた。
「普段は他にどんな訓練してるの?」
「えっと、とりあえず基礎体力付けるために走らされてるんだけど、教官が竹刀持って自転車に乗って追いかけてくるので昭和かよwwwって思いながら走ってる」
「昭和www」
お約束の昭和ネタにクスクスと笑ってくれた。
「それから座学にシミュレーターで操作の訓練。特にGに慣れて・耐えて意識を失わずに操作する訓練。呼吸法がどうとかあるけど、最後は気持ち、気合、気迫だってw」
「マジでッ!?」
早乙女が驚く。
「だよね。僕も驚いた。なんかもっと決められた大丈夫な方法でもあるのかと思ってた」
「へぇ……大変だ……」
耐G訓練はグルグル大きく回されて更に(縦にも横にも)回される。
そんな大きなGが掛かる状況でも冷静に見て判断して正しい操作・操舵・操縦を行い、戦闘が出来るようになる、そういうのが訓練の基本になってる。
万が一、機械的な故障でアシストが一部、ないしは完全になくなった状態でも自分だけでなんとかしなければいけないシチュエーションもある。そういう時の為の訓練もあったけど、そこまでなるとまたかなりアナログで、気持ちとか根性とか、こんななんでも自動化されてる世の中でも最終的に根性論になるのは不思議だった。
それからもまた何日か、そんな特訓の日々が続いた。
正直、ちゃんと出来るか不安しかないが、無駄にはならないと信じたい。
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