第31話 運命の出会い

 シミュレーターによる合体訓練に並行して座学の授業も始まった。

 ちなみに、授業・訓練はほとんど町田先生が行っている。そうでない場合は専用に開発された教育用AIがやっている。学校の授業の後にこの授業とはかなりお疲れ様だ……

 まず初めに分厚いマニュアルが6冊渡された。各機個別の初級編、応用編、戦闘編に、共通のダイ・サイガー操作・運用・大図解編とダイ・サイガー戦闘編に、非常時・福利厚生編。

「……これ、全部読むんですか……!?」

「まぁ、要点だけ抑えればだいぶ減るから」

 ついこの間、僕も同じ事思ったっけ。

 南原さんも竜崎も驚いているが、確かにこの分量を見るだけでも気が遠くなる。

 ただ、6冊フルセットで貰ったのは竜崎と南原さんだけで、荒砥は前もって全部もらってるし、僕は個別マシン用のと非常時・福利厚生編はもう持っているので、今もらったのはダイ・サイガー操作・運用・大図解編と戦闘編の二冊だけ。

 非常時・福利厚生編は、かなり地味な内容だ。

 前半の非常時編は、機内での応急処置の方法から、もし機体を放棄して脱出しなければいけない場合の機密保持のやり方とか脱出後のサイバイバルの仕方とか書いてあり、機密に関わるパーツの取り外し方や、爆破投棄の手順、自爆装置についての項目まである。これ、言及されてないけど、パイロットは本当に脱出できるんだろうか……?という疑問も沸くような方法まで載っていたが、気にしないことにした。

 後半の福利厚生編には給料やらケガをした場合、そのリハビリや死亡……つまり戦死した時の労災や恩給について書かれている。どこまで労災と認めるか、認めないかのケースの説明とか。

 一応、公務員扱いなので給料もちゃんと出る。まだ高校生の身の上なので給料の高い安いは良くわからないが、命を張ると考えると安く感じてしまう。ただし、各種の様々な危険手当が付くので全部だと相応の額になるみたいだ。ただ、恩給はかなりの額なので、これだけあれば妹のこれからの人生、困る事はないだろう。それから遺書と遺言状の書き方。僕はもう書いてあるからいいのだけど。そして最後に承諾書が挟んである。

 ここに限らず全体に最近良く使われているフリー素材の可愛いイラストが使われていてほのぼのとするのだけど、書いてあることは結構ハードなことばっかりだ。


 一番後発女子二人の訓練は僕と同じく体力作りと操作の座学、そしてやっぱりGに慣れることからはじまっているらしい。一般生活だとほぼ体感することのないGのある状態でも正確で確実な操作が出来るようにならなければいけない。その為に何をやらされたかというと……突き落とされたり回ったり呼吸法とか、その他いろいろ。荒砥はシミュレーターで個別のマシン操作の習熟と戦闘についてやってるらしい。

 僕は対G訓練と座学は終わってる事として、相変わらず体力作りと(ここだけ4人合同の)ダイサイガーの戦闘動作について。


「戦闘は相手をよく見て、展開を予想し、距離に応じて適切な兵装を選んで、臨機応変に対応して、迅速に決断しなければいけません」

 ダイ・サイガー戦闘編の座学の該当テキストのページを開いて、巨大ディスプレイに表示されているダイサイガー内部図解に向けて指し棒を使って説明している町田先生の話を聞く。

「特に次に想起される戦闘は前回の様に一度目の経験を生かして決戦を挑む、とはなりません。初見で対象を分析して対応して勝ち筋を見つけて勝利を収めなければなりません」

 そんな器用な事が本当に出来るのだろうか……と、真面目に考え始めると胃が痛くなるのであまり意識ないことにする。

「さて、この機体には現用兵器から、この機体の為に開発された特殊な武器など、様々な兵装が装備されていますが、必殺技とおぼしき攻撃方法も備えられています。テキスト130ページの必殺技編を開いてください」

 そう言いながら画像を切り替える。

「ただし、今の所この一連の技は一度きりしか使用できませんから、発動させる場合はここぞというタイミングを狙って使用しなければいけません。……ですが、全ての工程を成功させることが出来たならほぼ確実に撃破することが出来るでしょう。何せ必(ず)殺(す)技ですから」

「タイミングというのは、具体的には……?」

「外れないように、確実に命中させるには、前もって弱らせる、足を止めさせる、ですね」

「なるほど……」

「そして、この技を完成させるには、1.拘束、2.弱体化、3.破壊、の三段階の手順を踏む必要があります。必ずしもこの三つの工程を成功させる必要はありませんが、威力を最大限発揮させるように命中させて、確実に撃破しようとするなら、三つ全てを成功させた方が良いでしょう」

「もし外れたら……?」

「……あなた達なら必ずこの必殺技を適切なタイミングに完成させて、今回も必ず勝利してくれると信じています。だから、落ち着いて、正確に、確実にね」


 ……ふぁ~~、……やっと一日が終わった……

 この合宿中、一番ほっと出来るのが、この晩御飯の時間……

 ここ何日か、学校がある日は午前中授業へ出て、午後からはそのまま施設に直行して、この時間まで体力向上、操作訓練、座学でヘトヘトになった所で晩御飯食べて風呂へ入ってやっと一日が終わる、そんな生活。

 広い食堂に僕と荒砥の二人でもさもさと晩御飯を食べる。女子二人は先に食べ終わったようだ。もう少し早い時間なら基地の職員さんでいっぱいなんだろうけど、僕たちはいつもこの閑散とした時間に食べている。

「…………」

 疲れ切っているのもあるけど、やっぱりこの人は二人だといつもより無口だ。食べ終えるとすぐに食堂から出て行ってしまった。残った一人でゆっくり孤独に食べてると着替えが終わった、南原さんがやってきた。

「今日も疲れたね……」

「ほんとほんと……もうヘトヘト」

 そう言って隣に座って、ジュースサーバーから汲んできた飲み物を飲む。

「荒砥君は部屋だとどんな感じ?」

「……ほとんどしゃべらないw」

「そうなんだ!学校だとそこまででもないのになー」

 実は、男子部屋・女子部屋で二人ずつ分かれて合宿している。

 これもメンバー同士のコミュニケーションを深めるためらしい……けど、荒砥とは初対面の時よりはマシにはなったと思うけど、そこまで仲良くなった気はしない。

「女子部屋はどんな感じ?竜崎とは?」

「あーー、うん、まぁね……」

「そっか……お疲れ……」

 それだけで色々察してしまった。かなり大変そうだ。

「……竜崎さんって、意外と……私より体力がないので驚きました」

「……まぁ、ああ見えて中学の後半は引きこもりだったしね……」

「え!?そうなんですか!?」

「……うん、まぁ色々あったみたいで」

「今の竜崎さんからはまったく想像つかないね……毎回、走り込みのたびにヘロヘロになってるよ。それでも気力だけで走ってる。私とあんまコミニュケーション取らない……取れないのは毎日完全に疲れ果ててるのもあると思う」

「そっかぁ……」

「でも、あんなボロボロな状態でも最後まで走ってるのを見ると、人の気持ちってすごいんだなって」

「…………」

「それでも、この合宿が終わるまでには仲良くなってみせるよ!合体訓練も成功させて!」

「僕も必ず成功させるよ、頑張ろう!」

 この人はどこまで言っても前向きだなぁ……


 そんな合宿訓練も終盤になったある日の夕方……もうすぐ夜にもなろうとする時間。

 携帯に差出人不明の謎メールが着信した。

 そこには日時と場所だけが書いてあるだけ。それもこれからたった1時間後。

 どうする…?どうしよう?これが罠とかだったら、完全に終わりだ。

 そうでなくてもあからさまに怪しい。

 しかし待ち合わせ場所までの所要時間を考えるともう出なければいけない。

 かなり迷ったが、意を決する。

「ちょっと出かけてくる」

「……いってら……」

 イヤホン付けて携帯いじってる荒砥にそう言って出かける。

 指定された公園にあるベンチに座って待っていると……街灯を背に人影が浮かぶ。

 そういや前にもこういうシチュエーションがあったっけ。

「こんばんわ。はじめまして……ではなく、二度目ですよね……?」

「……はい、そうです……改めまして、こんばんは」

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