第30話 波乱の合宿訓練開始!
竜崎は……虚無。そんな表情だった。
南原さんは顔を真っ赤にしてまだもじもじしている。
まぁ揉めてた理由も実際に見るとわかる。身体のラインにピッタリで二人ともエロさ大爆発だった。正直、まんま裸より……かもしれない。
特に竜崎は元から高1離れした体格なので……なんかすごく、すごかった。
「よ……良く似合ってるよ、二人とも……」
「う、うん、そうだね……」
とりあえず褒めてはみたものの、僕と荒砥、二人とも目のやり場に困って目をそらす。
「……やっぱり恥ずかしい恰好なんだーーー!うわああああーーーー」
そう叫びながら南原さんはすごい勢いで走っていってそのままタラップを駆け上り、サイガー3のシミュレーターの中に姿を消した。
「…………」
竜崎は特に返事をすることなく、相変わらず虚無で無言のままシミュレーターに歩いて行った。
この場合、なんて言えば正解だったんだろうか……?
ちなみに、スーツの色は僕が赤、荒砥が青、黄色が竜崎、そしてピンクが南原さんという具合の戦隊ヒーロー的な配色になっている。
「まったく、最近のJKは弛んどるな。恰好一つであんなに大騒ぎするとは。しかし竜崎はさすが、今やすっかり絶滅したヤンキーだ。まったく動じてない。面構えが違う。南原も見習ってほしいものだ」
「北関東辺りにはまだいるんじゃないですかね……?関東制覇を目論む特攻服を着てバイクに乗ってパラリラ言わせながら暴走するヤンキーみたいな人たちが……」
かなり勝手なイメージで北関東を語る。
……しかしあの虚無は本当にそうなんだろうか……?と思いつつ二人を見送った後、残りの男子二人もシミュレーターに乗り込む。乗り込んでしまえば南原さんも竜崎もかなり落ち着いたようだ。まぁ、どんな格好していても誰にも見られないからかな。
『サイガーマシン1~4各機、各人、自機のコクピットに座りましたね?』
『はい』『はい!』『はい……』『はい』
『では訓練をはじめます。まず、サイガー1、サイガー3の合体、そしてサイガー2、続いてサイガー4、サイガー5と合体させます。ただし、サイガー5だけは今まだパイロットが決まっていないのでオートになります』
『『『「了解しました」』』』
『それでは、訓練スタート!』
サイガー1・サイガーファイターと、サイガー3・サイガーアタッカーが前後に並んだ位置関係で水平飛行しながら最初の合体プロセスの訓練を始める。
『第一段階、サイガー1、3のドッキングを開始してください』
スタートと同時にHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に映像が映し出される。
……が、前を飛ぶサイガー1、サイガーファイターのコクピットからの視界だとただただ広い高度1万1000mからの青空がひたすら見えているだけだ。ただし、後方モニターにはかなり遠くにだけど、点のようなサイガー3、サイガーアタッカーが見える。3~5を載せた輸送機はかなり後方にいるためにこの位置からだとまだ見えない。
『まず、距離を詰めていって下さい。アタッカーのスロットルを引くだけでいいはずです』
『了解』
その言葉と共に、水平飛行しながら加速して近付いて来るサイガーアタッカー。そこまでは問題なかった。
『それでは1・3の合体シークエンスに入ります』
「了解。ドッキングサーチャー同調初め!」
『レーザーサーチャー発信』
「相対速度コンマ780」
『進入角度が合ってない!?』
「速度上げてっ!」
『少し高度下げて!?』
ファイターが速度を揃えるためにスロットルを絞って速度を下げると同時に高度も下がり、アタッカーは速度を合わせる為に速度を上げると高度も上がる。
「いやいや、そうじゃなくてっ!」
『このままじゃ……っ!!』
「あっ」『ああっ!』
ガンッガツンッッ
最後はファイターの後部とアタッカーの機首部分が激しく衝突して、一回目の合体訓練は見事な大失敗で終わったのだった。
「あんたたち何やってんだよ!!」
「…………」
これと同じパターンの失敗を何度か繰り返した後、一旦休憩することになって、それまで出番がさっぱり回ってこなかった竜崎がとうとうキレた。サイガー2のシミュレーターから転がるように降りてきて、サイガー3のシミュレーターの中で疲れてぐったりしている南原さんの所へ走っていって問い詰める。
サイガー1とサイガー3の合体が成功しないと、その後の訓練が出来ないからだ。
「何度同じ失敗してんだよ、真面目にやってんのか?やる気あんのか?ああ?」
「……ごめん……」
「ごめんじゃねーだろ!もっと気合入れてやれよ、時間ねーんだぞ!?」
「……あの……その……ごめん……ちょっと顔洗ってくる……」
喧嘩を止める為に僕も現場に駆け付けたのだけど、シミュレーターからとぼとぼと歩いていく南原さんを見送っただけだった。
「南原さんだけじゃないんだ。僕ももう少しうまくやれれば……」
「……チッ、待たされる側にもなってみろっつーの……」
ブツブツ文句を言いながら、手すりや壁なんかに蹴りを入れながらまた自分のシミュレーターに戻る竜崎。……この間、竜崎宅で見た女の子とはやっぱり別人なのでは……?実は妹とか姉だったり……?いや、一人っ子だったはず……とかいう感想を持ったけど、ここは黙っておく。
しかし、休憩を挟んだ後にも何度かトライしてみたものの、結局解決することなく時間になったので今日の訓練はとりあえず終了することになった。
「問題はサイガー1とサイガー3の速度差にあります」
その日の最後の反省会で開口一番、町田先生はそう切り出して、失敗動画の再生を始める。コクピット視点だけではわからなかった、3Dモデルでも再現されていて位置関係もわかるようになっているのがありがたいが、正直見るに堪えない。
「一般的に飛行機というのは水平飛行中に速度を出そうとして出力を上げる→浮力が大きくなって高度があがる、逆に速度を下げようと出力を抑える→浮力が小さくなって高度が下がる。つまり水平飛行をしている場合、速度を上げつつ高度を下げる、速度を下げつつ高度を上げるのは難しい作業なのです」
「まぁそれでも長い距離を加速して飛び続ける場合ならフラップ等を調整して水平飛行を維持できるのですが、今回の合体のように短い距離で速度・高度を調整するために急加速・急減速する場合はそうもいきません」
要するに、高度を合わせようとすると速度が合わない、速度を合わせようとすると高度が合わない。この訓練しててわかったことがあるのだけど、一部SFな超エネルギー源で動いている機体とはいえ、航空力学によって空を飛んでいる以上、物理法則には逆らえない。
「そしてサイガー1は戦闘機、サイガー3は攻撃機なので、得意な速度にかなり差があります。これが逆……つまり遅い飛行機に後ろから早い飛行機が接近するならかなり難易度が下がったはずなのですけど。ざっくり言うと、速度の遅い飛行機で速い飛行機に追いつこうとするのは大変ということですね」
更には前を飛ぶサイガー1の生み出す後方乱気流によっても後ろから接近するサイガー3の機体は安定しない。そんな説明の間も動画は流れ続けている。ある程度接近して速度差を小さく出来れば自動で調節してくれるのだけど、一度もその工程に入ることがなかった。
まぁよく考えれば当然かもしれない。
同じレールの上を走っている列車の連結作業でもゆーっくりゆーっくり前進させて連結させる(しかも片方は止まっている)、そんな作業を空中で空を飛びながらやろうというのだ。ロボットアニメのように謎の飛行能力を持った何体かが、衝突するような勢いで接近してガチャーンガチャーン、はい、完成!みたいに、お手軽にはいかないようだ。
そんな何度かの失敗動画を最後まで見た後、手を上げる荒砥。
「はい、荒砥くん」
「……自動化は出来ないんですか?」
「現在、自動化プログラムの開発中なのだけど、なかなか難航していてね。間に合いそうにないの」
「そうですか……早く自動化できるといいですね……」
「まぁ、今日はこれぐらいにしましょう。一回目なのでこんなもんです。今日はしっかり休んでください」
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