第29話 DXダイ・サイガー合体セット

「改めて説明します」

 広さで言えば学校の教室ほどの、かなり馴染みのあるような部屋に移動して、これまた学校の教室にある黒板……ほどもある大型画面に向けて説明を始める町田先生。

「これはさっきほど見てきた合体プロセスを録画した動画なのですが、ここに今回の作戦を成功させる上での大きな問題があります」

 説明が始まるとともに、大型ディスプレイに表示されたのはさっき見てきたサイガーマシンの合体動画。さすがに何倍速かにしてるっぽいので実際よりかなりスピーディーだ。

「敵基地のあると推測されている小笠原沖まで大型輸送機でサイガーマシンを運ぶのですが、当然そこにはあの格納庫にあったようなガントリークレーンはありません。そもそも、着陸できるほど滑走路が長い空港もありません。そこで考え出されたのが空中から海上へ直接各サイガーマシンを放出する方法です」

「放出……?してから、どう合体するんです?」

「高度1万1000mから放出して自由落下で海面に落着するまでの、およそ47秒の間にこの合体を終えるのです」

「はぁっ!?……そんなの絶対に無理じゃないですか…!?」

「設備が整った格納庫でもあんなに手間がかかったのに、それを空中で……?」

「いえ、一応シミュレーションでは成功しています。ただし、今さっきのような5から2の順番の合体ではありません」

 そう言って画面を操作して新しい動画を映す。

 いくらシミュレーションで成功してもなぁ……何をどうやってもそう変わらないんじゃない……?と思ったのだけど、よく見るとなるほど順番が違うみたい。これはサイガー1→3→2→4→5の合体で、ほとんどまったく逆。

「自由落下と言ってもサイガー1と3は自力で飛行出来るので、問題はその他。ですが、ロケットモーターを増設したりパラシュートを装備して降下速度をなるべく遅くする工夫もしますので、実際は47秒よりもう少し長いですね。その間に合体を成功させなければなりません」

 それにしても厳しいんじゃ……

「当然、失敗すると海面に激突です。いや、合体を中止すれば激突しなくて済みますが、空中から投下するという作戦の性質上、チャンスは一度きりしかありません。なので、そう思って作戦遂行を心がけてください」

 無茶な事を言う……と思いながらも一通り話を聞いて、では具体的にどうするのかという話になって、まず大きめのプラモの箱みたいを5つ渡された。箱自体は完全に無地の真っ白い箱である。

「一人一セット貰ってください。貰ったら中身を確認してね。もし足りないパーツがあれば言ってください」

「足りないパーツ?」

「中身を見ればわかります。良く説明書を読んでね」

 そう言われて開けてみると、サイガー1~5の変形可能モデル5体とその説明書二冊で、いわゆるデラックス・ダイ・サイガー合体セットだった。

「スケールは1/350です。なので合体させるとおよそ34cmになりますね。急遽3Dプリンターで作りましたので、あんまり頑丈ではないので丁寧に扱ってください」

「へー、すごい!」

「こうしてさっき見たのがおもちゃになってるのは、面白い……」

「これで、しっかりイメージトレーニングをして、自分の乗る機体だけでなく、他の人の機体がどう変形して、どことどこがどう合体するのか把握してください」

 そんな説明をしつつ、背後の画面では3DCGで再現された合体動画を流し続けている。なんか、アニメ本編で見た後に玩具のCMを見せられたあの感じかもしれない……

 説明書は合体変形の手順が載っている一冊と、今回の作戦の概要が書かれているのが一冊。

 とりあえず、5体取り出して変形させてみる。なるほどよく出来てる。一見するとみんなでブンドドして遊んでいるようにしか見えないけど、急造でも侮るなかれ。完全変形で、さっきの合体プロセスを再現出来る。このままオモチャとして売れるんじゃなかろうか。ただ、色は塗ってなくて、箱と同じ無地で真っ白。なので塗装したくなる。

 一通り、説明書と動画を参考にみんなであーでもないこうでもないっておもちゃを変形させて合体させて遊んd……じゃなかった流れを把握した後、大型訓練施設に移動する。


「これがサイガーマシンシミュレーターです。コクピット内は完全に実機と同じです」

 かなり広い部屋にコクピットを模した大きな五台のマシーンが並ぶ。微妙に大きさが違うのはマシン毎にコクピットが違うから。僕はこの前の時に使わせてもらっているけど、その時は1のだけあって、他はスペースが空いているだけだった。

「番号が打ってあるシミュレーターに各自乗ってもらう訳だが、その前に……」

 どさりと大きめのごわごわした袋が三つ置かれる。

「これに着替えてもらう」

「これは……?」

「サイガースーツ。サイガーマシンに乗るためのスーツだ。芹沢も着てたヤツだな。当然二着は女性用。ちゃんと名前が打ってあるから自分の名前のを着るように。事前のサイズ申告の通りに作ってあるのでピッタリなはずだ。まさか虚偽申告してないだろうな……?」

「ちゃ、ちゃんと、正直に書きましたよ!?いやだなぁ、先生!」

「…………」

「そうか、なら大丈夫だな。では私は女子更衣室に南原と竜崎を連れていくから、芹沢は荒砥を男子更衣室へ連れて行って、ついでに着るのも手伝ってやってくれ」

「わかりました。じゃぁ荒砥、行こうか」

「了解」

 男子二人の着替え自体はかなりすぐに終わった。手伝うって言ってもそんなに手間な事じゃないし。しかし問題は女子だった。待てど暮らせど来ない。女子の更衣はそんなに時間がかかるんだろうか……?そう思って待つこと更に10分。

「おら、しっかりしろ!そんな事で恥ずかしがってどうする!」

「だ、だって……これ、ほとんど裸じゃないですか……」

「…………」

「それに先生なんだから、生徒のコンプライアンスは守って下さいよ!?」

「いや、何も問題ない。ここは学校ではないので君たちの先生ではない」

「そ、そういう問題じゃなくって……!」

「…………」

「ちなみに、そのスーツは一着が一軒家ぐらいのお値段で、生命維持装置を付ければなんと宇宙にまで行ける、お高い優れモノなのだぞ?あー、羨ましいなー、私も着れるなら着たいのになー」

「私たち、そんな高価なモノ着てるんですか……!?じゃなくって、値段とか性能の話をしていなくてですね!?」

「…………」

 ようやく着替えが終わった女子二人のようだが、何やら揉めているっぽい。そんなやり取りが通路の向こうから聞こえてくる。

「いや、でもだって……」

「諦めろ。新体操のレオタードより全然マシだし、陸上選手なんてもっと露出が多いぞ?あれと比べればまったく大したことないじゃないか?水着と思え、水着と」

「そうですけど、でも……」

「…………」

「ほら、行くぞ!時間がないのだ!」

 やっと、通路から町田先生に腕を固められて引き摺るように連行される南原さんと竜崎が現れたのだが……

 これが女子用のサイガースーツ……!?

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